シロツメクサは雨降り図書館
彩灯快
第一話 ある小学校の話
とある田舎に小学校があった。全校児童の割合に合わない大きなグラウンド。学校のそばにはきれいな川に、自然いっぱいの山がある。遊園地がなくたって、ショッピングモールがなくたってみんなそれなりに楽しく過ごしていた。でも、外が嫌いな子は――?
「ぼたんせんせー!あの本読みたいのに、本棚にないよ!」
一人の女の子が、貸し出しカウンターにいる先生に大きな声で言う。
本を読む子たちが注目しているのも気づかない素振りで、先生をじいっと見つめた。
先生はそれでも優しい目でほほ笑むと、一冊の本を差し出す。
「この本?実は次、きょう君が借りるから先生が預かっておいたの。」
ごめんね、と女の子の方を向いて申し訳なさそうにする。女の子は読みたかったのにと、しょんぼりと肩を落とした。
「次、いつ借りれるの?」
「えっとね……きょう君の次がつばきちゃんで……。」
先生は指を一二三……と折って、開いた指を女の子に見せた。
「
パーの手を女の子は見つめた後、首をかしげて先生の方をじっと見る。
「それってあと何日?」
うーんと斜め上を向いて指折り数える。そしてしばらくして女の子の方に向き直した。
「一か月以上先になっちゃうかもね。それでもよかったら五人目で予約しておくよ。」
「じゃあ、お願いしまーす。」
そうは言いつつも女の子は何か不満気だ。
「ねぇぼたんせんせー、この本もっと図書館に置いてよ!一冊だと全然読めないよー。」
「先生も置きたいって思ってるんだけど、何処にもないのよね。他の先生も知らないっていうし……。見つけたらすぐ図書室に置くからね。」
「絶対に約束だからね!」
「はーい。」
女の子は念を押すと、友達の元へと走っていった。
この学校の子達は大体外にいるか図書室にいるかの二択だ。そして図書室御用達の子供たちの中で話題なのが「いじめられて人生負け組確定かと思ったら異世界で天職にあって人生無双する件」という本だ。
今話題の異世界転生の本だ。そう、よくある。
でもこの本には奇妙な謎がある。
単なる異世界転生系の本なのに子供たちに人気なこと。
表紙も長い髪を一つに結った剣を持った男性が特徴的なだけで、ほかの本と何ら変わらない。内容も特段面白くもない。
そして、この本がどこにもないこと。
何処で買ったのか、この本が来た経緯を誰も知らないのだ。
――この先生、現在司書を務めているぼたん先生は、ここに来てまだ二年ちょいだ。
ここの子供たちが優しかったこともあって、わりとすぐに「ぼたん先生」として学校に馴染むことができた。
でも分かんないことばっかりなのよね……。
ふうっと長いため息をつくと、本を手に取る。表紙の男の人と目が合う。
時計は三時を指している。五年生の授業が終わるまでまだ時間がある。
もっとこの図書室のことを、学校のことを知りたい。
きょう君、ちょっと悪いけどこの本借りるね。
どこかわくわくするような、でもぞくぞくするような、よくわからない気持ちが沸き上がってくる。でも目の前の本への興味ですぐに分からなくなった。
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