第86話 世界でいちばん熱い夏
「先輩どうするつもりなんですか?」
霧嶋が部室に来るなり、俺のところに真っ直ぐやってきた。
あいつが聞きたい事は見当がつく。
「判ってる。何もしてない訳じゃない。昨日、あれから真古都を送って行った時彼女のお母さんにも伝えた。
そうしたら先生に連絡してくれて、相手の素性と、今回いきなり来た
霧嶋は、霧嶋なりに心配しているだろうから判った事を全部話してやる。
「それって…謝罪と云うより自分のためじゃないですか!」
霧嶋も感情剥き出しで怒ってる。
「問題はそこだ。理由は判ったがそのために何を真古都にしようとしてるのか…金のないヤツが慰謝料を考えてるとは思えない」
真古都のお母さんも可成り怒っていた。
「今更いい加減にして下さい!いきなり近づいてきて娘は酷く怯えてるんですよ!娘にはちゃんとお付き合いしている
真古都は男が苦手だ。
母親からすれば今回の怯え方で、これ以上トラウマが増えるのを懸念したんだろうが、俺は“付き合ってる
「今日も来るだろうか?」
霧嶋は忌々しい顔で唇を噛んでいる。
「ヤツも可成り焦ってる筈だから近いうちに必ず来る。帰りは俺が送るし、不本意だが朝はお前が迎えに行ってくれるから一先ずは安心だな」
「不本意なのはお互い様です!」
全く、先輩の存在だけでも鬱陶しいのに、選りに選ってお金の為に真古都さんへ近づくなんて!しかも真古都さんの顔に傷をつけた相手だなんて!
絶対に許せない!
「真古都さん」
「おはよう霧嶋くん」
僕は彼女の手をしっかり握る。
少し含羞んだ顔が可愛いな…
折角意識してもらってるんだから、僕の存在も認識してほしい。
駅の改札口を出て、学校の傍まで来た時校門で先輩が待っていた。
「なんですか?僕だけじゃ心配だったんですか?」
僕は侮られたみたいで面白くない。
「何おかしな事言ってんだ?真古都が校長室に呼ばれてるから迎えに来ただけだ」
先輩がぶっきら棒に言ってる。
「霧嶋くん、ありがとう」
真古都さんが笑顔を向けてくれる。
だけど校長室ってなんだろう…
俺は真古都を連れて校長室へ向かっている。
真古都は不安そうだ。
「真古都、大丈夫。あの男の両親が来ているんだ。」
心做しか真古都の顔が曇った。
校長室の前に来ると、真古都の足が止まる。
「真古都、俺も一緒に行くから心配いらない」
そう声をかける。
校長室に入ると、ソファに座っていた人たちが立ち上がった。
「貴女が三ツ木真古都さん?」
俺たちも校長先生に促されて向い側に座った。
「息子が迷惑をかけたようですまなかった」
父親らしい人が頭を下げる。
真古都は何も言わず膝に乗せた両手の拳を握り締めてる。
「貴方が真古都さんとお付き合いしてる方?」
母親らしい人が俺に訊いた。
「はい」
俺は迷わず答える。
「校長先生にもお聞きしました。A組で可成り優秀な生徒さんみたいね」
……?
何の話をしてるんだ?
俺の成績は関係ないだろ?
「貴方ならこれからいくらでもいいお嬢さんと知り合えると思うわ」
「真古都さんはウチの息子の嫁にしたい」
「はあぁ!?」
何言ってんだ?
怖がって怯えてるヤツの嫁ってバカじゃねぇのか?
「高校生同士の恋愛をバカにしてる訳じゃない。ただ、この先もお互い同じ気持ちが続く保証は無い。ならばウチの息子に一生をかけて償わせる」
黙って訊いてれば…
「俺は別れません」
「君の気持ちも判るがこれからいくらでも素敵なお嬢さんと知り合えるんだから…」
「素敵なお嬢さん?じゃあ真古都はそうじゃないとでも?
悪いが貴方たちに心配される事はありません。俺が、真古都を幸せにします!」
俺はきっぱりと目の前に座ってる人たちに言った。
「俺が一生コイツの傍にいます」
隣で座ってる真古都が俺を見た。
「わ…わたしも瀬戸くんがいいです。
瀬戸くんの傍じゃないと嫌です」
変な状況だが、真古都の気持ちを改めて知ることが出来た。
校長室を出た時彼女に訊いた。
「俺はお前がいいんだ!お前も俺でいいな?」
真古都は俺を見上げて何度も頷いてくれた。
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