(3) 森の中へ

 放課後。

 軽く腕を伸ばしてから、前席の子の肩をそっと叩く。


「ねえ、今日も部活?」


 紅葉ちゃんはおもむろに立ち上がると、「うん。展覧会も近いから」と呟いて、手を振りながら教室を後にした。

 他のクラスメイトたちもそれぞれのペースで出て行き、何分かすると賑やかだった教室はほとんど誰もいなくなった。


 いい加減慣れてきたとはいえ少しだけ寂しさを感じながら、わたしはカバンの紐を持ちドアに足を向けた。



 高校一年生も、もう後半戦。

 この半年で休み時間に喋る友達もそれなりにできたし、高校生活はまあまあ充実していると思う。


 でも、わたしには一つだけ心残りがあった。

 それは、部活に入っていないことだ。


 入学当初考えていた高校デビュープランの中に、もちろん部活のこともあった。

 中学の頃はボーっとしていたばかりに、気づけば部活に入る機会を逃してしまった。

 だから高校ではちゃんと入部しようと考え、春には計画的に色んな所を見て回ったし、そのうち何個かは入ってみてもいいかなと思えるものもあった。


 でも、結局わたしはどこにも入らなかった。

 どの部もそれぞれ魅力的なところがたくさんあったけど、いざ自分がそこで活動するとなると、どうも具体的なイメージが湧かなかったのだ。


 最初のうちは熱心に勧誘し、校内で会えば気軽に声を掛けてくれた先輩方も、五月を過ぎた辺りから、依然はっきり態度を示さないわたしに関心が薄れたのか、すれ違っても知らんぷりをするようになった。


 高校生活を本当の意味で満喫するには、やっぱり部活をするのが最適なのかもしれない。

 だけど、どうしても最後の一歩が踏み出せず、結局またもや帰宅部になってしまった。


 今更後悔しても仕方ないけど、取りあえずどこかに入るべきだったかな。

 いつものようにそう感じながら、力強い掛け声の響くグラウンドの隅っこをこっそり通り抜け、静かな校門を出た。



 帰り道をてくてく歩きながら、これから何をしようか考える。

 なんとなく、今日はそのまま家に帰るのは惜しい気がした。


 ここは一つ、ちょっとだけしんどいけど、自分しか知らない「あの場所」にでも行ってみようか。

 くるりと踵を返すと、元来た道を引き返した。



 太平洋と東シナ海に挟まれた南西諸島のうちの一つ、「音美ねび大島」。この島が、今わたしが住んでいる町だ。

 南北に細長い形をしたその島は、丁度上下を真っ二つに分けるように町境が引かれていて、北側が「北平きたひら町」、南側が「南山みなみやま町」となっている。

 二つの町がどうしてそのような名前なのかというと、単純に北側が平地となっていて、南側は山が多いからだ。


 南山高校は山の麓にある小さな学校で、海岸通りの方向と逆向きにしばらく進むと、やがて登山道の入口が見えてくる。

 別に今から悪いことをしようとするわけではないけど、薄暗い山道を一人で進むのは正直いまだに気が引ける。


 辺りを見回し人がいないのを確認してから、わたしは恐る恐る森の中に踏み入った。

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