わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが? 〜魔王を倒し世界を救った最強勇者様だったこの俺が二度目の転生で、超絶美少女貴族に生まれ変わってしまった。一体これからどうなる私のTS貴族令嬢人生!?
第一〇話 シャルロッタ・インテリペリ 一〇歳 〇九
第一〇話 シャルロッタ・インテリペリ 一〇歳 〇九
「さて、浄化しておかないとまた変なの湧きそうですわね……清浄なる風よ、浄化の力よ、我が元へ、
廃村の空気はかなり澱んでおり、放っておくとまた死霊の類が集まってきそうな気がした。
別にどうでもいいと思えば良いのだろうけど、ウォルフ兄様に苦労ばかりかけるのは申し訳ないし、別に姿を見られているわけでもないから、多少わたくしがここを浄化したところで問題ないだろう。
わたくしは手に魔力を込めると地面に向かって神聖魔法の一つである
「なんという神聖な……」
この魔法、こう言う使い方がメインなのだが、汚れなども浄化できることもあってわたくしは服などにも使うことが多い……勇者として旅をしている頃、お風呂とかは無縁の生活を送っていた。
その時に流石に女性はキツかろうと思って、旅の仲間にこいつを試しにかけてみたら驚くくらい綺麗に浄化されたので、それ以降は頻繁に使うようになった魔法だ。
まあ、お風呂に入りたいって欲求は満たされないので、今はお風呂でのんびりするほうが好きだけどね。
「……神聖なる魔力も扱えるとは……シャルが元勇者というのも頷けますな」
「わたくしが使えない魔法はございませんよ、面倒だし使い勝手が悪くて使わないのも多々ありますけどね」
これは自慢ではなく事実なのだから仕方ない……儀式を必要とするもの、呪いに関するもの、あとは使い所に困るものなどは使用頻度が恐ろしく低い。
知識としても実際に試したりしたこともあるけど、やはり頼る魔法というのは結構少なかったりもするのだ。
あたりの死臭が一掃されると、次第に暗い夜の森らしく虫の鳴き声などが響くようになってきて、この辺りが正常にもどっていることが理解できる。
「しかし……あの
「澱みになっていたようですわ、村が何らかの理由で放棄されてそこに負の力が集中した。結果的にカトゥスはここを見つけて自分の小さな楽園を作った……ってところですわねえ」
「それでもあのレベルの
ユルの言葉にわたくしも頷く……この世界にきて一〇年程度だが、歴史から見ても
お兄様が騎士を引き連れて魔物退治に出かけているが、あれも昔はそこまでの頻度で出かける経験や記録はなかったそうだし、この世界では何かが起きている可能性があるのかもしれない。
そう考えると女神がこの世界にわたくしを送り込んだ、というのはどうにかしてほしいという意味も込めてなのだろうけど……今回の転生前にはそういった説明がなかったので、積極的に何かをするというのは考えていない。
面倒だし、あの女神様の思い通りに動くというのはわたくしとしてはちょっと抵抗感を感じるんだよな。まあ、本当に危なかったらなんか言ってくるだろうしさ。
それでも多少はゴネてやろうと、心で決めてわたくしはユルに苦笑いで微笑む。
「……でもまあ、わたくしには今の所関係なさそうですけどね……帰りましょうか、人に見つかると面倒ですし……」
インテリペリ辺境伯家長男にして、勇敢なる騎士ウォルフガング・インテリペリが率いる魔物討伐隊は領内に広がる巨大な森の中で隊列を組んで行軍している。
討伐隊の騎士、従士は合わせて一〇〇名程度であり、その
「隊長! この先に廃村の跡地があるようです……ですが……」
馬上で少し疲れた表情を浮かべる栗色の髪に、整った顔立ちをした騎士へと偵察に出ていた
威風堂々とした若い騎士の名前はウォルフガング・インテリペリ、伯爵家の長男にして伯爵家継承権一位となっているシャルロッタの兄である……彼は領内で頻発している魔物の被害を最小限に抑えるべく、魔物討伐隊を組織し遠征に向かったが、今回領内に出現した魔物は強力で苦戦を強いられ、何とか倒してエスタデルへ帰還する途中だった。
