無実の王女と四人の罪人 ~出会いから始まった絶望と希望、追放者たちの戦いの軌跡~

コラム

01

とある島の船着き場に、一隻の船が到着した。


心地よい風が吹き、暖かい日差しが大きな帆船を照らす。


そこへガシャンガシャンと音を立てながら、全身をフルプレートの甲冑で覆われた者たちが現れた。


その甲冑姿の者たちは、寸分違わず同じ動きで歩を進めて同時に止まり、船から降りてくる人間らを迎える。


船から降りてきたのは、腰に剣を差した兵士だった。


彼の後ろからは、手にかせを付けられた若い男女が整列しながら続いてくる。


「以上五名。これよりパノプティコンに引き渡す」


男女の列の最後尾にいた兵士が船着き場に降りると、足を止めてそう言った。


兵士の言葉に反応し、甲冑姿の者たちが彼らに代わって若い男女らを囲み、歩くようにうながした。


無言で歩くように指示され、若い男女らは渋々ながら進み始める。


「あれが魔導機兵か。初めて見たが、気味が悪いな」


兵士の一人が、去っていく甲冑姿の者たちを見て顔を引きつらせていた。


彼が口にしたように、甲冑姿の者たちは魔力で動く兵――魔導機兵だ。


甲冑姿の中身は空洞になっており、このパノプティコンと呼ばれる流刑島を監視する兵士たちだ。


パノプティコンには人間の監視者はいない。


船に乗って島までやってきた兵士二人は、この後すぐに国へと戻ることになっている。


その理由は、この島のすべてを魔導機兵が管理しているからだ。


脱走しようとする者を見張り、ときには罰を与えて平等に扱える魔導機兵の存在は、国の役人にとって効率が良かった。


それは、囚人たちにとっても同じであり、善悪や感情に左右されない管理体制は、関わっている者ら全員から好意的に受け入れられている。


先ほど船から降りた若い男女は、全員囚人だった。


罪状こそバラバラだが。


彼ら彼女らは、これからこの島のルールに従い、共同生活を強いられる。


魔導機兵らに連れられ、若い男女らはこの島の居住場所へとたどり着いた。


木で造られた小屋のような一軒家だが、五人が住むには十分な大きさだ。


五人が家を眺めていると、魔導機兵は彼ら彼女らの手枷を外した。


それから魔導機兵は、五人に強引に中へ入るように促すと、その場から去っていった。


それぞれがしかめっ面をしていると、長い黒髪の女――メロウが口を開く。


「どうやら、今日からここが私たちの寝泊まりするところのようですね」


丁寧な口調の穏やかな声。


とても囚人とは思えぬ気品に満ちた仕草で、メロウが皆に家の扉に張り付けられた紙を見るように言った。


そこには、この島でのルールと囚人の仕事について書かれていた。


その内容を見る限り、決まりさえ守っていれば、檻に閉じ込められることもなく自由にしていいようだった。


メロウは全員が貼られた紙を見たことを確認すると、扉を開けて中へと入った。


四人も彼女に続き、家の中へと歩を進める。


「部屋も人数分ありそうですよ。でも、先に掃除が必要のようですね、これは」


メロウは置いてあったテーブルを指でなぞり、先についたほこりをふぅーと息で吹き飛ばす。


家の中は、もう何年も人が住んでいない雰囲気だ。


ここへ長らく囚人を入れることがなかったのだろう。


どうやら島のすべてを管理している魔導機兵でも、家の中のことまではやっていないようだ。


「おい、なに仕切ってんだよ」


メロウに向かって、長髪の男が声を荒げた。


残りの男女らも彼と同じ気持ちなのか、全員がにらむようにメロウのことを見ている。


彼ら彼女らは罪を犯し、罰として国から追放をされた流刑囚だ。


それはそのまま、住んでいた地域における最高権力に逆らったことに他ならない。


さらに枷を付けられ、家畜のようにここまで運ばれてきた苛立ちもあったのだろう。


メロウはそんな彼ら彼女らに対して、気軽に声をかけるべきではなかった。


「そいつの言う通りだ。そもそも名乗りもせずに仕切ろうとするなどおかしいだろう。せめて挨拶くらいしたらどうなんだ?」


長髪の男の後、手足の長い――背の高い女が口を開いた。


人をまとめようとするのならばと、メロウに自己紹介が先だろうと、彼女は不満そうに顔をしかめている。


メロウはそんな四人に背を向けると、室内をあさり始めた。


戸棚を開け、床に転がっていた暖炉のまきを動かすための棒を拾って見つめている。


一体彼女が何をしているのか。


四人にはさっぱりわからず、互いに顔を見合わせていた。


「人が話してるときに何を始めているんだ? それともバカにしているのか?」


「やれやれ。こんなところまで落ちてきて、まだそんなプライドを持ち合わせているのですね。あなたたちにやり直すつもりがあるのなら、それは捨てたほうがいいですよ」


メロウは四人に背を向けたまま、呆れたように言った。


当然こんな言い方をされた彼ら彼女らは拳を強く握り、その顔を歪めている。


お前なんかに何がわかるんだと、四人の表情は言いたそうだった。


ボサボサした黒髪の女が、誰よりも先に前に出て、メロウに詰め寄る。


「偉そうなこと言うな! あんただってこんなところまで落ちてきた罪人じゃないか! あたしらと何が違うってんだ!」


「お前、貴族かなんかだろ? 今流行りの追放令嬢かなんかか? そんなお嬢さまに、現実ってやつを教えてやるよ」


女に続き、左耳にピアスをした男もメロウに近づいた。


四人を相手に勝てるつもりかとでも言いたそうだ。


だが、それでもメロウは怯えることなく、彼ら彼女らのほうを振り返る。


「ひと暴れしないと収まらないようですね。いいでしょう。全員でかかって来なさい」

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