第2話 闇の後の一筋の女神?
ポタポタと一定の間隔で落ちてくる雫に顔を打たれ僕は目が覚める。
「いててて、」
体をおこそうとすると全身に痛みが走った。
その痛みによって、何がどうしてこうなったのかを思い出す。
落ちていく僕をただ見つめるだけのサモンズたち。
「『飼育パートナーなし』のお前と冒険する奴なんかいるかよ。」
彼らが僕を穴の底に落とした行動と、その言葉が文字通り俺の心を奈落の底に落としたのだった。
「そうだよな。俺なんかとなんて組みたくないよな。」
僕はそう呟き、落ちてきた穴を見上げる。
穴の先には光すら見えず、まるで今の僕の状況を表しているかのようだった。
「ここダンジョンの中だろうけど、何階層なんだろう。こんなに高いところから落ちたんだし、いっそ死んだほう がマシだったのに……。」
そう思ってしまったこと、口にしてしまったことが呼び寄せたのか、それとも僕はそもそも死ぬ運命だったのか奥の方から大きな足音と共に何かが近づいてくる。
僕は痛む体を起き上がらせて、その音の方向とは逆にゆっくりとバックしながら様子を伺う。
僕の歩幅よりも、向こうの方が大きかったのか、だんだん音も近づいてきて、ほんのりとシルエットも見えてくるとそれが人ではないことは明確であった。
そのシルエットがくっきりと見えるようになるまでには時間は要らなかった。
そして、お互いに相手が何者か分かるとそれぞれに声を上げる。
「うわああああああああああああ。」
「グオオオォォォーーーーーーー。」
僕は喉が張り裂けるような悲鳴を、化け物はここら一帯を振動させるほどの咆哮を。
僕の足は死にたいと思っていたからなのか、それとも最強の魔物「ミノタウロス」を目の前にして恐怖で動かなかったのか定かではないが、手も足もピクリとも動かない。
そんなことは容赦なくミノタウロスは持っている大きな金属の棍棒のようなものを僕めがけて振り下ろしてくる。
僕は何の抵抗もできずに、その攻撃を食らったため、その攻撃は僕の左腕を持っていった。
左腕を始めとして、全身に激痛が走る。
俺は無くなった左腕を押さえながら悶絶するが、ミノタウロスは構わず棍棒を僕に振りかざしてくる。
その棍棒の向かってくる光景がゆっくりに見え、これまでのことが走馬灯のように見え始める。
「『飼育パートナーなし』のお前と冒険する奴なんかいるかよ」
「君、悲しいことだが君は『飼育パートナーなし』らしい。」
そんな悲しいことが見え、僕はこのまま死んでもいいやと再び思い目を瞑る。
そして、歯を食いしばった時に、再び今度は違う走馬灯が見える。
「「行ってらっしゃい」」
「気を付けていくのよ~」
「僕ね、ゴートテイマーになる!」
お父さんとお母さんとの家族との思い出。
そして、そう家族に宣言している、小さなころの僕だった。
それを見た瞬間、僕は死にたくないと思った。
強く思った。
ゴートテイマーになる。なってやると。
家族とまた楽しく幸せに過ごしたいと。
その心が僕の体を動かした。
ミノタウロスが振りかざしてきた棍棒は僕の体の真横を掠めていく。
僕は間一髪でその攻撃を躱したのだ。
だが、パートナーがいない僕にできることはほとんどない。
間髪入れずにミノタウロスは今度は棍棒をスイングしてくる。
今度こそ死を覚悟した。
せめてもの抵抗として、残った右手を棍棒に突き出す。
死にたくない、僕にパートナーがいれば、契約できていればこんなことにはならなかったはずだ。僕は僕自身を恨んだ。
「グオオオォォォーーーーーーー。」
「クソぉぉぉぉぉぉーーーーーー。」
すると、右手の方から白い光が輝き始め、そして視界を包んだ。
眩しくて閉じた目を開けると、そこにはミノタウロスの攻撃を指一本で止めるの女性が立っていた。
腰まで届きそうな長い白銀の髪が、ダンジョンの暗さと相まってより際立っている。色素が抜けたような白い肌、尖るような顎先と、襟から覗く細い首筋と胸元が危うい魅力を醸し出している。腰についている剣も不思議と様になっている。そんな女神のような彼女に見とれていると、
「ミドル様、挨拶もしないで申し訳ないのですが、あなたに盾突くこの汚らしい汚物を片付けてもよろしいですか?」
「……あ、はい。」
僕があっけにとられながら返事をすると、彼女はミノタウロスの棍棒を軽々と吹き飛ばし、指を鳴らした。
その瞬間、ミノタウロスは粉々になってしまった。
「わたくしのパートナーに手を出すのは千年早いですよ。」
ミノタウロスを倒した彼女は捨て台詞っぽくそう言うと、僕の方に近寄ってきて僕に魔法をかける。
すると、僕の左腕はみるみる治っていき、体中の痛みも消えていった。
「・・・助けてくれてありがとう。」
「いえいえ、わたくしは当然のことをしたまでですよ。自己紹介が遅れて申し訳ありません。わたくしはあなたとパートナー契約をしたパートナーランクSの女神、アストレアと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
僕はその光景にただ、見とれていただけだった。
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