第10話 役割分担
俺はドライアッド1期生が光合成しているフロアにて会議を始めた。参加するのはドライアッドの初期メンバー、マキ、リン、アボ、ドン、アサ、キノ爺の6体とメタモルフ3体。2期生のメンバーは今回はお休みしてもらう。
「さて、みんなも知っての通り、ここ数日でダンジョン配信者なら外来生物に俺たちの拠点が荒らされ始めている。今のところはメタモルフに撃退してもらってはいるけれど、それも敵わないケースも出てくるだろう」
あまり考えたくないことだけど、メタモルフの防衛が崩れ去ったら、それより戦闘能力が低いドライアッドではどうしようもない。あの変態女ですらドン1体ではどうすることもできなかった。
「お言葉ですが、殿。拙者たちは強い。今回の変態はイレギュラー的存在で、ベテルギウスなら難なく倒せる程度の相手でした。そんなケース存在するのでしょうか」
「ああ、残念ながら存在する。なにせ人間にはスキルを持っている人間がいる。俺は、たまたま戦闘に特化してない穴掘りスキルだから、そこまで強くはない。けれど、もし、戦闘に特化したスキルを持っているのであれば……その力はドラゴンをも凌駕すると言われている。つまり、メタモルフ。お前達と同等以上の力を持っていても不思議ではない」
本当に最初にやってきたのが、ダウンジング専門と変態でしかないやつで良かった。ガチの戦闘スキル持ちだったらと思うとぞっとする。
「ワ、ワァ……メタモルフさんたちで勝てないなら僕たちじゃ勝ち目ないってこと?」
「ああ、正直、この拠点を襲う意味が見出せないけれど、配信者は面白ければ良い世界だ。謎の地底人。その出現場所の近くをダウジングしてたらダンジョン反応があって穴を掘ってみたら、本当に地底人の女が出てきた。こんな面白いことが起きたら、俺だって配信を見るかもしれない」
俺は最初の配信者が落としたメモから推測した事実を述べた。それだけで既に面白い。地底人の考察動画とかもあげられてるんだろうな。
「地底人の正体なんてどうでも良い。やつらにとっては地底人の正体を明かすだけで有名になれるんだ。だから、今後も配信者は来るに違いない」
実際は、そこに脱獄した死刑囚が隠れ住んでいる。うん。普通に面白い状況だな。
「俺にできるのは奴らが飽きるまで撃退し続けることだ。視聴者が別の話題に興味がうつった時。それを待つんだ」
いつ終わるかわからないマラソンを走らされる。ゴールが見えてない分辛いな。
「そこで、俺は考えた。もっと効率的にドライアッドを稼働させて、防衛に使う戦力も拡充する。でないと、対処できない。実際、見張りがベテルギウス1体でピンチになりかけた。これが2体いたら、お互いの弱点をカバーできた可能性はあった」
「うう、ご主人君。ごめん」
「いや、お前のせいじゃないよ。ベテルギウス。むしろ、早い段階で問題点がわかって良かった。この欠点を解消しないままでいたら、もっと重大な事故を起こしていたかもしれない」
確かにベテルギウスと相性が悪い相手が出たのは不幸だ。だが、その不幸を早めに引いて問題点が浮き彫りになったのは大きい。ミスをした対象を責めるのではなく、なぜミスをしたのか。そこを考えるのが重要なんだ。
「俺たちが持っているスポーンブロックは2つ。1つはドライアッドで、2つ目がメタモルフのスポーンブロックだ。戦力を拡充するんだったら、メタモルフを起動するのが良い。しかし、それができない。なぜかと言うと安定した食料の供給。それができていないからだ」
俺はメタモルフたちに視線を向けた。
「地中の水分と栄養を吸っているだけで生きていけるドライアッドと違って、メタモルフはきちんとした食事が必要。不用意に増やしてしまっては餓死の危険がある。いや、餓死で済めば幸福だ。空腹の狼。なにをするかわからない。仲間内で食料をめぐり争って拠点が瓦解する可能性がある」
