私の踊りはふらふらダンス

 私は、ぽっちゃり体型に似合わず踊りが好きだ。


 若い頃、YOSAKOIをやっていたことがある。

 高知のよさこい祭りを模した踊りでYOSAKOIソーラン祭りを皮切りに、全国に広がった。

 鳴子という和製のカスタネットを手にし、民謡をアレンジした曲に合わせた踊りだ。

 私は、高知のよさこい祭りのテレビ番組を見て、その衣装のきらびやかさと圧巻の群舞に魅了され。自分でも踊ってみたいと近所のチームに入った。


 私が所属していたチームは長い法被はっぴ風の衣装に、和楽器のアレンジがカッコいい早いテンポの曲を使っていた。

 

 主に出ていたのは、東北で開催されるみちのくYOSAKOI祭りで、一万人の踊り手が集う。

 2年ほど参加したが、10月に開催されるまつりに合わせて6月くらいから踊りの練習を始める。

 学生さんは時間があるので、すぐに覚えられるが社会人の私はそうはいかず、週1,2回の練習に付いて行くのがやっとだった。

 物覚えが悪いこともさることながら、私にはダンスをする上で致命的な欠陥があった。


 ――― リズム感が皆無なのだ!

 

 確かに、カラオケの手拍子が一人だけ逆になることが多いとは思っていたが、リズム感がないゆえのことだったとは……。

 それでも、ぽっちゃりで踊れそうもない、リズム感もない状態の私に仲間たちは根気よく教えてくれた。

 次第にぽっちゃりが解消されて、筋肉がついて劇的に変わった! と言いたいところだが、体重は残念ながらさほど変わらず。リズム感も生まれ持ったものなのでたいして良くもならなかった。

 しかしながらくり返す練習は確実に体に叩き込まれ成果が出て来る。体重は変動しなくとも幾分いくぶん締まってきたようで、体が動くようになっていた。

 8月の地元の夏祭りの頃には、少しさまになってきて、人前での踊りデビューとなった。

 紅に牡丹や桜の描かれた法被はっぴを引っ掛け鳴子を持つと、それまではやっとこ踊っていた素人の私が、一人の『踊り手』に変身するから不思議だ。

 そして、観客の前に立つとまったく別の心持ちになる。

 レッスン場の鏡の前で踊っていた時とは、明らかに違う緊張感と高揚感。

 夏の暑さか祭りの熱気か、観客からの声援や手拍子でいつもよりも手が伸び、高く跳ねることができる。

 もっとうまく踊りたい!

 もっと笑顔になって欲しい!

 練習とは、この瞬間のためにあるのだと思った。

 私はわずかに軽くなった体で、地元の夏祭りやみちのくYOSAKOI祭りを2年ほど全力で駆け回った。

 

 *


 その後、YOSAKOIをやめてから私の体重はもどっただけでなく、増えてしまっていた。

 リバウンドというやつだ。

 週1,2回の運動というのは、馬鹿にならない。

 積み重ねの力と言うのは偉大だ。

 

『なにか運動せねば!』と焦燥感にかられるものの、新しくスポーツを始める年齢でもなく、かといってランニングやジム通いというのも私には合わない気がした。

 今でこそウォーキングをするようになったが、以前はただ歩いたり走ったりすることにあまり喜びを感じなかった。

 そんなときに出会ったのがフラダンスだ。


『フラガール』という映画を見た。

 田舎の娘さんたちが、地元の主力産業がなくなり男手の代わりになんとか地元を復興して稼ごうと、フラダンスを覚えて奮闘する話だ。

 素人が一から練習して踊りを覚え、最後は見事なフラダンスを披露する物語に感動したものだ。

 実際に、一から始めた女優さんもいたと聞いてますます興味が湧いた、

 とにかく、踊りが女性的で華やかなのだ。

 そして、花の首飾りレイに目に鮮やかなドレス。

 曲も多彩で、早く力強いのもあればスローな癒し系のものもある。

 ネットで調べてみれば、地元のハワイでは若い人だけでなく、年配の人、恰幅かっぷくのいい方、男性も踊るという。


 ならば、ぽっちゃりな私もいけるのでは?

 

 私はリズム感皆無という問題も忘れて、カルチャースクールのお試し講座を受講した。

 真新しい運動靴を買って持って行くと『フラダンスは裸足でするんですよ』と、年配だが立ち姿の美しい先生ににっこりと言われた。

 裸足になるのは何年ぶりだろうか?

 床板に、ぺたりとつけた足が少し冷たく心地いい。

 次に、白い花の描かれたかわいらしい真っ赤なスカートを渡された。

 普段では絶対着ないような色だ。

 私の心は震えた。

 最後に、普段はあまり付けないけれど発表会のときには使いますよと、ピンクのプルメリア夾竹桃の花の髪飾りヘッド首飾りレイを装着された。

 もう、完全にノックアウトだ。

 乙女の夢の洪水に、私の目は輝いていた。

 

 踊りの方は、単純でいながら難しかった。

 静かにじわじわと筋力を使うのだ。

 フラダンスは、腰と膝を動かす。

 膝は、常に曲げた状態で中腰だ。

 その膝を、左右交互に伸ばすことで、腰を大きく振ることができる。

 腰を振る踊りではなく、あくまでも膝を使う踊りなのだ。

 基本ステップを10分ほどした段階で、私は心だけでなく、足も猛烈に震えていた。

 数年間運動らしい運動はしていなかった。

 筋肉はなくなり、ぜい肉ばかり。

 しかし、素敵な衣装を着ているのに泣き言は言えない。

 しかも、潮騒が聞こえてきそうなウクレレとハワイ語の歌。

 私は、それを聞きながら60分間夢中で踊り続けた。


   *


 結果として、フラダンスは私に合っていた。

 カルチャースクールだったということもある。

 月謝を払っているので、指導アドバイスはあるものの、基本的に下手でもなんでもとやかく言う人がいない。

 発表会の時に、全体のバランスが取れればそれでいい感じだ。

 その緩さもあって、私のフラダンスライフも10年以上経った。

 相変わらず、リズム感はないし振り付けを覚えるのは遅い。

 それでも長く続けてきたことは、私の自信になっている。

 デスクワークで全く歩かない私の週に一度の楽しみであり、運動の場だ。

 

 どんなにつらいときも悲しいときも、不思議なもので踊っているときだけは忘れられた。

 音楽に乗り体を動かすと、マイナスな思考は止まるのだ。

 これは、たぶん脳科学的なものがあるとは思うが割愛して、踊りの力としておこう。

 

 かわいいスカートと癒しの曲。

 そして、その影に隠れるプルプルした中腰。

 

 私の最低限の筋肉を維持しているのは紛れもなく週に一度のフラダンスだ。

 私の体力維持には欠かせないものなので、これからも続けて行こうと思う。

 

 そのためにも、まずは新しいスカートの物色からはじめますか?


   お わ り 



 筋肉がお題だったのに、体力維持の話になってしまいましたね💦 すみません。


 実は、フラには『ダンス』という意味もあるので、フラダンスというとダンスダンスということになってしまうので、本来は『フラ』と言った方がいいのですが、まだあまりなじみはないかと思ったので、今回は『フラダンス』と統一して使用しました。

 フラのスカートもパウスカートという名称があるのですが、分かりやすくスカートとしました。


☆3以外も歓迎していますので、気軽の評価をお願いします。

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