第33話 卒業…そして新年度

 行事の多い二学期が終ると、三学期は過ぎるのが早い。

部活での引き継ぎも済み、新しい部長には和泉先輩に決まった。


俺は何かと絡んで来る辻宮先輩を牽制し、あれからずっと三ツ木の側を離れなかった。


卒業式の日、在校生は卒業生に花を贈る。

贈る相手は好き好きだ。

俺と三ツ木も一緒に渡しに行く。


「先輩、卒業おめでとうございます」

「おっ、コブタちゃんから貰えるなんて嬉しいな」

「先輩、俺のもありますから!」

「間抜けな一年のも貰ってやるか」


あの日以来、辻宮先輩は俺のことを、“間抜け”だの”腰抜け”だのと言っては揶揄う。

『くそっ!何だってんだ!』


「先輩、夢が叶うように応援してますね。これお祝いの落雁です。わたしが作りましたから、味は保証しませんけど、良かったら召し上がって下さい」

「サンキュー!卒業する時、まだ一人だったら今度はホントに俺がもらってやるわ」

辻宮先輩が三ツ木の手を握って話しかける。

「先輩!そー云うのいいから!コイツ判ってないから!」

俺が慌てて三ツ木を自分に引き寄せると、途端、辻宮先輩が笑い出した。


「お前必死だな。いい加減気付けよ。まあ、その方が俺もリベンジ出来ていいんだけど…それじゃあまたな、ちゃん」


先輩たちが卒業して、俺たちは二年になった。



「副部長ですか?」


和泉先輩が俺たち二人に提案してきた。

「去年までの事があるから、これから部活の立て直しに大変だと思うけど、二人でやってくれないかな?」

『まあ、三ツ木は俺がいないとダメだしな…』

『瀬戸くんと一緒なら安心だし…』


先輩たちがいなくなっても、俺たちは当たり前のように一緒に時間を過ごしていた。



三ツ木は相変わらず園芸部の手伝いをしている。

『クズがいなくなって平和になったけど…三ツ木はまだあのクズを忘れていない』


「いい加減忘れろよ、あんなクズ!」

「そう簡単に忘れられる訳ないでしょ!」

「ヒトが親切に言ってやれば…」

「だって頼んでないもの!」

いつもこんな調子だ。


「くそっ!なんであんなクズが一途に思われてんだよ!不公平だろっ!」


今年の部活紹介は、俺と三ツ木は体育館で、和泉先輩たちは外でビラを配った。

一人でも多く新入部員が欲しい。

三ツ木が部活の説明をする横で、俺は希望者が依頼した絵をその場で描く。

アニメのキャラクターだったり、誰かの似顔絵だったり様々だが、結構好評だった。


何だかんだ、大きな問題もなく過ぎていく毎日に、俺は安心していた。

このままずっと、何事もなく三ツ木と一緒にいられたらそれで良いと思ってた。


そうなんだ、あの男、霧嶋数祈きりしまかずい

あいつが転校してくるまでは…!



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