第2話 風俗店 続編
風俗店から逃げるようにして出てきて、ベンチに座り夜風に当たっていると少し落ち着いてきた。
“七海があんな姿で“
そう思う反面、興奮していた自分もいて、もう一度あの姿を見てみたいという気持ちが心の片隅にあった。
咄嗟の事で、実は同じ名前のよく似た人物だったのではないか、酔っていたので見間違えたのではないかと思い直してベンチから立ち上がった。
俺は駅へは向かわずにもう一度あの風俗店へ向かう。
体からは自分でもよく分からない汗が流れ出ているのが分かる。
風俗店の看板が見えてきただけで、ドキドキし鼓動がハッキリと分かる。
雑居ビルの3階の風俗店、エレベーターを押す手が明らかに震えていた。
風俗店の前まで来た。
もう、心臓が口から飛び出そうな程にドキドキしている。
目を瞑り深呼吸して、唾を飲み込むと意を決して店の扉を開いた。
「いらっしゃいませ!」
俺の心情とはウラハラな店員の明るい声。
「どうぞ、こちらでお待ち下さい」
個室の待合室に通された。
“七海が居た待合室だ!“
つい先ほど来た時は簡単に開いた扉が今は重く感じる。
少し汗ばんだ手に力を込めて中へと入る。
“ 居た!“
生きたラバー人形は拘束されて正座をし、先ほどと何ら変わらない姿でそこにいた。
ただ、強制開口の口枷が少し変わっているように思えた。
客が入ると取り替えるルールになっているのだろうか。
俺はゆっくりとラバー人形の前に移動し、膝立ちになるとラバー人形をギュッと抱きしめた。
「七海!」
ラバー人形は動かないでジッとしている。
ラバー越しに七海の体温が伝わってくる。
かなりの長時間ラバー人形にされているのだろう、熱が篭っているのがハッキリと分かる。
『コンコン』
ノックの後、「ご準備が整いました」と店員の声。
ラバー人形は正座したまま微動だにしない。
店員に促されるまま、待合室を出る。
首から下がった札には【ななみ】の文字。
札の裏面の写真までは確認できなかった。
俺は心の中で決めた。
あのラバー人形が七海でもそうでなくても、俺は何も見なかったし、何も知らなかった。
仮にあのラバー人形が七海だとしても、待合時間が今みたいに短ければなにもされない。
仮に待合時間が長くてもオブジェだと思い、【ななみ】の存在に気づかない人もいるだろう。
そもそもラバーに興味のない人もいるかも知れない。
自分にいろいろな言い訳をしながら、待合室を後ろ髪を引かれる思いで立ち去った。
正座したラバー人形を見ながら。
気がつくと俺は駅のホームにいた。
ラバー人形となった七海のいた待合室を出てからの事は正直よく覚えていない。
ただ、財布からある程度のお金が消えていた。
目を閉じて大きく頷くと、ホームにやって来た電車へと乗り込んだ。
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