君の為に出来る事ー君に伝えたかった言葉と伝えられなかった事ー

ねこねこ暇潰商会

第1話 プロローグ #1

鶯の森高等学校 美術部


「何だよっ!今年の新入部員は二人だけかよ」

部室内に響くほど大きな声で、部長の塚本春樹つかもとはるきが毒づいた。

「ちくしょう!部費のアップを申請するはずだったのに。これじゃあ話になんねぇ!」

腹立ちまぎれに蹴飛ばした椅子が音を立てて倒れるが、他の部員は特に気にする様子もなく、スマホをいじったり、長椅子に寝そべったりと好き勝手にしている。

現在美術部の部員は三年生が五人。二年生が三人。そして新入部員の一年生が二人の十名である。とても部費のアップなど認められる訳がなかった。


「で、一人目が一年A組、瀬戸翔吾せとしょうご。くそっ!せめて男じゃなく女が入りゃあ良かったのに」

まさに言いたい放題だ。

「……?…瀬戸?…瀬戸ってまさか昨年の学生絵画コンクールで入選した…隣町にある瀬戸画廊の息子だよな…」

その言葉に部長のみならず、部室にいる各々が彼をまじまじと見つめた。

「佳作ですから入選したとは言えませんよ」

色めき立つ部員たちを前に、彼は表情も変えずにサバサバと答えた。

「ま…まぁ、そうだな」

彼の飄々とした態度に気後れしたのか、言葉を濁し二枚目の入部届に目をやる。


「で、こっちの不細工な女は一年C組、三ツ木真古都みつぎまこと」その名前に何か引っかかったのか、入部届の名前と彼女を交互に見た後、思い出したかのように呟いた。

「三ツ木って、春日中学の?」

「はい部長。お久しぶりです」

まるで奇妙な物でも見るかのような塚本の態度を気にもせず、彼女は笑顔で返事をした。






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