第3話 治療開始

 明けて令和五年、ここから本格的なガン治療が開始される。虫けらは一月から入院し、抗ガン剤の投与を開始した。週一回の抗ガン剤投与を三回、これを一ターンとして、合計二ターン行うのだ。ただし入院するのは三日間だけ。あとは通院で治療を行う。


 抗ガン剤は点滴で投与されるのだが、長い。とにかく時間がかかる。もしこれから抗ガン剤を投与される予定の方がこれを読んでいるなら、まあ四~五時間はかかると覚悟しておいた方がいいだろう。そしてトイレが近くなる。これもまた面倒臭い。


 抗ガン剤の点滴は、抗ガン剤の名前が書かれた袋が吊るされる訳ではない。抗ガン剤は生理食塩水やブドウ糖溶液に混ぜて投与される。「随分と生理食塩水ばかり点滴するんだな」と思っていたら抗ガン剤だった、というのはいまになっては笑い話だ。


 抗ガン剤といえば副作用として髪の毛が抜けるのは有名だ。だが実際に抜けるのは髪だけではない。首から上の体毛はすべて影響を受ける。つまりヒゲや眉毛、鼻毛も抜け落ちてしまう。個人的にはヒゲと鼻毛がなくなってしまったのは便利だったが。


 それ以外の副作用となると、まず酷い便秘がある。爪の成長が止まり、胸から上の上半身に無数の発疹ができる。この発疹は厄介だ。かゆいし擦ると痛いし、顔を洗えば水が染みるし。ヘパリン類似物質を含んだ保湿クリームや乳液などを処方してもらい、それを塗りたくる以外に対処方法がない。そして塗ったからといって劇的な効果が現れる訳でもないのだ。


 虫けらは現時点で抗ガン剤をやめて二ヶ月半ほど経っている。便秘はすっかり解消されたし、眉毛、ヒゲ、鼻毛、爪は元通りに戻ったものの、まだ発疹の痕が顔にどっさりだ。オッサンなのでどうということもないのだが、若い人はかなり心理的ダメージが大きいかも知れない。家の外に出たくないと思う人も多かろう。この辺のリスクは医者は率先して教えてはくれない。聞けば答えてくれるだろうが、「こんな副作用はたいしたことではない」と考えている節がある。


 実際のところ、ガンは死ぬ病気だからな。それに比べれば顔のブツブツくらい何だというのか、と医者が考えても不思議はないのだが、人間の心理とはそう単純なモノではない。もう少しイロイロと配慮する余地はあるように思うところ。




 抗ガン剤の投与が二ターン終了したところで、ガンの患部摘出手術は四月十一日に決定した。随分間が開くのだなと思ったが、まあこの辺は病院の都合である。毎日二十四時間手術を繰り返す訳にも行かない。一日にできる手術の数が決まっている以上、順番に並ばねばならないのは仕方ないのだ。その間にもガンは大きくなっているのではないかと心配にはなったものの、最終的に生き残れるかどうかは運だしな。開き直るしかあるまい。

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