空の塔 第2巻 探索編
YachT
空の塔 第1節
目下には一面の霧が広がっている。もうすぐに着陸だとの事で、滑走路がある場所は見えてもいいはずだが、霧に隠れている。パイロットは誘導装置と衛星スキャンで見えているが、こちらとしては多少なりとも疑いをもってしまった。飛行機が次第に高度を下げて霧の中へ突入した。スーツの計器が腐食波の検知を知らせる。飛行機の中とは言え遮断処理をしているわけではないので貫通しているのだ。相変わらず何も見えない窓の外を、何とかして眺めようと目を凝らしていると衝撃があり、着陸したのだと分かった。すぐに飛行機は停止しアナウンスが入った。
「下船準備!」
ぞろぞろと席を立つ。事前に決めた通りの順序で並び、扉が開くのを待つ。ここに居る一同は、多少なりとも誤差はあれど、みな不安を抱いていたと思う。タラップが下がり外の光がだんだんと見えてくるのをみなまじまじと見ていた。外は霧が満ちて視界が狭い。ほとんど見る事が出来ないのでスキャナーを起動する。霧を通して遠くの地形が見えるようになり、目的のゲート施設が見えた。私が箱舟に行く前に最後に居た施設だ。外壁の一部は剥がれ、爆破によるダメージが見て取れた。扉は開けるまでもなく、破壊されて存在していなかった。先陣を切って制御室に向かう私たちの後方では電源装置を運んでいるチームが走り回っている。
「急ぎましょう」
私が後ろを見ながら歩いていた所に他の隊員にそういわれ、私は早歩きになった。肝心のゲート室は綺麗なままであった。腐食による劣化はある物の、そもそも向こうの世界と接続する事を前提として用意されていたため劣化は問題ない程度であった。
「電源復旧まであと5分」
無線で通知があった。私は担当の箇所の検査を終えると椅子に座り、脱出の瞬間を思い出していた。外では爆発音がし、何かしらの攻撃に伴う振動を感じていた。その時と比べれば今は一段と静かであったが、その時以上に危険な場所である。
「電源復旧します。スパーク注意。」
そのような報告が入ると、照明がつき、空調やそのた設備が動きだす音がした。ゲートを開く装置の一部から発火したが、幸い簡単に交換できる箇所であったので、すぐに起動試験を行い、安定であるのならば侵入する事となった。
「博士、どうです?」
「担当じゃなかったんで詳しくは覚えてないですけど、数値がこんな具合だったとおもいます。」
「分かりました。ありがとうございます。起動試験開始!!」
分隊長がそのように叫ぶと各隊員が操作を行う。リング状のゲート装置にパワーが送られると、内部のフィラメントが青く光りだす。円の中心に黒い点が浮かびあがりそれがだんだんと広がっていく。点の周辺は景色がゆがみ、それによって装置がギシギシと音を立てる。圧力が掛かっているようだが許容内であるとの事で続行された。闇へと続くような穴がリングまで広がると、遠くの方から光が近づいてくる。その先の景色が段々と分かるようになってきて、最後にはリングにピッタリとハマる。赤い砂に満ちた世界がそこには広がっている。ここに居る私たちが幾度となく見た世界だ。この世界から離れていた期間は私にとってはそう長くないが、あまりに違う生活を送ったがゆえに遠い過去のように思い出された。
「赤いなぁ」
私は誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう言った。私と同様に侵入経験のある者達はゲートの先の景色を見つめていた。そうでない新米の隊員は迅速にキャンプ基地設営のための資材を持ち、ゲートを通り抜けていった。ゲートが混み合っているのが解消されるまで待ち、私はゲートをゆっくりとくぐった。
ゲートをまたいだ途端にまず感じられるのは、胃の中に錘を入れられたかのような不快感だ。そして皮膚全体にわずかなちくちくとした感かうがある。腕枕で寝てしまったあとに感じる腕のしびれを弱くしたような、それでいて不快感を残したままにしたような感覚である。そして顔を上げるといたるところに真っ赤な砂が見え、腐食波による散乱で霧が満ちたようになっている。この霧はゲート基地の物より酷く、ここの汚染度がいかに高いかが分かる。バイザーのスキャナーを使用しなければ、早歩きをしただけで正面の人と衝突しかねないほどである。当時の感覚を多少取り戻してきたところであゆみを進める。ブリーフィングをし直すからと誘導されている途中。“新米”達が悶えているのが見えた。順応をしている最中なのだ。私も初期の頃にやった。初めての順応はだいぶきつい、私の耐性は非常に高く、訓練なしで、低レベルの耐性を持つ訓練済みの兵士と同等に耐えられると医師にお墨付きを受けたが、それでもなお、明日また行くのは嫌だと登校拒否をしたくなるレベルで辛かった。つまり彼らはもっと辛い。これただけで勲章モノだと言えるだろう。
「作戦確認だが、我々はこれから第六探索隊の探索経路をパイロンの追跡でたどる」
そういいながら、隊長は私の顔を見る。
「施設到達後は事前決定通りの順路で探索を開始する。探索時に発見された物体、情報、とにかく不明な物が発見された場合はエリア担当の科学士官を呼ぶ。今回の作戦で付く科学士官は合計で8名だ。あとで挨拶をしておけ、場合によっては専門分野の問題で配置交代を行う可能性がある、常に安定した順路を確保しそれを共有せよ。質問は?」
