第147話 新たな神の使いサファリスと復活の前兆?

 俺も叶恵も無事にダンジョンを攻略し終えた日の夜。


 幸いなことに沖縄の時と違って魔族が待ち構えているようなこともなく、それぞれの場所で二つの聖樹の設置を完了することができた。


 そして俺が叶恵の元に転移した時だった。


『功労者達よ』


 以前ルビリアが話しかけてきた時の様な形で何者かの声が頭の中に響いてきたのは。


 ただしその声はルビリアのものではなかったが。


「こうして話しかけてくるってことは、あんたはルビリアの仲間ってところか?」

『ええ、私の名はサファリス。ルビリアと同じ神の使いの一人です』

「ふーん、これが例の神の使いって奴ね。邪神陣営の侵略を許した上に、その中に裏切者が潜んでいるかもしれないっていう例の」

『その点に関してはおっしゃる通りです。我らの力が及ばないどころか、内通者の特定もできていない以上、そういった誹りを受けるのも当然のことと言えるでしょう。本当に申し訳ありません』


 相変わらずの叶恵の歯に衣着せぬ物言いに対しても、サファリスは怒りを露にすることはなかった。


 それどころか沈痛さが窺える声で謝罪までしてくる始末。


『あなた方の活躍のおかげで少しずつ状況は改善されています。ですがまだまだ敵に支配された地域も多く、この形ではあまり長い時間は交信できません。ですので重要な内容についてはルビリアと同じような形で伝えさせてください』


 その言葉と同時に俺達の前に御霊石にいた御神石が現れる。


 そして当然のことながらその名はサファリスの御神石だった。


「前と同じでこれを先生、叡智の書を持つ人に渡せばいいんだな?」

『ええ。そこには重要な情報以外にも聖樹に新たな特別な機能を追加させるやり方も込めてあります。今のあなた方の状況を鑑みて、色々と役に立つと思われるものですので、それらも上手く活用してください』


 そこで叶恵が煙草に火を点けながら質問を口にする。


「ねえ、聞きたいんだけど神の使いって全部で何人いるの? 仮に大勢いるならその中から裏切者を見つけ出すのはかなり難しいと思うんだけど」

『確かに神の使いは大勢います。ですがその中でも状況などから裏切者の可能性があるのは、私やルビリアを含めて7名ですね』


 そしてその中に一人だけ、確実に裏切者が存在するとサファリスは語ってくる。


『やはり状況的に裏切者がいなければ聖樹の種が奪われたことの説明が付きません。ですがそれが二人以上いたのなら、もっと多くの被害が出ていなければおかしいのです』


 その裏切者の目的が何なのかは不明だが、少なくとも邪神陣営に手を貸しているのは間違いない。


 だからこそもっと痛手を与えられたのなら実行に移していたはず。


「だが実際にはそうではなかった。だとしたらやりたくても出来なかったと考えるべきか」

『ええ、その通りです』


 一人では聖樹の種を邪神陣営に流すのが精一杯だったということである。


『現在その7名には私を含めて厳重な監視が付いていますし、それ以外の面でも警戒は強まっています。ですからこれ以上、裏切者が何かを仕出かす余地はないと思っていただいて大丈夫です』


 仮に何かしようとしたら即座に始末されるだろうとのこと。


『……最後にこれを伝えるべきか迷いましたが、私達に代わって世界を救おうとしているあなた方に隠しておくのは不誠実だと判断しました。ですので確定した情報ではないですが全て隠さず伝えます』


 不安を煽るような前置きの後に伝えられたその言葉を聞いた俺達は驚かずにはいられなかった。


『邪神陣営の一部では、どうやら死者蘇生やそれに類する何らかの研究や実験が行われているようなのです』


 そしてそれには世界中から集められた御霊石などが使われているようだとのこと。


「仮にその死者蘇生の研究とやらが何らかの形となった時、敵は何を真っ先に復活させるのかって話よね?」

「そんなの一つしかないだろ。こっちにとっては実に最悪なことにな」


 勇者によって失われた自分達の親玉である邪神。それ以外にある訳がない。


 そしてその邪神が復活しても、この世界にはそれに対抗できる勇者はいないのだった。


『勿論、これらはまだ確定した情報ではありません。死者蘇生の実験についても色々と不自然な点が多く、仮にその研究がこのまま進んでも邪神が完全な形での復活が可能になるとはとても思えないのです』


 だけど警戒しない訳にはいかない。


 そう告げてくるサファリスの言葉には全面的に賛成するしかなかった。


 かつて勇者パーティが全員で戦うことでようやく討伐することができた強大な存在。


 ただでさえ状況が悪い中、そんな奴まで復活したらとてもじゃないが対処できるとは思えない。


 なにせこの世界にはかつての勇者パーティは半分ほどしかおらず、しかもその内の一人は死んでしまっているのだから。


『とにかくこの件でまた何か分かった際にはそちらにも情報を伝えます。ですから今はこの件は気にし過ぎずに、聖樹の解放を続けてください』

「……分かったよ、考えてもどうしようもないだろうしな」


 今の俺達にできるのは聖樹を解放すること。


 それで安全地帯を増やすことで、敵に渡るだろう御霊石を減らすくらいしかできることはないに等しいのだから。


 折角アメリカの地に新たな聖樹を二本も設置したというのに、全く晴れることのない気分を抱えたまま俺達はサファリスとの交信を終えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る