第13話 先輩からの揶揄と瀬戸くんの奇矯

 「ごめんなさい」

淡々と指摘する瀬戸くんに、何と言っていいのか判らず謝る。

表情は変わらないけど、なんだか怒ってる様に見える。

「さっさと行くぞ。お前に任せてたら、学校まで何時間かかるか判らないからな」

そう言って歩き出す瀬戸くんを追いかけようと、残っている袋を持って気が付いた。

『瀬戸くん、重い袋ばかり持ってくれてる』


残っていた袋は、どれもお菓子ばかりで軽い。

瀬戸くんの優しさに、申し訳ない気持ちになりわたしはまた謝ってしまう。

「そこは礼を言ってくれた方が嬉しいけど」

彼が前を向いたまま話しかけてくれる。

男の子からこんな風に、優しい言葉をかけられるのは初めてだ。

わたしは謝りかけた言葉の後で、「ありがとう」とお礼を言った。

学校までの長い坂道でも、遅れがちになるわたしを気遣って、何度も立ち止まってくれた。


学校に着くと、瀬戸くんは調理室へ氷を貰いに行くと言うので、先に部室へ向かった。

わたしの袋は軽い物ばかりなので、三階の部室までさほど苦労せず行ける。

『早く帰って、遅くなったこと部長に謝らなくっちゃ…』


わたしの頭の中は、もう塚本部長でいっぱいだった。

早く部長の顔が見たい。声が訊きたい。

そんな弾む気持ちで部室のドアに近づくと、中から先輩たちの笑い声が聞こえる。

わたしも思わず顔がほころんでしまう。


「お前、持てないって判っててよくあれだけの買い物させるよな。ひでぇやつ」

ドアを開けようとする手が止まる。

「いいじゃねぇか、あんなクソブス!何の役にも立たないんだから、少しは楽しませて貰わねぇと」

わたしは躰が固まって動けなかった。

ブサイクなのは自分が一番よく判ってる。

けど、先輩に言われるとやっぱり辛い…


少しでも動いたり、声を出したりしたら、涙が出てきそうだった。

わたしは涙を堪えようと唇を噛んで、じっとその場に立っていた。

暫くすると、戻って来る瀬戸くんの足音が聞こえてきた。


彼も中に入ろうとしたけど、先輩たちが言ってるわたしへの悪評に、部屋へ入れず黙って訊いている。

きっと瀬戸くんも、先輩たちからこんなに言われているわたしに呆れてる筈だ。

にも拘らず、不意に瀬戸くんがドアを開けた。


わたしはびっくりして心臓が止まりそうになる。

『どうしよう…どんな顔して先輩の顔を見たらいいの?』

中では、何か言い合う声が聞こえる。

わたしはどうして良いか判らず、震えながらその場にしゃがみこんでしまった。

然う斯うするうち、再び瀬戸くんが出てきたと思ったら、わたしを見ずに叫んだ。

「三ツ木遅いぞ!全くお前は鈍臭いな!」

そして、わたしの足元にあった買い物袋を持ってまた部室へ入って行った。

わたしは中の様子も判らず、しゃがみこんだまま動けずにいる。

暫くして、何事も無かったような顔で出てきた瀬戸くんが、わたしに声をかけてくれた。


「立てるか?」

わたしは頷いたけど、上手く足に力が入らない。茫然としているわたしに、瀬戸くんが近づいて来て、腕をまわされたかと思ったらそのまま抱き上げられた。

「えっ!?」

これってお姫様抱っこだよね?

よくマンガとかで見る…

わたしなんかは一生経験する事無いと思ってたのに!

「せっ…せっ…瀬戸くん?」


びっくりしたのと、何かの間違いじゃないかと、躰を少し離したら、

「黙って捕まってろよ。落ちるぞ」

瀬戸くんの淡々とした声が耳元で聞こえる。

平気な顔をして歩いて行く彼に、わたしは内心焦った。

『わ…わたし42キロもあるんだよ?』


そんなわたしを抱えたまま、瀬戸くんはゆっくり階段を下りていく。

わたしは怖くなり、申し訳ないと思いつつ彼にしがみつき、目を瞑って顔を伏せた。

怖い事もさることながら、近くにいる人がまじまじとこちらを見ているからだ。


わたしなんかが男子にこんな事されたなんて、クラスの人たちに知られたら、何言われるか判らない。

たちどころに話のネタにされて、クラスの笑い者になること間違い無しだ。

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