夢
私は鉄棒の前に立っている。公園によくある、いくつかの高さのものがよこに連なってならんでいる鉄棒だ。逆上がりがしたいと思ってちょうどいい高さのものを探す。しかし、ちょうどいいと思った高さの鉄棒は、十センチほどの間を開けて上下に二本設置されているので、私はそこで逆上がりをするのをやめる。こんな形の鉄棒なんて見たことがない。しかし、私は自然とそれを受け入れている。私はいくつかの別の高さのもので挑戦するが、足が鉄棒よりも上に来ることはない。変だな、昔は出来たのに。顔を上げると、父がいて、二本鉄棒が設置された場所でつばめという技をしているところだった。鉄棒は、体操の競技用の平行棒みたいにしなって、そのまま前転などしようものなら棒を握る手が、棒と棒の間に挟まれて怪我をしてしまいそうだ。
「危ないよ」と私が父に言うと、父は何やら一言二言言う。
私は手元の鉄棒に視線を戻す。鉄棒は、小学校によくあるものよりも少し太く頑丈そうで、ざらざらした手触りだった。これがしなるかな、と私は疑問に思う。
校長先生の声がした。「逆上がりができてからでいい、ゆっくり来なさい」みたいな声がマイクで拡張されて聞こえる。私はまずいな、と思って振り返る。たくさんの生徒が校庭に並んでいる。私は生徒の間をするりするりとかき分けて一番前に行く。列の一番前なんて始めてだ。
私は気付けば教室にいた。私の席は窓際の一番後ろだった。窓からは明るく、気持ちのいい光が差し込んでいる。空は夏の空で、青かった。教室は談笑する声があふれて穏やかな気分だった。私の隣には親友がいた。何かが窓の外で動いたので私はそちらを見る。窓からは別の高校が見える。別の校舎だったのかもしれないが、私はすぐに別の学校だと思った。別の学校の校舎からは白いワイシャツの生徒たちがいろいろ叫びながらベランダで何かをしている。飛行機がその学校の後ろから現れる。音はあまりうるさくない。飛行機はグリーンな水を勢いよくまき散らしながら私たちの校舎をかすめて見えなくなる。飛行機から発射されていく緑色の色のついた水は、地面に近くなるにつれて緑色が薄れていくように見えて、私は長ネギみたいだ、と教室のみんなに言う。みんなは見ていなかったので、そこまでウケなかった。隣の席の親友が、たしかに、と言う。窓の近くをヘリコプターが二台通り過ぎていく。迷彩みたいな色使いだった。私は教室の窓から下を見下ろす。窓は開いていたようだ。砂漠に生えている低木みたいな木が規則正しく並んで植えられている。葉の色は鮮やかな緑で、熱帯の植物なのかもしれないと私は思う。
私はディズニーランドにいる。みんなで観光に来ていたのかもしれない。みんなって誰だろう。家族ではないことははっきりしていたので、おそらく修学旅行かなにかなのだろうか。ピンとは来ない。ここがディズニーだということはわかっている。私はホテルの廊下にいる。ずいぶん殺風景な廊下。壁も窓も薄い。まるで高校の廊下みたいだ。窓の外を見ると、確かにディズニーだ、と私はほっとする。目の前を赤いフェリーみたいな船が通り過ぎる。たくさんの人が楽しそうな声をあげながら乗っている。手を振っている人もいる。フェリーのボディには金色の英字で何か書いてある。私は隣にいるKに船の名前を尋ねる。Kはディズニーに詳しいからわかるだろう。Kは私に何か言ったがよくわからない。もう一度窓の外を見ると、フェリーはおろか、フェリーが走っていた緑色に濁った水は消え失せ、代わりに乾いた固い土の道があった。アジアっぽい、異国の道の雰囲気がした。
廊下の先には街のようなものが続いている。やっぱり観光に来たんだ。かわいらしい色合いのヨーロッパの街並みで、どれも一階建てで、壁の色がパステルカラーの家々。街頭が等間隔に立っている。レディーレ、という曲のミュージックビデオを思い出す。私は写真を撮ろうとしたが、結局撮らなかった。
再度振り返ると、私は文化祭前の高校にいる。ざわざわと音がしている。私は友達のKとHと一緒に教室に戻る。Kは私のクラスだったんだなとぼんやり思う。教室の中には陽キャが数人、クラス展の準備をしている。いつもクラスの中心にいて、文化祭の係を引き受けるタイプの人たちだ。段ボールとビニールテープのお粗末なアトラクション。彼らに挨拶をし、現在のクラス展の準備の出来具合を見物する。陰キャは陰キャらしくぶらぶらしてこようぜ、と私はKとHに言う。陽キャ集団の中のMがお菓子のたくさん入ったビニール袋を私たちに差し出してくる。私は袋の中に手を突っ込み、一ついただく。ロータスとラングドシャと合わせたようなお菓子で、チーズの味がするクリームが挟まっている。
私はKの膝の上に座ってお菓子を食べている。Kの声や姿がいつの間にかAと混ざっている。
夜になった。私の隣には男の子がいる。覚えのない男の子だが、私の心は不思議と安心している。どうやらずいぶん前から親しかったようで、相手も私も少なからず好意を持っているようだ。男の子の声は穏やかで安心する。青っぽい光の中、彼は一つの教室の扉を開ける。教室は暗い。私はそこが実家の二階、子供部屋であることに気付く。頭上の丸いシーリングライトの常夜灯が勝手に点灯する。私はこれが夢なんじゃないかと気づき始める。私は壁のスイッチを押して電気を点ける。実家のシーリングライトはチカチカして光るまで時間がかかるのに、これはすぐに点いた。私たちは壁際に並んで座る。リラックスしている私はだらしない座り方をするが、すぐに思い直してきちんと座りなおす。Tシャツを膝にかぶせる。文化祭のTシャツ。電気は消えていた。
男の子が話し始める。「僕は耳の聞こえない生徒と廊下で出会った」いつの話か分からなかったが、私はなにも言わずに聞く。先生にそれを報告したところ、先生は、外部の生徒が入り込んでしまったのだろうと言ったそうだ。先生は注意しておくと言った。男の子は穏やかな口調で話す。
「でも、わかったんだ。その子は××年前に――」
目が覚めた。
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