24話 哀しき戦争①

信夫が居ない。

靴はある。家の中を荒らされた形跡はない。

今まで通りの家から、信夫だけ連れ去られたようだった。


「ん?」


床が若干擦れていた。

僅かな擦り減りだが、これだけ出来るのには数時間同じ場所で繰り返さなければならない。

つまり、彼女は寝ている間ではなく起きている時に狙われたのか。


争った形跡もなく、起きている間に居なくなった…。


「よもや、信夫は同意して、着いていったのか…?」


しかし、今の時期に誰が…。

明日源一郎に会う。奴なら何か知っているかもしれん。万が一戦争に関わっているのならば、早々にこの戦争を止めなければならない。


_____________________


翌日


桜が舞う川辺。

1人酒を飲んでいた。

ふと桜の花びらが猪口の中に舞い降りようとした時、四つに切れた。


「…遅刻の詫び状にしては物騒だな。


    源一郎。」


「ふん、先に一献いっこん始めおった罰だ。」


「……お前、教育総監の仕事は?」


「サボった。」


「またか……。」


当たり前のように、あっけらかんと答える親友に呆れ、一杯飲む。

酒を飲もうと源一郎が手に取りまじまじと眺める。


「ほお、この時勢によくこんな上物が手に入ったな。」


「仕事の伝手でな。」


「仕事?あの無口過ぎて『木刀地蔵』と呼ばれたお前が…出世したのぉ。」


「手のつけられぬ『暴れ童子』だったお前も、今や出世頭と聞いたぞ。」


「………うん。」


ふと彼がまるで出世しても嬉しくないような、むしろ辛いような顔をする。


「任官の誘いを受けておる。」


「!」


嗚呼。これが原因か。


「……お前、戦場にくのか?」


「常闇島だ。かなり厳しいらしい。教え子が何人も帰って来ん……厭な予感がするのだ。」


「死ぬかも知れぬと?」


いや、もっと悪い。儂が儂のまま戻れぬ、そんな予感が…。」


数秒の沈黙が流れる。

源一郎の表情は変わらず、難しい顔をしている。

俺は、なんと声を掛ければ良いのか、見当もつかなかった。


「………福沢。」


故に次の言葉に、驚きを隠せなかった。


「共に来てくれんか?」


「………何?」

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