ヒトとドウブツ

燦々東里

第1話 理想の世界

 瞼の向こうがひどく明るい。突き刺すような光に思わず目を開ける。欠けた太陽が視界に入り、目の前が明滅する。視線をずらす。何度かまばたきを繰り返すと、やっとまともに見えるようになった。最初に目に入ったのは、高いビル群だった。全面ガラス張りのものから、曲線や直線が融合した前衛的なデザインのものまで、様々な種類の高層ビルが、硬いコンクリートからにょきにょきと顔を出している。

 しばらくその光景を眺める。

 どうやら私は都会のど真ん中で、ぼんやり突っ立って、景色を眺めているらしい。顔を落としながら、何故と疑問を抱く。だがその答えを考える暇はなかった。

 視界に、繋がれた子供が映ったから。

 繋がれたといってもハーネスだ。道行く子供は必ずハーネスをつけ、その紐を親が持っている。今日は土曜日だ。街の中には家族連れが大勢見える。その数だけハーネスも見える。ある母親は、まだ歩けない赤子を抱っこひもで抱えながら、走り回る上の子をハーネスで制御している。ある家族は子供を間に挟んで父親と母親それぞれ手を繋ぎながら、ハーネスの持ち手は父親の手首にひっかけてある。兄弟を連れた両親は、それぞれが一本ずつハーネスを持ち、自由に動く子供のあとを追っている。どの親子もどの家族も、そして道行く関係ない人々も、何も気にしていなかった。自然と笑い、会話をし、私の想像する『日常』と変わらない様子で過ごしている。

 ハーネスが受け入れられた世界。その中で、唯一私だけが、受け入れられていない世界の感覚を有している。自体がなかなか呑み込めず、私はその場に立ち尽くす。中途半端な位置に立ち止まる私に対し、歩行者は通り過ぎざまに横目で見る。それも信号が赤になったことで多少ましになる。

「あっ」

 視線の先に子供がいた。その子供が赤になったにも関わらず、道路に向かって走りだす。道路は車の往来がある。親は咄嗟にハーネスを引く。子供に衝撃が走ったのと同時に、私自身にも衝撃が走る──

















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