第93話 地上の星 前編

 「真古都…来週の試験休みにキャンプ行かないか?」

俺は久しぶりに真古都をキャンプに誘った。


「また連れて行ってくれるの?嬉しい!」

彼女は子どもみたいに喜んでくれる。


この先は進路の事もあり、どれだけゆっくり時間が取れるか判らない。

今のうちに彼女と二人だけの時間を過ごしたかった。


「その代わり試験頑張れよ」

俺は彼女の頭を撫でながら言った。

「うん!」

彼女は頬を染めて、含羞んだ笑顔を向けてくれる。


後夜祭以降、相変わらず靴箱に手紙が入っていたり、呼び出されて告白をされたりしたが、俺はその度に真古都への気持ちをハッキリと表明する。


「俺が好きなのは真古都だけだ。アイツを一生大事にすると誓った。アイツ以外に心を移す気はない!」


俺はもうアイツを泣かせない!

不安に淋しい想いもさせない!

アイツがずっと笑顔でいられるように、

俺の傍に安心していられるように、

俺だけを見ていてもらえるように、


その為に俺は頑張りたい…



部室の前にくると、笹森が廊下でしゃがみこんで何やらむくれている。


「どうしたんだ?」

「なんでも…ないです」


俺と真古都は顔を見合わせた。

どう見たって何でも無いようには見えない。


笹森を真古都に頼んで部室に入る。

奥の机で、稲垣は女の子と肩を寄せて話し込んでいる。初めて見る顔だ。


「稲垣と一緒にいるの誰だ?」

おれは傍にいた霧嶋に訊いた。


「新しく入る事になった竹宮さん。なんでも稲垣先輩の知り合いらしいですよ。あんなにくっついて…笹森さんが気の毒だよ」

霧嶋も稲垣の態度が気に触っているらしい…


「あれぐらいで嫉妬やきもちやくなんて、重たい女って思われるのやだし…

でも…傍で見たくないし…」

「大丈夫だよ。笹森さんの気持ちよくわかるもん」

部長はずっと手を握ってくれてる。


「部長も妬いたりするの?」

「うん…毎日妬いてるよ…」

笹森は意外そうな顔を見せる。


「だって、お手紙貰ったり…お誘いされたり…信用しててもやっぱり心配しちゃう…

瀬戸くん、わたしには勿体ないくらい凄く素敵なひとだから…」


「んっ!んっ!」

真古都がバカみたいなことを笹森に言ってるから、声をかけるのが照れ臭くて咳ばらいをした。


「笹森、ちょっと俺の言った通りにやってみろ。霧嶋にも手伝いを頼んできた」




「ねぇ霧嶋くん、わたしイメージチェンジしたいんだけど…」

奥で話をしている稲垣くんにも聞こえるように、心做しか大きめな声で話した。


「髪型のアレンジを変えてみるのはどう?

ちょっとやってあげるからここ座って」


わたしは言われた通り、稲垣くんから見て、斜め後ろから見えるように座った。

霧嶋くんは、ポニーテールの髪を解くと梳き始めた。

首元に置かれた手が少し擽ったい…


霧嶋くんの細くて繊細な指先で髪を梳かれると、ちょっとドキドキしちゃう…


髪を解かれて間もなく、ガタガタと机にぶつかりながら稲垣くんがこっちにやってきた。


「き、霧嶋!何やってるんだよ!」

少し責める感じで霧嶋くんに言ってる。


「髪を梳いてるだけですよ」

霧嶋くんは淡々と話してる。


「く…首を触っただろう!」

責める言い方がキツくなる。


「そりゃあ髪を結ぶんだから、少しくらいは触れるだろうけど、肩を寄せてくっついてる訳じゃあるまいし…些細なことじゃないですか?」

霧嶋くんが皮肉めいた話し方で返してる。


「当たり前だ!そんな事してみろ!赦さないぞ!」

冷静な霧嶋くんに対して、稲垣くんは怒ってるのか語気が強い。


「そんな事って?」

霧嶋くんは揶揄ってる感じで、逆に稲垣くんに質問してる…


「だから肩を寄せて…」


言葉に詰まってる稲垣くんを見て、霧嶋くんは少し勝ち誇ったように笑ってる…









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