隊長は早口に説明すると質疑応答へと移った。私はゆっくりと手を上げた。
「なんでしょう」
「あの、隊長」
「パグリーで構わない」
「パグリー・・・さん。仮に危険性のある事象と遭遇した場合は、通達はだれにすれば?」
「いづれかの兵士で問題ない。連携してこの司令部で共有する。」
「分かりました。」
パグリーの態度は一貫していてリーダーとして信頼感を持てた。その他の兵士が雑他な質問をし、それを終えると早速作戦が開始された。たどるのは、私達がかつて自分で建てたパイロンだ。特にキャンプほど近くにある最初のパイロンは私が建てたのだ。上官が記念にと私に立てさせてくれた。当時はシルバーに輝き、誘導灯が明るく点滅していたが、今は見る影もなくひどくさびて劣化している。誘導灯は当然消えている。こちらから捜索電波を放つと、残ったわずかな電力で呼応する。そうして私達は、赤い廃墟の街で、一つ一つのパイロンを追跡し新しいパイロンに交換していった。私の建てたE56からE64までたどり、三叉路右に続くG1からG4まで行く。そして二股に分かれた巨大なビルの下を通り抜けるB90からB103へ。十字路で直進しV4からV34までひたすら道なりにたどると、目的の施設へと続く、これまたひたすらに長い橋にたどり着く。この橋の下は何があるかわからない。どこまで続くのかも知らない。スキャナーでは底が見えないし、ドローンで調べるにも下降気流が強く吹き荒れている。少なくとも200メートル以上あるという事しかわからない。橋の長さはおおよそ2キロほどあるにも関わらず、途中に橋脚は見つからない。端だけでくっついているのだ。どうして建っているのか、どうして他の廃墟に比べて損傷が少ないかなどの謎は多いが結局分からなかった。エイリアンのトンでも技術としか言えないのは非常に歯がゆいがそうするしかない。その不可解な橋を渡りながら、施設と指令キャンプをつなぐ高速移動カートのレールが敷設しやすいように、がれきを動かしながら橋を渡った。顔を上げれば、スキャナーによって映し出された壮大な、城のような施設が見える。目的地の入口まで着くと最後のパイロンを置く。
「道標の敷設完了」
長い散歩の終わりを告げる連絡は、パイロンを通じて本部へと流れる。
「了解した。レール敷設の方は65%まで完了。そちらで安静待機せよ」
さすがに作業が早い。技術向上も相まって、物の数時間で敷設が完了した。
思い出に浸る間もなく、カートによって輸送されてきた人員と資材によって中継基地がくみ上げられていった。腐食波を遮断し、ヘルメットやアーマーだけでも脱げる空間を容易していく。これがなければ、これからの探査で多くの人間が狂い、作戦がうまくいかないだろう。また数時間が完成し、私を含む第1次再探索隊の部屋が完成した。部屋と言っても、それぞれの寝る場所が硬質バルーンで作られた軍隊の宿舎のようだ。バルーンベッドは目線を防げる、トイレに次いだプライベート空間ではあるが、インナースーツをだけは着たままの生活であるため、みな結局休憩用のオリエンタルルームに集まる事になった。こうして、再びの探索のための基盤が整ったのだった。
地球外文明のデザインについて 文明水準と歴史 ジャーナルレポート
M.アドミラル助教
2107/12/4
レッドプラネットへのダイブ時映像と写真・映像。3Dスキャンから、文明解明しようという本研究では、地域ごとの都市構造の傾向、装飾デザインなどから、3つのスタイルが合わさっていると分かった。調査済みの地区は大分類で6つに分かれ、3つ(A文化)・2つ(B文化)・1つ(C文化)の組み合わせで同一の文化の集まりが見られた。施設の機能面については、地球外生命体の医学的構造からすべて同じ点が見られたが、非機能面については3種類が確認された。地球での事例のように、汚染によって居住区を追われたと仮定すれば、A文化の土地にBC文化が曲がりするように移り住んだと考えられる。彼らの技術水準が不明であるので建設帰還については不明であるが、全体的な想定からそこまで長期間ではないと考えられる。ここまでの大都市とも見えるレベルの都市を、避難民のために用意する事が出来る文明が、我々が二十数年でリバースエンジニアリングで理解した技術を創るも、汚染に立ち向かう事が出来なかった理由が良くわからない。彼らであれば何倍もの速さで対策を施し初期段階で解決するのではないかという希望的予想が出来る。しかし結果的に、汚染逆転の設計段階で終わってしまった。内戦等による阻害、何か不明な勢力による積極的な汚染の拡散などの痕跡は見つかっていない。ましてや、前者については我々人類が経験済みであり、その上で完全除染の見立てが存在する。我々の方が高度な文明であると捉えるのにはあまりに無理があるため、なにかしたの不明な要因が未だにあると考えられる。この要因は、汚染自体なのか、彼らの価値観、考え方による選択など様々な種別が考えられるが確定する事は、現時点では不可能である。
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