第150話 一鉄の弟子と新たな装備

 一鉄は居住区に構えた自らの工房とやらにいるようだ。そしてそこには思わぬ人物達も滞在しているのだった。


「あ、お兄ちゃん!」

「あれ? 由里もここにいたんだな」


 由里だけではない。


 以前に俺が救助した由里の友人の面々も揃っているではないか。


「アメリカからはいつ戻ってきたの?」

「ついさっきだよ。と言っても用事が済んだらすぐに戻るから、あくまで一時帰還だけどな。てか、もしかしてこの様子だと一鉄の弟子ってのは由里のことなのか?」

「ううん、私は違うよ。だけど小百合と向日葵は一鉄さんに色々と教わってて、私と楓はその見学って感じ」


 聞けば小百合が武器や防具などの装備を作り出せるようになるスキルを持っており、向日葵の方は回復薬などの消費アイテムを作れるスキルに適性があったのだとか。


 それもあって生産職として圧倒的な経験と実力を持っている先達の一鉄に色々と教わっているとのこと。


「譲か、丁度良いタイミングで戻ってきたな。お前と叶恵に新しい装備を幾つか用意したから、実戦で使う前に問題ないかを試してくれ」

「構わないぞ。そのために存在するような訓練場も開放されたことだしな」


 あそこなら思う存分に新しい武器の性能とやらを確かめることも可能だろう。


 そうして製鉄炉という新しい施設のおかげで装備用の素材も手に入るようになったことで完成したという装備を訓練場にて渡される。


 ちなみに新しい武器に興味があるとかで由里とその友人達も付いてきていた。


「それで外見は魔導銃と変わりがないように見えるけど、この新しい武器はどこが既存の物と違っているんだ?」

「この改良型魔導銃一式の威力や射程などは従来の物と変わらない。ただしフルチャージした時に三点バーストみたいな形で弾を放つことが可能になっているんだ」


 それも放たれる三発の魔力の弾の威力は変わらないとのこと。


 つまり一回のフルチャージで今までの最強の弾丸を三回も放てるようになった訳か。


「ただしその代わりにフルチャージに必要な魔力は多くなっちまったんだがな。でもお前なら、その点に関しては問題ないだろう?」


 小声でこちらに囁いてくる一鉄の言う通りで、確かに無限魔力と魔力譲渡とがあれば魔力を多く消費することなどデメリットにならない。


 つまり俺や俺のユニークスキルの影響がある場合に限り、この魔導銃はフルチャージを三発まで連発できるようになった完全上位互換にしかならないということか。


 俺はその魔導銃の性能を徹底的に確かめる。


 どれぐらいの使用で異常が起きたり壊れたりするのか。


 最終的には茜に貰ったオークキングなど魔石を登録して、それらの魔物に対してどれだけの効果があるのかなどを把握する。


「うん、これは良い感じだな」


 ステータスが上昇しているおかげだろう。


 フルチャージした弾丸ならオークキングでも当たり所によっては一発で倒せるだけの威力があるし、二丁拳銃なら六体までなら瞬く間に討伐することが可能な事も確かめられる。


(それ以外の、それこそアメリカでトレントの群れと森を掃討する際でも役立ちそうだな)


 単純な攻撃力が増えただけでなく敵を殲滅するという意味でも、この新型は貢献してくれそうである。


「うわーオークキングも一発とか流石に凄過ぎでしょ」

「そうだね。私達も一鉄さんとかに鍛えられてそれなりに戦えるようになったつもりだったけど、これを見せられるとまだまだだって思わされるよ」

「てか分かってはいたけど、やっぱり由里っちのお兄さんって滅茶苦茶強いんだねー」

「それな! マジでヤバいよね!」


 そんな俺の検証している姿を見て由里と友人達が何やら騒がしくしていた。


 特に小百合が非常に興奮した様子で。


 それを見てある事を思いつく。


「そうだ、良かったら由里達も新型を使っての性能検証をして手伝ってくれないか?」

「え、私達が?」

「ああ、こういう武器の威力は使用者のステータスによって強化されることがあるんだ。だから俺と普通の人との違いを念のために確認しておきたいんだ」


 自衛隊やアメリカ兵に試してもらうこともできなくはないが、高性能な武器が存在することを迂闊に知られると、それを欲してちょっかいを掛けてこないとも限らない。


 だが新型は今のところ二丁しかない上に、現状では一鉄にしか作れない代物だ。


 ショップで大量に購入もできない以上、そう簡単に譲れない。


 となればなるべく隠しておくに越したことはないだろう。


 それに幸いにも訓練場なら怪我をする心配もないから、たとえオークキングが相手であっても問題はないし。


(由里達がどれだけできるようになったのかとか、この機会に色々と見ておきたいしな)


 そう、戦闘が苦手だった小百合は大丈夫になったのかとかもだ。


 そうして折角の機会なのでゴブリンやオーク、そしてオークナイトなどとの疑似戦闘をすることになった由里達だったが、流石にオークナイト辺りでは苦戦を強いられることとなった。


(それでも由里と楓の動きは悪くないな)


 この二人は戦闘系のスキルに適性があったそうだし、通常のオークくらいなら難なく相手が出来るくらいの実力は持っているようだ。


 特に由里は一時的に速度を上げるスキルを持っているのか、敵の攻撃を素早い動きで躱して翻弄するようなトリッキーなこともできている。


 それ以外の戦闘系のスキルを持っていない小百合と向日葵も、スキルでの戦闘ができないからこそだろうか。


 魔導銃の扱いがかなり上達しているのが随所に見て取れた。


 小百合に関しては以前の様に震えることもなくなっているし、相当な努力を積んだのだろう。


 でなけばあれだけ苦手としていた魔物との戦いを、この短い期間で問題なく遂行できるようになるとは思えないし。


「あーダメだ! やっぱり私達じゃまだオークナイトには勝てないよ」

「うん、私達じゃフルチャージした新型であっても、何発も叩き込まないと致命傷は与えられないみたいだね」


 オークナイトに惜しくも敗北した由里と楓。


「それに引き換え、私達はオークを倒すので精一杯だったねー」

「そうそう、やっぱり戦闘系のスキルがないとキツイって。まあ文句を言っても仕方ないんだけどさ」


 通常のオークに何とか勝利することが出来た小百合と向日葵。


 彼女達が魔物と戦うための訓練を始めてからまだそう長い時間は経っていない。


 それでも通常のゴブリンくらいなら楽勝になっているのは、素直に褒めるべき点だろう。


「ねえ、お兄ちゃん。折角だしまだ時間があるなら、もっと色々と教えてよ。魔物との戦い方の見本を見せる、とかでさ」


 新武器の検証は終わっているし、先生の解析が終わるまではまだ時間があった。


 となればこれまであまり世話できなかったことだし、この場で少しでも教えられることを教えておくとしようか。


「分かったよ。あまり長くは無理だけど、時間が来るまでは付き合うさ」


 最終的にはどんなスキルを手に入れた方が良いのかという相談にも乗りながら、俺は先生の解析が終わるまで妹達の訓練に付き合うことにするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る