12
メロウが作った通り道を進み、仲間たちの姿を見つける。
「メロウさん!」
「私は大丈夫です! 早く皆を!」
ファクトは、頭から血を流しているメロウを見て、目頭が熱くなった。
この人はこんなに重傷を負っているのに、まだ他人のことを優先するのかと、今にも泣きそうになる。
だが、泣いている時間などない。
すぐにでもここから出なければと、袋に詰めた濡れた布を引っ張り出し、倒れている仲間に投げつける。
「おいリット! こんなところでくたばるんじゃねぇ! ガーベラ! お前は騎士になるんだろ!? フリー!お前だって有名な魔導士になるって言ってたじゃねぇか!」
叫び声をあげ、ファクトは仲間たちを起こす。
ダメだ。
早く起きろ。
まだ何一つ成し遂げてない。
囚人のまま終わるわけにはいかない。
自分たちはまだ始まったばかりだろうと、ファクトは四人を引っ張る。
「くそ!? ここまで来て……無理なのかよぉ……」
当然、ファクトだけで彼女たちを運ぶことなどできない。
そんなことはわかりきっていた。
しかし、それでもファクトは諦めない。
たとえ引きずってでも仲間を助ける。
無理、無駄、無謀。
そんな馬鹿なことをやるのが、人間だ。
それを、メロウが教えてくれた。
「情けない……。お前には荷が重いようだな」
「ガーベラ!?」
「正直、信じていなかったよ……。お前が来てくれるなんてな……。ありがとう」
濡れタオルを顔にかけられたおかげか。
ガーベラが立ち上がり、続いてフリーとリットも起き上がった。
そして四人は、誰が言うでもなく倒れているメロウを抱え上げる。
四方から両足、両肩を持ち、歩幅を合わせて歩き始めた。
まるで亀のように
「何をしてるんですかあなたたち!? 先に行きなさい!」
「姉さんを置いていけないわけないでしょ!」
リットが叫ぶと、メロウは普段の
「私はこの程度では死にません。いいから早く逃げてください。時間がないんです」
「ならなおさらだ!」
置いて逃げろと言ったメロウに、ガーベラが声を張り上げた。
彼女に続き、フリーとファクトも声を荒げる。
「四人いれば姉さんを運ぶくらい楽勝だって!」
「誰も死なせるもんか! みんなで出るんだよ!」
「あなたたち……」
目を見開いてたメロウ。
リットはそんな彼女を見つめて言う。
「あたしたち、みんな姉さんのせいでこうなったんだよ。だから、文句を言うなら後で聞くね」
「まったくあなたたちは……。人のせいにしないでください……」
黒煙が肺に入り、呼吸することすら苦しい。
炎の壁がそこら中から迫ってきている。
それでも四人の足取りはしっかりしていた。
震えなど一切ない。
表情に恐怖など一つもない。
彼ら彼女らの顔には、絶対に皆で生き残るんだという希望に満ち溢れていた。
わだかまりも、焼き殺そうとしてくる火の手によって溶かされ、四人の気持ちは固まる。
メロウが父親である王を殺し、国をめちゃくちゃにしたことがどうした。
姉さんは姉さんだ。
たとえどんな事情があったとして、メロウ·リフレイロードはメロウ·リフレイロードだ。
優しくて強い、自分たちにとって大事な仲間なんだ。
ゆっくりだが確実に前へと進んだリットたちは、燃え盛る工場から脱出した。
「どうなってるんだ、これは……?」
外へ出ると、そこら中で火が唸っていた。
ガーベラはその光景に思わず声を漏らし、フリーのほうは言葉を失っている。
せっかく地獄から脱出したのに、ここもまだ地獄の中なのかと、ニ人は立ち尽くしてしまっていた。
ファクトはそんなニ人を見て顔を歪めると、ガーディとトリッキーのことを話した。
船着き場にキャラック船が来たことで、彼らが脱獄する計画を立てたこと。
そのため、その日のうちに島中のいたることろに
「みんなに謝らなきゃいけない……。オレも奴らと一緒に行こうと――」
「あなたは助けに来てくれた。それが事実でしょう。言葉はいりません」
「姉さん……」
地面に寝かされた状態で、メロウがファクトの言葉を
何も喋る必要はない。
命懸けで自分たちを助けてくれた。
それが真実だと、口を開くのすら辛そうなのに、メロウはそう言った。
「それに今は姉さんの治療が先だよ! ねえフリーは回復魔法とか使えないの?」
「うぅ、そっち系は勉強不足で基礎すらやってないんだ……。こんなことなら覚えておくんだった……」
フリーは火、水、土、風の属性の魔法が使えるが、すべて攻撃魔法のみしか使用できなかった。
彼がそのことを激しく悔やんでいると、ガーベラが口を開く。
「とりあえず気にしてもしょうがない。今はせめて薬だけでも手に入れないと」
彼女の提案で、一番近くの家に行って薬を手に入れることになった。
幸いなことに、囚人の家には仕事で怪我したときのための包帯などが完備されている。
ガーベラ、フリー、ファクトが薬を取りに行き、リットはここでメロウを
「リット。一応こいつを渡しておく」
「えッなに? うわ!?」
ファクトは背負っていた袋から刃物を放り投げた。
野菜や捕らえた獣の肉を切る分厚い刃の包丁だ。
どうやら工場内で手に入れたものらしい。
「この混乱状態だ。何があるかわからねぇ。お前がメロウさんを守れ」
「わかった。任せてよ!」
力強く返事をしたリットの声を聞き、ファクトたち三人は近くの家へと走っていった。
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