詐欺
コール村からリィア国を脱出した後の生活の話を始めると、急にフォルスは口ごもり始めた。
「あの人が、その……副業で稼いでいたんですよ」
「副業、か。やっぱりな」
シェールはティロが重度の薬物中毒で、おそらく薬物を使ってトライト家から財産を全て巻き上げたらしいという話の真相の一端に近づくのではないかと考えていた。
「そうです。本人は慈善事業だと言っていましたが……要は詐欺です」
「詐欺?」
「主に使っていたのは痛み止めですね。痛み止めをどっかで大量に仕入れてきて、混ぜ物をして原価よりかなり高く売りさばいていたんです。しかも独自の成功術とか言って何も知らない女の子にばかり売りつけていました」
ある程度の予想はしていたが、改めて聞くと酷い話にシェールは頭が痛くなる思いだった。
「……呆れて物も言えないな」
「でしょう? 僕もそんなことしないで本業で稼げばって言ったんですけど、悔しかったらてめえで稼いでこいって、それだけで……」
フォルスもあまり触れたい話ではなさそうで、再び声に悲しみが混ざった。
「一応聞いておきたいんだが、奴はそんなに薬を必要としていたのか?」
シェールは直接ティロが薬物を使用するところを見ていなかった。未だに落ち込み続けているライラに聞けば多少のことはわかるかもしれないが、ようやく立ち直れそうなライラにティロのことを思い出させるような話はしたくなかった。
「大体において薬漬けでしたよ。睡眠薬は必須で、金の続く限り煙草は切らしませんでした。痛み止めも、随分針でやってましたね。酒はたまに原液を一瓶一気に空けて地面に転がってました。ちまちま水で薄めてなんか飲んでられないそうです」
「思ったより最悪だな」
「ただ、いろんなところで珍しい興奮剤を手に入れては喜んでいたんですよね……その情熱を本当に本業に向けて欲しかったんですけど」
ティロの実態を聞いて呆れながら、シェールはフォルスも薬漬けにされているのではないかと少し不安になった。
「それで、お前はやってないんだよな?」
「やるわけないじゃないですか、あんなの見せられたら怖くて僕は金輪際やりたくないですね」
「そんなに酷かったのか、奴は……」
シェールは剣を握っていたティロを思い出した。ラディオは「薬を使っていても驚かない、そういう奴だった」とティロを評していたことが当時のシェールにはよく理解できなかった。しかし、フォルスの話を聞いて「そういう奴」と言われてしまったティロに何となく思い当たるような気がした。
「そして……そんな風にあちこち流れていって、今から1年半くらい前に突然いなくなりました。朝起きたら、僕の荷物ごと」
「最悪だな」
「そうなんですよ……路銀も何もなくてかなり困りました。その時のことを思うとやっぱりあの人は一発くらい殴っておかないと気が済まなくて」
「よし、見つかったらいくらでも殴っていいぞ。それでどうしてここに来たんだ?」
シェールは次にフォルスがどうやってティロの大まかな素性を突き止めたのかを尋ねた。
「それからは僕も必死であの人を探して、どうしても見つからなくて。それで、もしかしたらリィアに戻っているかもと思って何とか戻ってきたんです。結局あの人本名を名乗らなかったんですけど、僕を連れて行くとき着ていた隊服から上級騎士だったのとコール村関所に在籍していたっていうのだけが確実な情報で、それでコール村へ行ってあの人の書いた日誌を見つけて、ようやくあの人の名前を確認できたんです……でも、それ以外の記録がさっぱり。一体どういうことですか?」
コール村の日誌と聞いて、シェールはティロを完全に消しきれなかったことを悔やんだ。
「くそ、コール村は盲点だったな……ちなみに何か奴についてわかりそうなことは書いてあったのか?」
「別に、何も。今日は雪が降ったとか、今日は猪が出たとか、そんなんです」
「平和だな」
「コール村ですからね。それで、どうにかこうにか新聞社に潜り込んでリィア軍関係の古新聞を漁ろうと思いまして。あの剣の腕ならどこかに何かが残ってるんじゃないかって当てずっぽうでしたけど。そしたら新聞に乗った犠牲者一覧にあの人の名前があるのを見つけました。それなのに本になったリィア戦記にはあの人の名前がない。そこで削除されてる理由を出版社に問い合わせたところ、あなたの名前が出てきたんです」
シェールはフォルスが行ってきたティロの捜索の経緯を聞き、その執念に背中に冷たい物を感じた。
「そこで、ちょっとあなたのことを調べてからここまでやってきたわけです。それで、そろそろあの人が僕を誘拐した以外にここまで名前を消されなければいけない理由を教えて欲しいんですけど」
シェールはひとつため息をついた。
「……お前が連れ回された大体の経緯はわかった。それと、俺が知っているだけの話を今からまとめて説明してやる。余計わけがわからなくなるけどな」
フォルスの疑問からそろそろ逃れられなくなってきたことで、シェールはティロについて語る覚悟を決めた。フォルスは身を乗り出して聞こうとしているが、その気持ちが果たしてどこまで続くのかとシェールは自身まで不安になってきた。
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