第11話 新戦力

 地下にいて困ることと言えば時間の感覚ないことである。ここには時計がないし日も出ていない。だから、時間を決めて交代という概念はない。例えば、今はメタモルフの3姉妹が交代で探索と見張りを行ってくれている。しかし、これは厳密に言うと時間で区切られているわけではなくて、メタモルフに持たせているドングリ(食料)が尽きたら帰還するように命令してある。もちろん、その他、危険なことが発生したら現場の判断で無理はせずに帰還するように伝えてはいる。


 結局のところ、この地下生活での有効な時計は腹時計しかないのだ。腹が減ったから、時間が経過した。眠くなったから時間が経過した。それくらいしか時間を実感できるものがない。


「俺が脱獄したから何週間……いや1ヶ月以上経ってるのかな。それすらもわからないや」


 俺は現在保管してある食料に注目した。と言っても、ほとんどがすぐに消費してしまう。食べ物を保管しすぎて腐らせるなんて贅沢な悩みなんてあるはずもない。強いて言えば、ドングリが溜まる一方。これは腐りにくいからな。リスが冬場を越すのにもつかわれるわけだ。


「でも、少しずつだけど食料の貯蔵量は増えている。ドライアッドの生産効率があがった影響かな。まあいいや。とにかく、そろそろメタモルフを1体追加しても大丈夫な量の食料は確保できていると思う」


 そういう算段を考えていると、シリウスとベテルギウスが帰還した。


「おお、おかえり」


「殿。ダンジョンにて新たなスポーンブロックを確認しました。これも友好的なスポーンブロックです」


「おお。マジか」


 スポーンブロックの中身。かなり気になるな。もしかしたら、メタモルフ以上の強さを持つ可能性があるかもしれない。一旦、メタモルフの追加は待つか。


「これがその場所です」


 シリウスが作成した地図。そこにある一室に目印が記されていた。


「よし、それじゃあ。俺はこれからプロキオンと一緒にダンジョンに行く。シリウスとベテルギウスは休憩がてら見張りな」


「御意」


 というわけで、俺はプロキオンと一緒にダンジョンに向かった。シリウスとベテルギウスが探索した後だから、多分ドラゴンとかは出ないだろう。


 実際、俺の目論見通り、ドラゴンどころか危険なモンスターに遭遇することなくスポーンブロックがある地点まで行けた。ここには光る石が天井につるされていない。なんか残念だな。光源さえあればドライアッドの増員ができたのに。


「ご主人君。この部屋の真ん中にあるのがスポーンブロックだね」


「ああ。そうだな。ここはなんかやたらと湿度が高いな。それに床や壁がぬるぬるしている」


 床や壁に敷き詰められた石がそういう湿り気を帯びさせているのかもしれない。加湿器代わりに1個くらいもらっておくか。


「穴掘りスキル発動!」


 俺は石を穴掘りの容量で削り湿った石を手に入れた。使い道は今のところ思いつかないけれど、なにかに使えるかもしれない。


「それじゃあ、プロキオン。背後の警戒を頼む。俺はスポーンブロックを起動させるぞ」


「はーい。がんばってねご主人君」


 スポーンブロックを起動し……しばらく待っていると出てきたのは、競泳水着姿の女性型モンスターだった。髪の色は栗色で髪型はショートカット。体つきも実に健康的である。


 俺はすぐ様にスポーンブロックを停止させた。


「ふふん。あなたが私のマスター?」


「まあ、起動させたのは俺だからそういうことになるな」


「私はナイアード。水の精霊なんだぞ」


「なるほど……」


 水の精霊。また変なモンスターが仲間になったな。


「まあ、とにかく。このダンジョンは危険だ。俺たちの拠点に戻るぞ」


 俺は一応スポーンブロックも回収してから、ナイアードとブロキオンと共に拠点へと帰還した。



「というわけで、俺たちの新しい仲間、ナイアードだ」


「みんなー。よっろしくー」


 随分と軽いノリだな。まあ、こういう明るい子は嫌いじゃない。


「それじゃあ、ナイアード。お前にいくつか質問する。正直に答えるように」


「はーい。上から87-64-77だよ」


「何の数字だよ。質問してから答えてくれ」


 無邪気に笑うナイアード。うん、ちょっとノリが軽いけれど、やっぱり嫌いじゃない。というか、モンスターとはいえ、人型。人間の無邪気な笑顔を見れたのは久しぶりすぎて心が癒される。


