第82話 お昼ご飯と生きる
「じゃあ、食べようか」
「す、すみません。ありがとうございます」
おにぎりをパパッと食べ終えてしまった神崎君に、私は自分のお弁当を差し出す。自分で作ってきたお弁当以外にも、私には多めに持ってきた行動食がある。行動食は神崎君監修のもと食べていたが、正直言って半分以上残っていた。
「でも、ちょうどよかったよ。持ってきすぎて重たかったから」
「いや、あの......本当にごめんなさい」
「気にしないでって!ちょうどよかったんだから」
「ありがとうございます」
今回私が用意したお弁当は、チャーハンとハンバーグ。ブロッコリーと野菜炒め、きんぴらごぼうだ。どれくらいお腹が減るか分からなかったから、更におにぎりを作ってきた。途中から作るのが楽しくなって、絶対に作りすぎていたから、むしろ助かった。
「天道先輩って、おにぎり一つとっても作るのがお上手ですね」
「なにそれ、だれが作っても一緒だよ?」
「塩加減が完璧です」
「あはは、ありがと。神崎君は面白いね」
塩加減が完璧って、そんなの適当なのに。というか、なんで塩加減にまで気が付くの?それ以前に、鮭とかおかか等の具に意識が言ってもいいと思うんだけどなぁ?
それにしてもおいしそうに食べている。前も思ったが、ご飯を食べているときの神崎君は本当に感情が素直だ。そのまま表情というか、雰囲気に表れている。
「天道先輩は何でもできていいですね」
「そんなことないよ」
そう、本当にそんなことはない。私はできることだけを精一杯にやっているだけで、今回の登山でもこんなにボロボロだ。神崎君がいなければ、正直この頂の景色を見ることなんてなく、途中で下山していた。誰かに見てもらっていないと、やっぱり私はダメな人間なんだ。
「ねぇ、神崎君」
「どうしたんですか?天道さん」
「私は、どうしたらいいのかな?」
「?」
つい、本当につい本音が漏れてしまった。零す気なんてなかったのに、こんな弱音、吐くわけには行かなかったのに。こんな時、私は吐き出した言葉を飲み込む方法を模索する。本当に、いやになる。
慌てて、ごめんね、いおうとしたとき神崎君がポツリと零した。
「すみません、天道さんもやっぱりそう思うんですね」
「え?」
だから、私がこんな素っ頓狂な声をあげてしまうのは仕方ないだろう。え?なんで?普通、こんな重たいことに絡んでくれないでしょう?
「今の言葉が、恐らくは天道先輩の本音なんだと思います。すみません、僕ばかりが聞いてしまい。ですが、そうですね。まずは、心行くままに行動してみたらいいのだと思います。それで、疲れたらこうして山の上でのんびりしましょうよ。その時は、僕も時間があればお付き合いしますから」
「............」
「何だっていいんですよ。それで天道先輩のことを低評価する人間なんて、無理にする必要はないでしょう」
本音、か。それにしても、「心行くままに」なのか。自分に素直に正直になれば、もっと気軽に生きていけるのだろうか?
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