第5話

 小宮山は綿密に計画を練ることにした。


 今、彼が行おうとしていることは、決して許されるものではない。いや、人としての道理に反する行いだ。しかし、バレないようにすれば、ここから先、小宮山の身は一生安泰だ。


 会社には、体調が悪いので今日から二日間休みます、そんな方便を使い、有給で休暇を取ることを告げた。今まで、休みなく働いていたので、有給休暇はたくさん余っている。完全犯罪を成し遂げる、小宮山の脳はその考えで一杯になった。


「悪いのは俺じゃない。あいつだ」

 一人、大学ノートに向かいながら、何度も何度もその言葉を繰り返す。寝ていないので、瞳はさらに汚れている。「俺の密かな、スリリングな楽しみを奪ったんだ。天罰を……そう、天罰を下さないとな」


 小宮山は元々、都合が悪くなるとなんでも人のせいにする性格だった。自分は何も悪くない、俺のせいじゃない――自己防衛意識が高い。そして、自分が可愛くてしょうがなかった。


「俺の趣味を奪い、生活まで乱そうとしたあの女を絶対に許さない。殺してやる、殺してやる……」


 ひたすら、春野由奈を殺めることを考え続けた結果、その日の晩には計画は完成してしまった。


 翌日、完全犯罪を成功させるために必要な道具を自宅近くにあるホームセンターで買い揃えた。


 品物は、ピアノ線、ニッパー、そして「超頑丈」という売り文句だったガムテープ、この三つである。


 小宮山の計画はこうだった。


 まず、由奈に対して、要求された七十万円を約束通り払うことを伝える。それだけでは由奈は信じないはずだ。だから、茶封筒に入った実物の札束を見せ、それを渡す。場所はどこでも良い。この時点ではまだ、彼女を殺さないのだから。ただ、時刻は、最低でも夜九時は越えなければならない。この時間帯になれば、一定の洋服屋やかばん屋は閉店する。また彼女は全く酒が飲めない。クラブやホストに貢がれる心配も、渡した金がすぐに由奈が求めるものに化ける心配もなくなる。


 次に急いでタクシーに乗り、由奈の家へと向かう。彼女が××区△町のとある賃貸マンションの一室で暮らしていることは、既に特定済みだ。防犯カメラに映らないように部屋の前まで行き、そして室内に侵入する。鍵をコピーし、合い鍵を作成しなければならず、その下準備は当日、ヤツの隙を見計らって行わなければならない。


 自宅に不法侵入して小宮山が何をするのか春野由奈を殺害する装置を設置するのだ。ここで、ホームセンターでの買い物が活躍する。


 まず、玄関から少し離れたところに、ちょうど足首が当たる高さにピアノ線を張る。そして、室内のブレーカーを落としておく。


 帰宅し、電気がつかないと、由奈は落ちたブレーカーを直しに行くだろう。暗闇にまだ慣れていない状況で、廊下を歩く。そして、ピンっと張られたピアノ線に足を取られ、そして転倒。由奈は床に頭を強打し――。


 あとはかばんに入っている七十万と殺害に使ったピアノ線を回収し、立ち去るだけだ。


 かなり、単純な殺害方法だ。しかし、単純だからこそ、回収に時間がかからないといった利点がある。


 計画実行は1週間後の夜。

 緊張はしていない。むしろ、興奮する。

 小宮山は甲高く笑い、ベッドに自らの身を投げ、そして、深い眠りについた。

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