第12話 新人って......

「ごめんなさい、神崎君」


 朝一番、僕が天道先輩と顔を合わせて一番初めに頂戴したお言葉はまさかの謝罪でした。


 いや、これってどうしたらいいの?えっと、どういう状況なのか説明してもらっていいですかね。


「え~、あっと。その、何があったのか聞いてもいいですか?」

「ええ、むしろコレばかりは私の落ち度というか......。今回の企画だと、神崎君を含めて何人かの新人さんに質問してって話だったじゃない?」


 確か企画の大筋としては、それであっていたはずだ。それで、僕以外の人にも意見を聞いてみんなの意見を載せていくと。僕のできるサポートは、おそらく新人側目線での意見が欲しかったのだと思う。


 それがどうして、こうなるんだ?


「実は、今回の企画って年齢制限があったの。会社としても若手に焦点を当てて企画をしていてね......」

「あ~、なるほどですね。それで、企画に該当する人物が僕しかいなかったんですね?恐らくですが、26歳に閾値を設けてしまったんですかね?」

「おっしゃる通りです。ごめんなさい」


 そういって再び頭を下げる天道先輩を横目に、こればかりは仕方ないことなんじゃないかと思った。大学を出てくる人にはいくつか種類があり、院を卒業している人とお、学部卒業で終わっている人だ。院を出た人の中でも、28歳まで通っている人だって少なくはない。


 つまり、真面目に勉強をしている人が会社に入社するとその時点で26歳。それから一年たっていると、27歳や28歳になっている。会社の本社とか研究所などの、本気で頭脳が求められている場所では確かに珍しくないのだろう。ただ、ここは工場。


 僕のような専門学校卒のバカでも、頭がいいと勘違いされる場所なのだ。つまり、上司人の中に、「院卒の大学生がこんな場所にいないだろwwww」となった結果、今回のような悲劇が起こるのだ。


「高卒社員の方を引き込むことは不可能なのですか?」

「そうすると、入社2年目の社員となるのですが高校生を含めると数が多くなりすぎまして。人選を選ぶとしても、何を基準にするか?などの問題が。それで学卒の方を対象にやればいいのかと思ったのですが、28歳の方を若手として紹介することに問題があるのです」


 入社してすぐに若手社員と、対外的に認めてもらえないのか。年齢で判断する人も多いから確かに仕方ないのか?


 申し訳なさそうに、いろいろと説明してくれる天道先輩だったが結局の所だ。今回の企画に参加できる若手社員で、条件に当てはまった人間は僕しかいなかったと。


 この企画、潰したら怒られるかな?


「記事の大きさとしてはどれくらいのサイズで考えているのですか?」

「え?......えっとですね、A4サイズで2枚を考えています」

「じゃあ、僕がそのページ全部を埋め尽くせばいいんですよね?多分、それが一番早いですし、何よりほかに手段がないですよね」


 僕の提案に対して、天道先輩は一瞬だけ目をパチパチとさせた後、手に顎を置いて考え始めた。


 きっと先輩としては僕一人でページを埋めるなんて発想はあったかもしれないが、無意識的に削除していたんだろうな。今回の記事の趣旨とは異なるし、僕の負担も大きい。何より、一広報の職務としてそれでいいのか不明なところが多い。


「確かに現状では、それが最適解なのでしょう。ですが、本当にそれでよろしいのですか?」

「まぁ、ほかに有効打が思いつかない以上仕方ないのではないですか?」


 本気で考えれば、きっとほかにも有効な手段は思いつくだろう。しかし、期限もある中で、これから企画の趣旨を変更し、上司を説得する為の資料を作成、プレゼンして許可取り、各部門への通達。どう考えても、時間が足りない。


 きっと天道先輩が本気で行動すればどうにかできる問題なんだとは思うが......僕はこの仕事に正直な話そこまでの価値を感じていない。


「僕としては、一枚目の半分で僕の情報を軽く記載。もう半分を使って配属先や日常業務を記載して、二枚目に実際の仕事をしてる様子の写真とかを記述していけばいいのかと思っています。僕は趣味とかの写真で投稿しても自分が写っていない写真しかないので。こんな男の写真なんか見ても仕方ないですし、むしろ丁度いいですよ!!」


 個人的に考えていることを正直に伝える。面倒なことは、自分で写真を撮って記事を書いて......その手間はあるものの、正直そこまで大きな障害ではない。


 むしろ、本当に自己アピール・自己紹介をさせられるとキツイしね。僕の個人情報

なんてほとんど需要ないし。写真も同様。


 ある程度、記事に乗せる内容などをこちらで誘導するくらい許してほしい。


「そう、ですかね」

「ええ、僕としては問題ありませんよ」

「少し、考えてみます」


 そう言って天道先輩は、関係部署やおそらく上司だろうか?に電話をかけて事情や現状を軽く説明。その後の対応について、3つほどの提案をした後に僕が提案した案を伝えていた。


 その時の先輩が本当に申し訳なさそうに僕を見ていたのだが、そこまで気にされると逆に申し訳なくなる。いや、本当に気にしないでほしいんだけど。




「それでは申し訳ないですが、お願いしてもいいですか?」

「いえ、こちらから発案したことですし問題ないですよ。では、適当に二枚ほど作ってきますので、明日確認してもらっていいですかね?写真などは必要に応じて取りに行きましょう。特に仕事中の写真に関しては職場の先輩が僕の記録として撮影しているものですので、基本的に趣旨が違いますからね」


 結局、天道先輩はどうにか上司陣営を説得しようと試みていたが、あえなく失敗。上司陣営としては、手軽かつ本来の趣旨に沿った意見があるのであればそれでいいとのこと。まぁ、別に容量が多いわけでもないから問題ないよね。


 余談だが、うちの上司が結構乗り気だったらしい。どうでもいい情報だけど。


「それでは、すみませんがお願いします」

「はい、それではまた明日お会いしましょう。失礼します」

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