第11話 四季《夏食・冬痛・春狂・秋小》

〈前書き〉

 詩・ポエムです。




 にくくすり悪夢どくで創った四つの夢見る世界。

 眠りにつく前、まばたきの合間に、かちかち動き始める。






 ぎらぎらとした夏の太陽が照らす――人工的に作られた島へ、僕は空腹をおともに降り立つ。


 白米の海岸を歩くと、熱くてからいカレーの波が、砂浜をどろりとしたにごった色へ染めている。

 僕は隠された赤い七つの福おまもりを掘り出して、海味うみから身を守る。

 あのスパイシーな緑の海に浮かぶのは、肉片と細切こまぎれの植物やさい

 そこに置き忘れた月桂樹の笹舟ささぶねが、プカプカと気持ち良さそうに、海上へとただよう。

 ああ、甘いルーに慣らされた者には、こくな世界だ。

 ヒリヒリとした刺激的な潮風しおかぜが、体にまとわりついて、服は汗ばんでいく模様。

 残念ながら、ココナッツミルクをいくこぼしても、ちっとも海水スープは変わらない。

 シナモンの流木りゅうぼくが、波打ちぎわに打ち上げられたら、決意の合図。



 帰ろう。大人になったら、訪れよう。今の僕には早すぎる。



 島から逃げようとしたら、白い隕石ゆでたまごが降ってきて、出口さらふさぐ。

 トッピングの流れ星。パカリと割れて中身が見える。


 茶色い岩石からあげが海へ投げ入れられる。

 トッピングの投石。ペペペッ、塩と胡椒こしょうのスパイスで砂まみれだ。


 逃げ回っていると、石ころらっきょうつまずく。

 トッピングの転ぶ罠。酸っぱくて甘い仕掛けがほどこされている。


 粉チーズの砂嵐が発生したら、全ての謎を有耶無耶うやむやにされる。



 もう無理、これ以上は食べられない。

 お腹がいっぱいで、はち切れる。

 あと味付けが濃すぎる。 

 誰か連れ出してくれ。

 ここは嫌な場所だ。



 ナンのボードで波乗りしながら、輝く太陽に祈る。



 ――そう、空へ向かって、僕は救いを求める。



 すると、湯気ゆげの雲から銀のスプーンが現れて、僕をすくい上げる。


 ようやく救助が来た、来た、来た……!

 僕の舌は、ピリピリ・限界を越えているんだ。


 熱い高揚こうよう感と共に、肉体は上昇する――僕は島から脱出だっしゅつした。



 天上から、今までいたあの島を静かに見つめる。

 そして、手と手を合わせて……



「ごちそうさま」







 生き物が息絶えて眠りにつく白い冬。

 呼吸をするたび、白いブレスが空気をにごらせる。


 ただ一つの喜びが九のかなしみをかしていく。

 ただ一つのいかりが九の楽しさを台無しにしていく。

 感情を打ち消してもさびしさは変わらない。

 こごえるようなさみしさが、心の真ん中に北風を送り付ける。


 寒い、寒い、冬よ。

 冬よ、終われ、終われ。

 寒い冬が終われば、暖かな目覚めの季節がやって来る。



「おはよう」



 まだ言えない言葉。

 口に出さず、心の中で永遠にとなえ続ける。

 貴方へ初めての言葉を伝えるその時までは、白い苦痛の中で、私は眠りにつく。


 さて、貴方と私、先に目蓋まぶたを開くのは……

 






 春は狂乱。

 暖かな陽気にさそわれて、くるったうたげ此処彼処そこかしこで始まる季節。



 ――何食わぬ顔で小鳥が満開の花を落とす。落とす。

 ――樹の落とし物は花見酒にれて沈む。沈む。

 ――美酒にった花は生まれ変わる。変わる。

 ――酒乱のみにくい一輪の花が咲いた。咲いた。

 ――開花を喜び、とりさかづきむ。酌む。



 ひどい唄が宴で流れる。

 むしり取った花弁を口いっぱいに詰めて歌う酩酊めいていした詩人の仕業。

 心配? 心配? そんな訳がない。

 冷めた心でめるのを待つ。




 陽気が陰気になって、陰気が陽気になる。

 反転しても仕方がない。春なんだから。


 春の魔法にかかって陽気になった陰気は、気が大きくなって宴で暴れる。

 暴言を吐いて、樹をって、笑いながら割ったビンで酒をむ。


 春の魔法にかかって陰気になった陽気は、かすれた悲鳴を上げてすみちぢこまる。

 無言になって、う毒虫に驚いて、泣きながらお重をたいらげる。


 変わってしまうのは仕方がない。

 春なんだから。



 衣服を脱ぎ捨てて、生まれたままの姿になる。

 嗚呼、解放感に酔いしれてしまうのは仕方がない。なんてったって、春なんだから。

 そして、逮捕されても仕方がない。君ははだかなんだから。




 春はくるくるくるい、全てをまどわす楽しい季節。

 理性と常識を溶かして混ぜ合わせて、くるりと出来上がり。

 秩序と正常を噛みくだいてばらばらにして、くるりと完成。

 春は狂・狂・狂い、全てを忘れさせてくれる素敵な季節。



 さあ、新しいことにチャレンジしよう! さあ、いつもはけっしてやらない行動をしよう!

 大丈夫。みんな、おかしくておかしいから、目立つこともおびえることもない。

 みなで、一つの生き物になろう。皆で、普通の異常者に成り変わろう。皆で、マトモで当たり前の人生にしていこう。



「はじめまして」「はじめまして」「はじめまして」


 変わってしまうのは、悲しくて少しサミシイね……♪





 春、人は狂っても花は狂わない季節。

 宴、それは花びらが全て散るまで終わらない。

 集、人と花の間で鳥は飛び回る。






 夏と冬に圧迫あっぱくされて短い季節あき


 秋は狭い。狭いは秋。

 押される、秋。秋は、押される。

 秋は少ない。秋は減っている。秋はお腹がすいている。



 秋は腹ペコ。



 落ち葉と喧嘩けんかしている子犬に、ごはんをあげたら、秋にも赤い葉っぱと黄色い葉っぱをプレゼントしてあげよう。



「ありがとう」


 と言ってくれるだろうか?

 秋は嬉しそうな顔をして喜んでくれるだろうか?

 秋は満足してくれるだろうか?


 早く秋に会いたいね。



 


 

 歯車をとれば、停止する世界。

 時間を止めず、世界一年をケーキのように四つに切り分けて配る神様は、とても器用だ。

 但し、毎年、大きさは変わるのは御愛嬌。

 フォークでつついて、形をくずす。

 そろそろ、僕も起きないと……


  




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る