「まずはナイアード。お前はどれくらい戦える?」


「うーんと……それは戦うフィールドにもよるかな。私が得意なのは、水中と水上だぞ。熱いところは苦手かな。それと、私は体が湿っていなければ力が出せないの」


「なるほど……」


 幸いにもここには水源がある。ナイアードを戦わせる前に水浴びさせればいいか。


「実際、どのくらい強いのかって具体的な指標はあるか?」


「まあまあやれる方だと思うよ。水中で戦った場合は海竜種のドラゴンよりちょっと弱い程度かな。地上だと流石にドラゴンとやりあうのは無理。体がずぶ濡れなら戦えないこともないけど十中八九負けるよ」


「うん、そうだよな? ドラゴン基準だとそうなるよな?」


「?」


 俺はメタモルフをチラ見した。こいつらの戦闘力がそもそもおかしいんだ。ドラゴンは弱くないんだ。


「戦闘面はわかった。サバイバルでなにか役に立つことはないか?」


「うーん、そうだね。水を綺麗にすることができるかな」


「へー。ちょっと実践してみてくれ」


 俺は地下水を汲んできてそれをナイアードに渡した。ナイアードはその水をためらうことなく飲んだ。そして、それを排水した。どこから……とかは言えない。まあ、ナイアードは人間の体と構造は殆ど変わらない。飲んだ水がどこから排出されるのかは……まあ、俺はこの水を飲む気にはなれない。


「どう? マスター。私役に立つでしょ?」


「うん。俺は今まで通り水は煮沸してから飲むわ」


「後は、漁が得意かな。魚を取って来れるよ」


「魚か……でも、この近くに魚は住んでいるのか?」


「うーん。ちょっと待ってね。こっちに魚の気配が」


 ナイアードが進んだ先は、俺が見つけた第2の水源がある場所だった。そういえば、ここはまだ活用方法見つけてなかったな。


 ナイアードが穴を覗き込む。穴のすぐ下には湖が広がっていて、ナイアードはその中に飛び込んだ。


「…………」


 しばらく待っているとナイアードが水面に出てきた。


「じゃーん。マスター。魚捕まえてきた」


 ナイアードの手には魚がいて、それがぴちぴちと跳ねている。


「おお、ナイス」


「ここの地底湖には魚が生息しているみたいだねえ、ねえマスター。私この湖に住んでもいい?」


 キラキラとした目で俺を見るナイアード。そんなにこの場所が気に入ったのか。


「ああ、まあ良いけど。俺が呼んだらちゃんとみんながいる拠点に来るんだぞ」


「はーい。それと大漁だったら、マスターにも魚を分けてあげるね」


「おお、それは嬉しい」


 俺も魚は好きな方だ。食料不足でなくとも、ありがたい提案である。


 俺はナイアードを見送った後に拠点に戻った。そして、ナイアードのスポーンブロックをドライアッドとメタモルフのを保管しているところに置いた。


「ナイアードか。活躍次第では増やしてもいいかな」


 ナイアードがまだどれくらいの食料を必要としているのかがわからない以上は安易に増やすのは危険だ。だって、俺は湖にどれだけの量の魚がいるのかわからない。仮にもナイアードは湖からしたら外来生物。湖の生態系を破壊して魚を全滅させる恐れがある。


 でも、少し運用してみて増やしても問題なさそうだったら増やそうかな。それまでは様子見だ。

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