赤月先輩は、ただの残念なイケメンじゃない

星来 香文子

第1話 知らない人についていってはいけません。


 先生、質問です。

 先生は、近所で変なオジサンが出たってニュースになった時、帰りの会で言っていましたね?

「知らない人について行ってはいけません。とくに、知らないオジサンについて行ってはいけません」って。


 じゃぁ、その……

 知らないイケメンなら、ついて行っても大丈夫ですか?


 いや、その、わかってるんです。

 そもそも、知らない人について行ってはいけないことくらい。

 私ももう、中学生ですから。

 それくらいわかってます。

 でも、でも……ごめんなさい、先生————


 私、知らないイケメンについて行ってしまいました。

 それも、変なイケメンでした。

 変なオジサンじゃなくて、変なイケメンでした。


「出たな! ブラックリベリオンズめ!!」


 だって、誰もいない高架下のトンネルで、壁に向かってそう叫んでるんです。

 一人で。

 私、あまりにこの変な人の顔がイケメンすぎて————

 あ、どのくらいイケメンかは、まだ中学生の私の語彙力では表現しきれないので、先生がイケメンだと思う顔を思い浮かべていただければ結構です。


 ————とにかく、えーと、そうですね、放課後です。

 中学生になって初めての授業が終わって、家に帰ろうと歩いていたんです。

 校門を出て、忘れ物したことに気がついて……

 すぐに戻ったんですけどその時に、すごい……

 ものすごいイケメンとすれ違いまして……

 今までに見たことないくらい、綺麗な顔で……


 それで、その……————ついて行っちゃったんです。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 私が悪いです。

 反省しています。



「お前ごときに、この赤月あかつきが負けると思っているのか!? なめるなよ!!」



 あ、あの先輩、赤月っていうんだ……素敵……————じゃ、なくって!!

 あの先輩、本当に変なんですよ。


 私、今、先輩にバレないように電柱のかげから見てるんですけどね、誰もいないのに、一人で戦ってるんです。

 何か、よくわからないんですが、何かと戦っています。


「この左手に封じられた力を解放したら……お前、どうなるかわかっているんだろうな!?」


 左手の包帯をほどき始めちゃいました。

 しかも、怪我してるのかと思ったら、めっちゃ綺麗!!

 指も長くてすらっとしてて、綺麗な手。


「今こそ見せてやる、この俺が、この世界を救うヒーローであるという証拠を!!」


 ヒーローなの!?

 赤月先輩、ヒーローなの!?


「とうっ!!」


 まるで戦隊ヒーローのように、赤月先輩はジャンプしました。

 そして、左手をかざして、何かやってます。

 いや、すっごいかっこいいけど、何と……ねぇ、一体何と戦ってるの?


「ていやっ!!」

 

 わからない……

 いや、本当に、何と戦ってるの!?


「だぁぁぁ!! やぁぁあ!!」


 私には全然見えませんでしたが、赤月先輩はたった一人で、見えない敵(多分ブラックなんちゃらってやつ)と戦ってるんです。

 ものすごく真剣な顔で、必死な顔で、悪(多分ブラックなんちゃらってやつ)と戦っていたんです。


「これでトドメだっ!! スーパーハイパーフラーーーーーッシュ!!」


 ええ!?

 なんか必殺技名ダサくない!?


「…………ふっ。激しい戦いだったぜ」


 あ、勝った。

 なんか、勝ったっぽい。


「あーっはははははははは!!!」


 ものすごく誇らしげに笑っていたんで、無事に倒せたんだと思います。

 でね、問題はここからなんですが……————


「……ん、なんだ、君」

「あ、えーと……その」


 私が見ていたことがバレちゃいまして、赤月先輩がこっちに来たんです。

 私、逃げなきゃと思ったんですよ?

 ちゃんと、逃げようとしたんですよ?

 イケメンだけど変な人だし……


 でも、でも、目があったら、離せなくなっちゃって……

 だって、すっごく綺麗な目をしているんです。

 宝石みたいにキラキラしてて……

 薄暗いトンネルの中なのに……

 赤月先輩にだけ特別な照明でも当たっているみたいに、キラキラしてて……


「今の、見てたのか?」

「は……はい」


 すごくドキドキしました。


 めっちゃかっこいい……!!

 間近で見ると、本当に作り物みたいに綺麗!!


「今見たものは、他の誰にも、いっちゃダメだぞ?」

「はぅ……っ!!」


 あんなイケメンにウインクされたら、もう無理です。

 変な声が出てしまいました。


 やばいです。

 やばすぎました。


「約束だよ?」

「は……はい!! 誰にも言いません!!」


 そう言って、赤月先輩は去って行きました。

 すごく、すっごくイケメンでした。

 かっこよかったんです。

 本当に!!


 で、私、あとで姉に赤月先輩のことを聞いたんです。

 お姉ちゃんは去年まで同じ中学校に通っていたので、赤月先輩のこと知ってるかなって思って……

 もちろん、誰かと戦っていた————なんて話はしていません。

 でも……


「赤月——……? ああ、あの残念なイケメンね」

「へ?」

「だから、中二病の赤月くんでしょ?」

「……中二病?」


 姉はそう言って、意味深にニヤリと笑いました。


「赤月虎琉たける——……顔はすごいイケメンで、この世のものとは思えないほどの超絶美男子だけど、アレには近づいちゃいけないし、アレについて話してもいけないの」

「え……? どういうこと?」

「そういう決まりなのよ。とにかく、あれはイケメンだけど、残念なイケメンなの。近づいちゃだめ。二度と後をつけるなんてしたらだめよ」


 姉はそれ以上説明してくれませんでした。

 でも、私は赤月先輩のことがどうしても忘れられません。

 あんなに綺麗な顔は初めて見たんです。

 確かに、ちょっとその……言動は中二病かもしれませんが……


 でも、私にはあれが本当にただの中二病だとは思えませんでした。

 気になって仕方がなくて……

 それで、次の日の放課後、また赤月先輩の後をついて行ったんです。


 まさか、こんなことになるなんて思わずに————



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る