スライムに姿を変えられてしまった王子の深刻な恋愛の悩み

アソビのココロ

第1話

 オレの名はエドウィン。

 サンタルカワ王国の第一王子だ。

 ただ今絶賛スライム中だ。


 わけがわからないって?

 まあこれだけでオレの今の状況を察しろというのは困難だろうな。

 何しろオレにもわからん。

 おそらくは変化の呪いの類を食らわされたのだ。

 いたいけなスライムになってしまった。


 先日から魔物相手の戦闘訓練の視察のために、辺境に来ている。

 敵にとっても仕掛けやすいということはあったのだろう。

 油断については反省している。


 それにしても、オレ自身が魔物スライムに変えられてしまったという状況は結構ヤバい状況ではある。

 魔物退治訓練の餌食になったらどうするって?

 それは当面大丈夫なんだなあ。

 何故ならガイ・ペンバートン伯爵令息に救われたから。


 ガイは護衛騎士だ。

 腕は頼りになる。

 でもガイはなー、考えなしなんだよなー。

 オレの危機を察して救ってくれたわけじゃなくて、プルプル震えるラブリーなスライムに萌えてしまったから自分の天幕に連れて来た、という理由なのだ。

 グッジョブと言っていいのかなすべきことをしろと言うべきか、判断に迷う。


 一旦救われたものの、状況は絶望的だ。

 何故なら野営とは言え、オレが行方不明であることにそろそろ気付かれるだろうから。

 スライムの正体を察することができるような上級の魔道士に接触するまで、オレの命があるかな?


 もう一つのピンチとしてガイの性癖だ。

 ガイはオネエなのだ。

 オレは理解のある方なので、ガイの性癖自体を批判するつもりは毛頭ない。

 しかしこの手の呪いは、純潔乙女のキスで解けるものと相場が決まっているだろう?


 ガイにキスされたらどうなるのだろう?

 心は純潔乙女だからなあ。

 呪いは解けるのかもしれない。

 でも解け方が半端だったりしたら超面倒なことにならないか?


 さらに言うと、キスされて呪いが解けた時、純潔乙女を娶るのが王道だろう?

 ガイを娶れと?

 さすがにムリムリ。

 ガイは喜ぶかもしれんけど。


 ――――――――――


「……というのが、現在のスライム王子の置かれている状況で間違いないですか?」

『ないけど、スライム王子言うな。不敬だぞ』

「ごめんなさーい」


 ぺろっと舌を出す金髪美少女とても可愛い。

 ガイの妹エリカだそうだ。

 オレも知らなかったが、魔物に興味があるから訓練の視察についてきたそうで。

 随分と熱心なことだ。


 ラブリースライムを捕まえたから、ガイは妹に見せた。

 どうも俺が出歩いているらしいということで、ガイは探しに行った。

 美少女と天幕の中に二人きり(←今ココ)。


「それで王子はどうされるおつもりですか? あまり時間の余裕はないですが」

『そうだな』


 エリカは魔物と意思疎通できるスキル持ちだった。

 だからこそ魔物の調査なんかしてるんだろうが、何という御都合主義。

 おかげで助かった、が……。


 この先どうすべきか、方法としては二つ。

 一つはこのままスライムがオレであることを証明してもらいつつ、王宮まで連れ帰ってもらうことだ。

 我がサンタルカワの魔道技術は優秀。

 確実にオレの呪いは解けるだろうが、ただ敵の正体がわからん。

 宮廷魔導士の中に敵がいることも考えなくてはならないのだ。


 となるともう一つの手段か。


『エリカよ。そなたはオレの呪いを解いてくれる気はあるか?』

「えっ、キスしろということですか?」

『そうだ』

「あの……ファーストキスなのです」


 赤くなるエリカ。

 うわっ、メッチャ可愛い!

 ペンバートン伯爵家は古くからの武門の家だ。

 オレの妃としてそう問題があるわけじゃないな。

 少なくともおネエ騎士ガイよりは、うんうん。


『もちろん責任は取ろう』

「では、その。よろしくお願いいたします」


 お願いするのはオレの方なのだが。

 エリカの柔らかそうな唇が近付き……。

 ボウン。


「やった! 呪いが解けた!」

「きゃあああああああああ!」

「どうした? 驚くではないか」

「王子、裸!」

「あっ」


 その後オレがエリカを夜這いしてたから行方がわからなかったという噂を打ち消すのに一苦労した。

 結局オレを呪いにかけたのは誰だったかって?

 挙動不審の従軍魔導士がいたから、鎌かけてやったらあっさり白状したわ。

 ギルティ。


          ◇


「エリカの歳はいくつなのだ?」


 王都への帰りの馬車ではエリカと同乗だ。

 親睦を深めねばな。

 ガイのやつが口を隠しながらオホホホと気持ち悪い笑い方をしていた。


「一四歳です」

「ふむ、オレの五つ下か」


 お妃教育の開始時期を考えても、余裕を持って進められるのではないかな。

 今までオレのお妃候補とされていたのは、もう少し年齢が上のより高位の貴族の令嬢達だ。

 頭蓋骨の中身が砂糖菓子でできているような令嬢達は、オレの趣味に合わん。

 オレの婚約が遅れている原因でもある。


 一方で若くして魔物の研究者であるエリカは逸材だ。

 その優秀な頭脳で我が国の発展に貢献してくれる者。

 我が妃に相応しいではないか。


「あの、王子?」

「何だ?」


 殿下と言わないのは何かの拘りかな?

 可愛いからべつに構わんが。


「責任を取るというのは……?」

「当然オレの妃として迎えようということだ」

「やはりそうですよね……」


 何だ?

 王子妃とは貴族令嬢の憧れではないのか?

 肩を落としているではないか。

 あっ、色々不安なのだな。

 オレとしたことが配慮が足りなかった。


「もちろん魔物の研究は続けてよいのだぞ?」

「そうなのですか?」

「ああ。オレの母もそうだった。その例に倣えばよい」


 王妃たる母も食草の研究者として知られている。

 社交界の中心者は王妃であるべきという、過去の常識を打ち破った母をオレは尊敬している。

 社交などやりたいやつにやらせておけばよい。


「お妃教育についても考慮しよう」


 お妃教育は地獄などと形容されることもあるが、それは砂糖菓子令嬢にとってはの話だ。

 元々優秀な者にはお妃教育などどうってことはないしな。

 というか外国語や地理など、魔物の研究に役立つことも多いと思うぞ?


「伯爵家出では身分が低いのではないかという心配も不要だ」


 オレに呪いをかけた黒幕には見当が付いている。

 実行犯の魔道士の証言から、有無を言わせぬ証拠も押収できるだろう。

 バカどもを潰せばライバルはいなくなり、オレの権威は高まる。

 一方でオレを救ったペンバートン伯爵家は、侯爵への昇爵も可能だ。

 全く問題はない。

 笑顔になるエリカ。


「王子はボクの心配が全部わかってしまうのですね」

「ハハッ、王子だからな。ん?」


 『ボク』だと?

 ……ちょっと待て、そういえばエリカは特殊性癖ガイの妹だったな。

 妹? 本当に妹? 弟じゃなくて?

 嫌な予感がする。

 エリカって女性名だよな?


「ボク頑張ります。王子に相応しい妃になれるように」

「う、うむ。期待しているぞ」

「はい!」


 弾けるような笑顔可愛いストライクです御馳走様。

 どうかエリカが女性でありますように。

 呪いでスライムになった時よりも真剣に神に祈った。

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