第119話 もぬけの殻
無事に沖縄に存在する二つのダンジョンの鍵を手に入れた。
となれば後はダンジョンを攻略するのみ。
ただし敵だってこちらの行動に対して何か対策を講じてくるだろうし、事はそう上手くいかない……はずだった。
だが実際はその想像に反して、想定以上に順調に行き過ぎている。
なにせガーゴイルのダンジョンに入った途端にダンジョンのボスが現れたからだ。
それも他と変わらない通常種のガーゴイルであり、難なく秒殺できる程度の強さしか持たない。
しかもダンジョン内に他に魔物は存在せず、立ちふさがったのはそいつ一体だけである。
当然ながらそこで容赦することがあるはずもなく、俺と叶恵はそいつを瞬殺した。
「いったい何がどうなってるんだ?」
「ダンジョンの構造もフロアが一つだけの単純なものだし、こう言っては何だけど明らかに手抜きダンジョンよね」
困惑する俺と叶恵の目には魔石だけを残して消滅していくダンジョンボスのガーゴイルが映っている。
それと同時にダンジョンに奉納によるダンジョン解放もできるようになるし、奉納が終わればガーゴイルダンジョンのマスターキーも手に入ったのでこれが見せかけだけの罠ということもないだろう。
「ガーゴイルダンジョンは捨て駒で、影法師ダンジョンの方が本命とかか?」
「でも元々沖縄にあったのはガーゴイルが主体のダンジョンのはずでしょ? 影法師ダンジョンが出来る前に私達が来る可能性もなかった訳でもないし、たった一つしかないダンジョンを捨て駒にしてるとは思えないんだけど」
確かにそこを突破されたら聖樹を設置されることになる要塞の守りを薄くする意味はないように思える。
「それじゃあ影法師ダンジョンが出来てから、重要な施設とかをそっちに移したとか?」
「そんな面倒なことする意味があるかしら? ダンジョンが敵にとって重要な防衛拠点ならどちらの守りも疎かにするとは思えないんだけど。……まあその辺りは影法師のダンジョンに行けば分かるか」
どっちにしろ聖樹を設置するためにはどちらのダンジョンも攻略しなければいけないのだ。
だったらこの眼で確認するしかない。
そう思って警戒しながら影法師のダンジョンまで来たのだが、何と驚くべきことにそこでも起こったことは同じだった。
なにせ現れたのは、たった一体の影法師だけだったのだから。
ダンジョンボスにしてはあまりに弱過ぎだし、他にこちらを困らせるようなダンジョンのギミックも存在しない。
その状況で俺達の進撃を阻める訳もなく、影法師のダンジョンのマスターキーも無事に入手して上でダンジョン外に放り出される。
「ここまでもぬけの殻だとは思ってなかったわね」
「ああ、流石にこれは予想していなかったな」
むしろ最後の抵抗とばかりに、これまで以上の難関が待ち構えていると思っていたからそれこそ肩透かしを食らった感じであった。
(敵はいったい何を考えているんだ?)
これまでと違ってあまりに簡単過ぎるダンジョン攻略。
それを単純に喜ぶほどお気楽になれる訳もない。
何故ならどう考えてもこれは敵が何らかの策略を巡らせているに違いないのだから。
「一応確認するけど、実は他に隠されたダンジョンが存在するとかじゃないよな?」
「そんなのが存在するなら、そのダンジョンは奉納者のジョブによるダンジョン特定の能力を誤魔化しきれるってことになるわ。そうなったらお手上げよ」
影法師のダンジョンのように何の変哲もない民家がダンジョン化している場合、奉納者のジョブがなければ発見するのは非常に困難となる。
傷つかない建物という手掛かりがあるので虱潰しで探せばいつかは見つかるかもしれないが、見つけるまでにかなりの時間を必要とするのは間違いないだろう。
「だけど実際のところその可能性はかなり低いと思うわよ。流石にこの能力を用意した神側だってその辺りのことは考えているだろうし」
「確かにこんな簡単に誤魔化される能力を与えるとは思えないか」
と言うかそんな簡単に敵に対応されて翻弄されっ放しになるなら、それこそ人類陣営は抵抗する間もなく邪神陣営に押し切られているはずだろう。
邪神陣営がそこまでの力が有るなら、それこそ俺達のような異世界の帰還者が能力に目覚める前に刈り取るとかになっていないとおかしい。
「まあその辺りは今日の零時になるのを待つしかないでしょ。沖縄の全てのダンジョンを攻略してるなら聖樹の設置ポイントへの案内もされるでしょうし」
「そうじゃないなら隠されたダンジョンがあるから、それを見つけないといけないってことだな」
「あるいは敵はダンジョンでの防衛を捨てて聖樹の設置ポイントで全戦力を揃えて待ち構えている、とかかもよ?」
聖樹を出現させるためには設置ポイントに聖樹の種を設置する必要がある。
つまり設置ポイントには絶対に聖樹の種を持っていかなければいけない。
魔族からすれば、そこで俺達の撃退に成功したら聖樹の種を奪還することもできる、と考えてもおかしくはないのかもしれない。
「なんにしても聖樹の設置が完了するまでは気は抜けないな」
「ええ、魔族が待ち受けていることを想定して準備をしておきましょう」
この予想が外れても、このまま何もなく聖樹の設置が出来るならそれはそれで構わないのだから。
そう考えた俺達だったが、流石にそこまで甘い話はなかった。
何故なら現在の日本に存在する最後の魔族が、聖樹の設置場所で俺達を待ち構えていたからだ。
それもこちらの予想を上回る、実に悪辣で巧妙な作戦を用意して。
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