12話 幸せはガラスの上

「ん………。」


何時間寝たのだろう。

側に人の気配がした。この気配の柔らかさは…。


「エリス…さん…?」


「あら、よくわかったわね。大丈夫?」


「ぇ…ぁ…はい…。」


頭がぼーっとする。今は何も考えたくなかった。


「あの、福沢…さんは…」


「福沢さんは暫く来れないそうよ。急な大きな任務が入ったらしいわ。」


「そう、ですか…。」


少し残念だったが、同時に安心した。

彼に会わない事は悲しいけど、それ以上の悲しみを得ることはないから。


「…歩く練習、しましょうか。」


「え?」


「福沢さんが次来た時に歩けるようになりたいんじゃないの?」


「っ…。」


歩けるようになりたい。そう思っている。でも怖い。転んだ時の恐怖が強かった。


でも、歩いて彼を迎えれたらどうだろう?

福沢さんは喜ぶかな。どんな反応するんだろう?また頭を撫でてくれるかな。


「歩き、たい。」


怖かった。でもそんな思いより、歩けるようになった先の未来を見たくなった。


「よし、じゃあ始めるわよ。さぁ立って立って!」


エリスさんや森医師のために、ちゃんと歩けるようになりたい。

福沢さんに歩み寄れるようになりたい。

時々感じる彼の哀しみを癒せたら。

私ができたらいいな。そう願う。


「……頑張っているね、信夫ちゃん、エリスちゃん。」


2人が歩行練習に励む部屋の扉の外に男が1人。

森医師は一つ、彼女に話さないとならない事があり、此処にきた。だが、懸命に励む彼女にはあまりにも酷な内容だった。


「……話さないで置こうか。」


きっとそれが今の最適解。

彼女はまだただの少女。

知るべきでない事実もあるものだ。



数ヶ月後


歩行練習を重ねた結果、1人で歩いたり、軽く走るのも可能だ。しかし、福沢さんはまだ知らない。あれから彼は一度も来ていない。

最近、エリスさん来ないし、森医師も患者の対応が大変そうだ。ずっと外が騒がしかったけど、今日はやけに静かだ。


「〜〜…。」


「〜…。」


話し声が聞こえる。

もっとよく聞こうと思い、ベッドからドアの近くに行き、耳をつける。


次の瞬間、恐ろしい事を聞いた。


「これから常闇島で戦争が始まる。」


「森医師は医師として戦争に向かってもらう。」


「そして、戦争で折口信夫の力を貸して欲しい。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る