第5章 楽園と迫害
第141話 プロローグ 新天地にて
世界中で発生する魔物及びその居城であるダンジョン。
現状ではそれに唯一対抗できそうな異世界からの帰還者である俺と叶恵に対してアメリカから協力要請が出された。
聖樹の設置が邪神陣営との戦いの勝敗に大きな影響がある以上、俺達としてもダンジョン攻略に協力することは吝かではない。
そうしてアメリカが用意したプライベートジェットでアメリカ西海岸に到着した俺達を出迎えたのは、ブルームス上院議員というアメリカ政府の人間だった。
「こんな状況で申し訳ないが、それでも心より歓迎させてもらおう。日本の
俺も叶恵も議員から差し出された手を握って挨拶をする。
その背後には議員の護衛と思われるSPらしき人物がおり、俺達の一挙手一投足に目を光らせていた。
『周りにも軍人が多数配備されているみたいだし、大分警戒されているみたいだな』
『それもあるだろうけど、わざわざ上院議員が出迎える辺りからして私達のことに興味があるんだと思うわよ。ほら、本当に噂されるほど強いのかとか。仮に強いのならその強さをどうやって手に入れたのか気になるだろうし』
傍から見れば俺と叶恵などどこにでも居そうな日本人に過ぎない。
そんなただの日本人に可能ならば、アメリカ人だって同じようなやり方で強くなれる方法があると考えてもおかしくはないということか。
確かに筋骨隆々としたアメリカ軍人の見た目だけをみれば、細身の俺の首の骨などあっという間に折られてしまいそうなのは否めないし。
「長旅でお疲れだろう? 最高級のホテルで歓迎パーティを開催する用意をしてあるから、まずはそこで顔見世と攻略のために身体を休めると良い」
「いえ、そのお心遣いは有難いのですが、俺達はすぐにダンジョン攻略に移らせてもらいます」
このことは俺の独断ではなく叶恵と既に相談して決めたことである。
日本でも俺達の存在はあまり表沙汰になっていないし、恐らく魔族が俺と叶恵がアメリカに来たことはまだ把握されていないはず。
(距離的に行けば順当なのは韓国中国辺りだからな」
だとすればアメリカでの敵の警戒も緩いと思われた。
それに見知らぬ地で安全地帯が存在しないのは心配でしかないし、聖樹を設置できれば転送機能で日本に帰るのもやり易くなるというメリットもある。
そういう色々な面から考えて、俺と叶恵は敵がこちらに気付いて何らかの妨害を働こうとする前に、残りの聖樹の種の設置を終えてしまおうと考えている訳だ。
これまでに俺達が手に入れた聖樹の種は八つであり、その内の六つは既に日本で使用している。
だから残り二つをそれぞれ手分けして設置するのだ。
それも可能なら今日中で同時に。
「随分と急ぐんだね。……それほどまでに状況は逼迫しているということかい?」
「ええ、そんなところです」
「分かった。こちらとしても魔物が侵入できない安全地帯とやらが生まれてくれることは大いに助かる話だからね。君達がそれで良いというなら構わないよ」
既に攻略に取り掛かってほしいダンジョンの選定は終わっているとのことで、俺と叶恵はそれぞれがアメリカ軍の案内で別のダンジョンに向かうこととなる。
『ふう……これでとりあえずは面倒なパーティとやらからは逃げられるな』
『あら、良かったの? きっとその高級ホテルのベッドには色とりどりの美女達が、英雄様が訪れるのを今か今かと待ってたでしょうに』
『だからそれが嫌だって言ってんだよ』
恐らくアメリカはそこで俺の弱みを握ってこの後の交渉を有利に進めようとするに違いない。
何故そう思うかって? 本拠地ではない日本でもそうだったからだよ。
自国以外でもそれだけのことをしてきたのだ。
本国ともなれば打てる手なども他国の時より多いことだろうし、何もしないという事はあり得ないだろう。
それこそハニートラップ以外の罠だって存分に張り巡らされているに違いない。
(ったく、そんな事に精を出している場合かって言いたいところではあるが、あちらの立場を考えればそういう対応に出るのは理解できてしまうからな)
今後もしばらくの間はアメリカで活動することになりそうだし、それを考えるとそれら全てを無下にすることで関係が悪化するのは避けたいところではある。
『まあいい。とにかくそれ関連の対応については後回し。今はなによりも聖樹の設置の事だけを考えるぞ』
『はいはい、了解ですよっと。……と言ってもどこかのタイミングで歓迎パーティとかに出て、こっちのお偉い方と顔を合わせる必要は出てくるわよ。あっちの勇者様がそうだったように』
『……ぶっちゃけ面倒だけど、それは仕方がないこととして諦めるよ』
そもそも支払われる報酬についてもまだまとまり切っていないし、設置した聖樹の管理をどうするかなども詰め切れていない。
となれば設置した後にそういう諸々の問題をどうしていくかについて話し合う必要は出てくることだろう。
(最悪、聖樹を設置させしてしまえばこちらの最低限の目標は達成できるし)
聖樹による安全地帯を増やすことにより邪神陣営との陣取り合戦を少しでも有利に進める。
それが人類の敗北を避けるためには必要不可欠な事なのだから。
『それ以外でも次の攻略する二つのダンジョンのどこかで聖樹の種が手に入れられないと、ダンジョンを攻略しても聖樹が植えられないっていう問題もあるものね』
『その時は聖樹を設置しない場合はどういう感じになるのかのサンプルとして色々と検証を進めながら、当たりを引くまでダンジョン巡りをするしかないだろ』
何はともあれ手持ちの聖樹を設置しない事には始まらない。
それを理解しているからこそ俺と叶恵は、手分けしてダンジョンを攻略することにしたのである。
勿論、念話で逐一互いの状況は報告しながらではあるが。
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