次にドライアッドに視線を向ける。
「だから、俺はドライアッドを最大限効率的に動かすことにした。まずは、現状の配置はドライアッド1期生、ドライアッド2期生。こういう感じで部屋を分けている。この配置転換を行う」
なんか組織の改革をしているみたいでテンション上がってくる。
「まずは、この部屋。ここを食料生産の拠点とする。つまり、ここで食料を生産しない、マキとアサは移動してもらうことになる」
「承知いたしましたご主人様」
「まあ、お兄さんがせっかくよわよわな頭で考えてくれた作戦だしぃー、やさしー私は素直に従ってあげるけどー」
2体とも協力してくれたようで良かった。
「そして、キノ爺も移動だ。もう少しじめじめした環境。つまり水源近くに新たに部屋を作るからそこに行って欲しい。光源から少し遠くなるけど、日陰の方がキノコは育つからそっちの環境の方がいいだろう。キノ爺はもう十分成長したし」
「ふぉっふぉっふぉ。ワシは構わんよ」
「これでこの部屋には3体の空きができた。そこに、オレンジのレン、クリのマロン、大豆のソイを配置する。配置する場所は、リンとアボが隣ならそれでいい。リンとアボは収穫した果実を一緒に保管するんだ。そうすれば、リンゴの影響でアボカドが早く熟す」
これでこの部屋の住人は決まった。後は……
「ここの部屋の代表を決める。食料生産チームだ。そうだな。代表はリン。お前だ」
「オ、オレかよ。まあいいけどよお」
「よし、それじゃあ、次は今が2期生がいる部屋を考える。ここはちょっと特殊だな。まずはアサとコットン。この2人はチームを組んでもらう。衣類生産チームだ。ここはアサをリーダーとする」
「ふーん。コットンが一緒なのが気に食わないけど、まあいいよ。私がいないとなーんにもできないお兄さんのためにがんばったげる」
「次にマキと材木のザイでチームを組んでもらう。ここは燃料となる薪と材木を2人で協力して生産、加工して欲しい。リーダーはマキだ」
「はい。ご主人様のためにがんばりますね」
「そして、最後に残ったのは樹液のメイプル。まあ、これは今のところ誰かとコンボを発揮するって感じでもないし、遊ばせておくか」
まとめるとこんな感じになるか。
第1部屋:食料生産チーム(リン、アボ、ドン、マロン、レン、ソイ)
第2部屋:衣類生産チーム(アサ、コットン) 材木生産チーム(マキ、ザイ) 樹液(メイプル)
第3部屋:キノ爺
「これで生産効率が上がるはずだ。生産効率が上がれば、メタモルフの増員ができる。今のところは様子見するけど……メタモルフはこれからも、シリウスをリーダーにして、探索2体、防衛1体の編成で運用を続ける。食料が安定することが確認次第増員だ」
「御意!」
「それと……シリウス。お前にダンジョンの構造を調査するように頼んだよな」
「ええ。殿に渡されたメモの切れ端と筆記用具にマップを書きました」
シリウスが俺にメモを渡してくれる。メタモルフは人間形態に変身できるからメモを取ったりマップを書いたりすることもできる。
「ふむ……なるほど」
ダンジョンのマップ構造を一応頭に入れておくか。俺もここに行く用事があるかもしれない。新たにスポーンブロックを発見できたとしても、それを使用、持ち帰りができるのは人間である俺だけだ。
「よし。今日から新体制で動く。最初の内は慣れない環境で生産効率が多少落ちるかもしれないけれど、それを乗り切れば効率は良くなるはずだ」
似たような性能のドライアッドと連携が取れれば絶対にいい方向になるはずだ。俺は俺で穴掘り、発掘を続けて拠点の拡張しよう。
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