オルガノン教会にて……

「アルス、お前の父親はどうした?」


「うるせえ……! そ、そんな事は今はどうでも良いだろ…――!?」


「そうか、お前の父親は……」


 神父の前で彼は目を反らすと顔を俯かせた。


「俺もよくわかんねぇーんだよ……。父ちゃんと母ちゃんと喧嘩してたら、いきなり外が爆発して家もその爆風に巻き込まれて全部めちゃくちゃになって、その所為で母ちゃんが死んで父ちゃんも俺を庇った所為で亡くなった。それで俺だけ何故か生き残ったんだ。こんな役立たず生きていても世間様の迷惑にしかならねぇーのに、ニートほどただのゴミグズでしかないに、俺には価値なんか一つもないのにぃっ……!」


 そう言って肩を震わすと、涙を浮かべてグッと堪えた。アルスは自分には存在価値なんか無いと言った。青年の心にある傷は深かった。どうでもいい奴だけが生き残って、そうではない人が先に死んで。その矛盾に彼は天を恨んだ。神父は彼の言葉の意味を理解すると、何も言わずに頭を手で優しく撫でた。


「アルスよ、自分を責めるではない。きっとお前が生き残ったのには他に『役目』があるからだとワシは思う。または神の試練か、いずれにせよ。お前が死ぬ事は両親が悲しむことだ。今は辛いがいつか時が経てば、その傷口も自然と癒やされるだろう…――」


「ッ……!」


その言葉にアルスは涙すると、神父の肩で小さく泣いた。さっきまで生意気だった彼とは真逆に、今は悲しみに震える少年のようだった。


 「よいか、アルス。お前が言っていた通りだ。この街『デュオス』は女神オルキアの像で長く守られていた。聖なる六芒星魔法陣の結界により、魔物達はこの街に一歩も踏み込めず。我々は他のどの国や町や村よりも長い間、平和に身をおいていた。それに結界のおかげで我々の街は魔物から見つかる事も無かった。それほどまでに強力な術がこの街にはかけられていた。お主は、トムからこの話は聞かされてなかったのか?」


「なんか覚えているような、なくもないが……」


「この女神像をこの街に作ったのも勇者アルス様なんじゃよ。彼の『慈愛』が我ら民を、長く魔の手から守っていたんじゃよ」


「勇者アルスか……。こうやってアンタの口から聞かさると、嫌でも俺の先祖がどれだけ凄いヤツなのか思い知らされるぜ…――!」


 アルスは不意に呟くと拳をぎゅっと握った。






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