第27話 ボス戦用の編成

「殿。ただいま戻りました」


「ご主人君、ただいまー」


 人間形態のシリウスとベテルギウスが拠点に帰って来た。例のモンスターを担いでいる。


「ああ、おかえり。お疲れ様。それは俺がグレムリンのところに持っていく」


「ご主人君が? どうして? アタシたちが持っていくよ」


 まあ、当然の疑問だろうな。メタモルフの方がパワーがあるし、荷物運びはそっちの方が適任だ。


「お前らが探索している間に敵襲があった。プロキオンが負傷した」


「んな! プロキオンが! 殿! プロキオンは無事なのですか?」


「ああ。今は、アロエに診てもらっている。命に別状はないが、しばらくの間は戦いは避けた方がいい」


 シリウスとベテルギウスはお互いに顔を見合わせて眉を下げて心配している表情を浮かべる。


「だから、医務室に行ってやって欲しい」


「うん、わかったよ。ご主人君。行こう。シリウス姉さん」


「ん、ああ」


 俺はモンスターを引き継いで、シリウスとベテルギウスを見送った。探索中に作った医務室の場所は教えてないから、メタモルフたちは知らないはず……だが、すぐ様にウルフ形態となり、プロキオンのにおいを辿って正確な方向に走っていった。


「さてと……くそ重いなこれ……」


 俺はアンブレターの死体を担いでグレムリンのところまで持って行った。


「おお、ダイチー。そうそう! そのモンスターだー。うんうん。状態も良好。素材に傷がほとんどついてないから防具は作れるねー」


「ああ、それは助かる」


「まあ、ただ、これ防具が1人分しか作れないんだー」


「そうか。まあ、とりあえず作ってくれ。ここに保存食が入ったビンを置いておく。腹が減ったら食ってくれ」


「りょーかいー。飯ももらったし、がんばるぞー」


 素材の引き渡しが終わったので、俺は医務室へと向かった。メタモルフたちと今後のことを話し合わないといけないからな。


「プロキオン……! 無事でよかった」


 ベッドの上で寝ているウルフ状態のプロキオンに泣きつくシリウス。


「姉様。心配かけて申し訳ありません。我は無事です」


 感動の再会をしているところ申し訳ないけれど、一応話はすり合わせておかないといけない。俺は医務室に入った。


「よお。みんな聞いてくれ。今、グレムリンが防具を作っている。それが完成した時に俺たちがどう動くか。それを相談したい」


「殿……! 御意。殿のお考えをお聞かせください」


 シリウスとベテルギウスはこちらに向き直りお座りの体勢を取った。


「まず、グレムリンだが防具を1つしか作れないそうだ。つまり、それで毒液を防げるのは1人だけになる」


 メタモルフたちがゴクリと唾を飲んだ。なにせ、実際に戦うのは彼女たちだ。命に関わることだけに実に真剣に聞いている。


「そして、その防具。もう1つ作ってもらうという選択肢はない。今は食料が危機的状況だ。グレムリンに製作を依頼すると食料の消費が激しくなる。つまり、防具1個でやりくりする……その前提を頭に置いて欲しい」


 限られた資源でやりくりするこの限界ギリギリの感じ。まさか、現代日本にてこんな生活をするなんてな。


「だから、実際にあの巨大蜘蛛と戦う編成はこうなる。メタモルフ2体とネレイド1体。ネレイドは体が塩水に覆われているから毒液が効かない。そして、塩水を吐けるから、防具を持たないメタモルフが毒液に触れても治療することができる。現状ではこれがベストな編成だ。防具を装備してないメタモルフ2体。それが同時に毒液に犯されたら……どっちを治療するかの問題が出てくる。片方を治療している間にもう片方の毒は確実に進行する。下手したら助からない可能性だって出てくる」


 最悪の状態をシミュレーションした結果だ。毒液を食らう可能性がある者が増えれば増えるほど、戦闘が厳しくなる。戦いは数だと言うが、数を揃えた方が不利になるケースもあるんだ。


「戦闘は一瞬の迷いが命取りとなる。だから、ネレイドには防具を装備してない方を常にターゲットを取ってもらって、後方でいつでも治療できる体勢を整える。これで防御の布陣が完成だ」


