第16話 個人的問題の上で無理矢理踊る
「それで、進捗はどうかね」
ミスティから告げられていた呼び出し。それに応じるためヒューノバーと共に総督室へとやってきた。挨拶の後、予想していた言葉がグリエルから出てきたのもあり少々げんなりとした。
顔には出さなかったが横目にヒューノバーを見るといつもの緩い顔ではなく引き締まった顔をしていた。まあこいつもこの場であの緩い虎ちゃんの顔はしないか。と少々の安心。
「番のこと、進捗というのもどうかと思いますが」
「それは、すまないな。しかしこちらとしてはやはり気になるものでな」
「まあ、それはそうですよね。喚んだ目的が目的でしょうし」
心理潜航捜査官にすることと共に次代に子供を残すこと。正直ふざけやがってと思わないことはない。別に気に触れた演技をして怒鳴り散らかそうが失うものはないが、ヒューノバーに迷惑をかけるのもそれはそれでどうなのだ。と思ってしまう。
ヒューノバーの心配をするようになった時点で失うものが出来てきた。と言うことではあるだろう。絆されてきてはいるのだろう。
「まー…すゥー、……そうですねえ。まあ仲は上々なのでは?」
「……ヒューノバーの意見も聞いておこうか」
「自分もミツミさんとは距離を近づけられてはいると思いますが」
「うむ」
「その、鈍いですね結構」
「私のどこが鈍いんだよ」
お前よかましだろう。と言外に言うが、顔を掻いてええっと、と言い籠っている。
「自分これでも結構口説いているつもりなんですよ。でも、話半分に聞かれていることが多いですので」
バレてるな。飯中に話半分で聞いていたの。思わず目を左上に漂わせて口角をあげる。グリエルのため息が聞こえてきたが、目線はそのままにしておいた。
「まあ、いきなり番になれと命じられたのなら反抗もしたい気持ちはわかるが」
「別に反抗心ある訳じゃあないですよ〜」
「思うところはあるのは事実だろう?」
それに口を噤む。大有りに決まってんだろうが。と言いたくはなったが我が身が可愛い私は口にはしなかった。
「まあ出会って一ヶ月くらいですし、そんな急いてもことは運びませんって」
「最もだが、続くようならテコ入れするぞ」
「……テコ入れって具体的には」
「ヒューノバーと共同生活してもらう」
いきなり共同生活か……。まだひとりを満喫していたい私にとってはそこまでやられると立つ瀬がない。世間にあいつら同居してるんだって〜とかこそこそと言われるとかたまったものではなかった。
「人間合う合わないはあると思います」
「ヒューノバーでは不満と言うことか?」
「当人たちの間で解決出来るならばそれを待つべきと言うことですよ」
「ミツミ、お前解決する気はあるのか?」
「すゥ〜……ま、追々?」
「不安だ……」
グリエルは頭を抱えてしまった。協力的でない喚びビトはこれまで居なかったのだろうか。それを聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「ヨークとサダオミが居るだろう。前回の喚びビトとのバディはあの二人だ。彼らは今現在夫婦ではあるが、喚んだ当時はサダオミはお前よりも反抗的な人間だったな」
「へえ……意外ですね。自分からみると仲のいい方々ですが」
「ヨークは昔はかなりのじゃじゃ馬だった。当時まだ警務局に居た際に、かなり大きな喧嘩が多かったと噂では聞いていたからな」
ヨークは狐獣人の女性だ。綺麗な女性だったし、若い頃は浮いた話も多かったのではないだろうか。そんな女性といきなり喚ばれたサダオミがくっつけてと命じられても、衝突することは容易に想像できた。
今は二人とも柔和な雰囲気だが、当時どれほど荒れていたのか。後で聞いてみると面白いかもしれない。
……私自分のことかなり楽観的に見ているな。と今更考える。鈍いとか話半分にしか口説きを聞かないだとか言われたが、いや口説きをまじめに聞くのもどうなんだ。と言うのは置いておいて、私がヒューノバーと結ばれない限り、ヒューノバーは使命を全う出来ないヒトとして周りから何かしら攻撃される可能性だってある。
そう思うと、口説きは勘弁だがもう少し真摯に付き合うべきか。と答えに至る。
「もう少し、ヒューノバーと話して理解を深めたいと思います」
「考えを改めてくれると助かる。まあ、サダオミたちよりはお前たちはまともと言っていい。急かしてすまないとは思うが、どうしても、な。本来、番、夫婦になると言うのは極めて個人的な問題だ。それを無理矢理契りを結べと言われても、困惑するのは無理もないことなのだ」
グリエルの言葉に大人しく頷く。この制度がどれほど前から続いているかは知らないが、グリエル自身思うところはあるのだろう。結構苦労してんだろうな。と抜けた感想が湧いてきた。
「次回までにはもう少し進展していてもらえると嬉しい」
「了解しました」
「ぜ、善処します……」
まじめ腐ったヒューノバーに少々違和感を抱きつつ、グリエルの部屋を辞去する。廊下でヒューノバーと並び立って歩くが、二人して無言になってしまった。
こいつとどうにかなる未来、本当にあるのだろうか。横目でヒューノバーをちら、と見ると、なんだか笑顔が浮かんでいた。違和感を抱き話しかけると、全力笑顔が返ってきて眩しくてたまらなかった。
「ミツミさん、自分との未来ちゃんと考えてくれてるんですね」
「さっきの話でそう解釈したか……」
不承不承で言ったに過ぎないのにヒューノバーの根明笑顔に目を焼かれそうになる。根明と根暗、対極に位置する私たち。遠くを見ながら、あー、蜻蛉捕まえてえなあ〜と現実逃避に子供時代を夢想した。
「あー!」
「ん? あ、ミスティさん」
ヒューノバーに向けていた顔を正面に向けると、総督室に居なかったミスティの姿があった。
「ちょっとあんたたち、グリエル総督と何を話したのよ。私気になって気になって」
「田舎のおばちゃんくらい直球ですね」
「うっさいわよ。人払いで外回りさせられてたんだから、あんたたちの話結構気になってる職員多いんだからね」
「どんな時代でも人って噂話好きなのね」
昼食の時聞くから絶対食堂居なさいよ! と念押しされ、ミスティは去って行った。
「めんどくせ!」
「まあまあ、仕方ないですよ。自分もミスティの立場だったら気になりますって」
「外野だからほいほい聞けんだよなあ。本人たちは苦労してるっていうのに」
「苦労してますか?」
「……ほどほどに!」
ヒューノバーを肘でど突いて先に駆ける。追いかけてくるヒューノバーと共に潜航班室に向かいつつ、ど突きあいをしながら力加減を忘れたヒューノバーに吹っ飛ばされるのだった。痛いんだけど。
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