「報告は正確に頼む、何かあったのか?」
「はっ……廃村となった場所には死霊が住み着いている、と噂になっていたのですが……その、何もいなくなっておりまして……」
「……どういうことだ? 案内してくれ」
ウォルフガングは数名の供回りを連れて、その偵察を行なった従士を先頭に隊を離れて先行していく……次第に廃村が近づくにつれて、異常な光景が広がっていく。
鬱蒼と茂る森の一部や地面がまるで何かに削ぎ落とされたように無くなっており、そこで激しい戦闘が行われたことが見て取れる。
魔法? いや魔法でこれだけの威力を出すのであれば、相当な数の魔法使いがいなければ難しいだろう……ウォルフガングは困惑を隠しきれない表情で廃村へと入る。
「何だこれは……」
廃村へと入った彼らを待ち受けていたのは、驚くほど神聖で、静謐な空間となった廃村だった。
かなり前に放棄された場所である上、近年死霊が住み着いたということであまり人が立ち入っていない場所だったにも拘らず、まるで神殿にいるかのような印象すらある。
地面には黒いシミや激しい戦闘の後、そして小さな靴跡や動物の足跡などが残されており、確かに何かが起きていたのだというのは理解できる。
「これは狼の足跡か? 激しく動き回っているな……こちらの爪痕は大きめの魔物の爪の跡にも見えますね」
「こちらはブーツですね、しかも子供用の小さなものだ、しかも地面に強く食い込んだのか、はっきりとした足跡になっていますね……」
先行した従士やウォルフガングたちは混乱する……子供がここへ来るというのはあり得ない、森に一人で立ち入るような子供はエスタデルでは珍しい。
しかも地面にこれだけはっきりとした足跡を残すような小さな足の子供? 子供の力で地面にこれだけの痕を残せるとは考えにくい。
子供型の魔物……の線も考えられるが、魔物であったとしてもこの神聖な空気の中まともに活動できるだろうか?
「……どういうことだ……」
「ウォルフガング様! 鎧が……!」
慌てて自らの鎧を見ると、この場所の空気に浄化されているのか彼の鎧に付着した汚れが次第に薄れていくのが見える。
まるで神殿にて
何だこれは……まるで神か何かが降臨した後のような、そんな状況になっているのだろうか……そしてウォルフガングが別の方向へと目をやると、そこはまるで何か巨大な物体が通過したかのように森と地面が抉られ、遠くまで広がっている光景が見える。
「神でも……降り立ったのか?」
「わかりません……でも、この場所は今の所魔物が近づけない場所になっていそうです、ここで野営をすることを進言します」
「……わかった、部隊をここへ呼んでくれ」
「承知いたしました!」
従士が急いで魔物討伐隊を呼びに走り出すのを見ながらウォルフガングは馬から降りると、そっと地面に手を伸ばす……そこには浄化された土の中から、小さな植物の芽が姿を見せている。
死霊が住んでいたのであればこんな植物が育つことはあり得ない……そうするとこの場所の
「大規模な
ウォルフガングは、次第に白んでいく空を見上げながらほっと息を吐く。
もしエンシェントドラゴンがいたとしても人間は決して太刀打ちできないだろう……今回魔物討伐隊で討伐したグリフォンですら相当に苦労した相手だというのに。
ふと、この神聖な場所であれば神への嘆願も受け入れられるのではないか、と考えウォルフガングは懐より小さな女神を模した木彫りの像を取り出し、地面へと置く。
彼は膝をついてこの世界で最も崇められている女神にして主神ドリアーヌへと祈りを捧げる……どうかここでの休息に女神の恩寵在らんことを。
「……そして我がインテリペリ家の皆に祝福を、美しい私の妹に神の恩寵を……」
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