「なるほど……拙者は特に異論はありません」


「アタシもないね」


「異論がないようなら続ける。俺は、グレムリンが防具を完成させ次第、ダンジョンに潜ることを提案する」


 俺の発言にシリウスとベテルギウスが口を開けて驚いた。


「殿! そ、それでは拠点の守りが」


 シリウスの言いたいことはわかる。プロキオンが負傷した今、拠点で戦えるモンスターがナイアードしかいないことになる。


「防衛は、俺とナイアードでやる。敵の侵入経路。星影経路からダンジョンの入口まで。その穴を塞ぐ」


「しかし、殿。それでは、においで侵入者を感知できないからやらないと申されたのでは……?」


「そうだよご主人君! 穴掘りスキルを持つ侵入者がやってくる想定だと塞いだ穴からの距離だと迎撃の準備に間に合わない可能性があるって……」


 仮にダンジョンの入口付近の穴を埋めたとして、ダンジョンから拠点までの体感は800メートルほど。これは中学生でもダッシュすれば3分とかからない距離だ。その地点からにおいを感知したのでは、遅すぎる。


「ああ。それは、俺が拠点にいる場合だけだ。俺が穴を埋めた地点で聞き耳を立てる。そうすれば、穴掘りの"音”が聞こえるはずだ。音が聞こえたら、俺はダッシュで地底湖まで走ってナイアードを呼び出す。穴掘りである程度足止めをしている間なら、それは間に合うはずだ」


 ナイアードは、体が水に濡れている状態ならばそれなりに強い。最近、強さがインフレしつつあるダンジョン配信者の野郎共に対してはちょっと戦力不足かもしれないけれど、足止めにはなってくれるはず。


「もし、ナイアードで撃退できないと感じたら、俺はすぐにお前らに撤退指示を出す。その間は俺たちがなんとか食い止めるから拠点の防衛の心配はしなくても良い」


「俺たちって……ご主人君は戦えるように思えないけど」


「ああ。だから武器を使う。プロキオンの弓矢。これを借りるんだ」


「殿。弓矢を扱えたのですか。流石ですね」


「いや、使ったことない。多分、撃っても当たらない」


「えー、ダメじゃんご主人君」


 シリウスとベテルギウスが呆れた顔で俺を見る。というか、ため息をした。


「まあ、撃てなくても相手にとっては視覚的に脅威なはずだ。ナイアード1体に気を遣うだけじゃなくて、俺がプレッシャーを与えれば意識が分散する。戦いにおいて、意識を分散させればある程度の戦力は削げるだろう。多分」


「殿……それはいくらなんでも綱渡りがすぎるのでは……? プロキオンの回復を待ってからの方がよろしいかと」


「いや、対処法があるならダンジョン攻略は早いところ済ませた方がいい。ダンジョンの中に何か俺たちの生活に役に立つものがあるかもしれない。それを早い段階で手に入れることができるのは大きなメリットだ」


 実際、友好的なスポーンブロックのお陰でかなり生活は楽になったし、ナイアードのスポーンブロックがあった地点にあった湿った石。それでキノ爺のキノコ栽培速度が上がった。そういったアイテムがあの巨大蜘蛛の奥。そこにあるのかもしれない。


「それに、次にいつ敵が来るのかわからないなら、早いところ攻略した方がいいのは確かだ。プロキオンが回復するのを待っていたら、また強い覚醒者がやってきて別の誰かが負傷しましたではまたダンジョン攻略ができなくなる。時間を経てば経つほど敵がやってくるリスクは高まるのはわかるな?」


「まあ、確かに、ご主人君の言いたいことはわかるけど」


「大丈夫。きっとうまく行くさ。俺を……俺たちを信じてくれ」


「どうする? シリウス姉さん」


「殿が信じろとおっしゃるのであれば、拙者はそれに従うまで。信じることこそ拙者の忠義……!」


「ありがとう。シリウス」


 まあ、拠点は任せろなんてかっこつけたはいいけれど……本音を言えば誰もこの拠点に侵入してきて欲しくない。

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