第114話 戦力増強のための魔導銃貸し出し
急速に魔物が活動範囲を広げる前夜、赤黒い光が空から降ってくるのを見た。
そう話す人物が避難してきた中で何人かいたようだ。となればそれが単なる見間違いではないだろう。
しかも叶恵の話では、この避難民の中でその光を見たという人物の影には影法師が潜んでおり、更にそこから調査を進めたところ、なんとその人物と近い地域にいた人の影のほとんどに影法師が潜んでいたことが発覚する。
『これは偶然じゃないな』
『その奇妙な赤黒い光はダンジョンが発生した影響によるものってところでしょうね』
その赤黒い光とやらの正体は影法師が存在するダンジョンであり、そこから出てきた影法師が近くの手頃な人間の影に潜んだと考えれば納得できる話だった。
そしてその予想が正しければ、影法師のダンジョンが存在する場所も大よそ見当が付くこととなる。
(これでガーゴイルと影法師、二つの魔物のダンジョンのおおよその場所は分かったか)
俺と叶恵なら、ある程度まで近付ければダンジョンの場所は与えられた妙な感覚で掴める。
だから時間さえ掛ければいずれダンジョンの場所も見つけていただろうが、それでもそれまでに必要な時間を短縮できそうなのは朗報だった。
『自衛隊の話だと、まだまだ沖縄各地に救助を待っている民間人が大勢いるみたいよ。だけどその全部をいちいち助けていたら、どれだけ時間が有っても足りない。ここは予定通り一気に私達で攻め入って根本から片付けるのが最善じゃない?』
『だな。ここの防衛体制が整ったらすぐにでも動こう』
念のため周りに聞かれないように念話で会話していた俺達は、そう近い内に自衛隊を分かれる決定を下す。
その方が早く片付けて犠牲も少なく出来る判断したからだ。
有難いことに魔力スポットを利用した防衛拠点の設営も合流した別動隊が協力しているおかげか、かなり早く進んでいる。
この分ならそう時間も掛からずにある程度までの防衛体制も整えられるだろう。
だけど幾らMPが回復し易い魔力スポットであっても、俺のように無制限でMPを消費できる訳ではない。
それにこれまでの戦いで銃弾もかなり消費しているとのことだし、それらを補うための手段があるに越したことはなかった。
(幸いそのための布石は叶恵が打ってくれてるしな)
俺が渡した魔導銃を渡した隊員は、影法師に操られるまで無限に魔力による弾丸を放つその武器を駆使して魔物退治に大きく貢献したらしい。
それも明らかに戦闘スキルに特化した隊員ですら敵わないと言えるレベルで。
それを他の隊員がその目で見ていたのだ。
余程の間抜けな集団でもなければ既に魔導銃の有用性は知れ渡っていることだろう。
『それじゃあ後のことはよろしく。私は至福の一時を過ごしながら待ってるから』
『おいおい、なんなら最後までお前が話を付けてくれてもいいんだぞ?』
『嫌よ、そんな面倒なの』
美味しそうに煙草をふかしながら、叶恵は最後の仕事はこちらに放り投げてくる。
(ったくこの面倒臭がりが……まあここまでで十分過ぎる働きなだから別に良いけどよ)
ということなので、俺はいってらっしゃいと言わんばかりにこちらに手だけ振る叶恵のことはこれ以上は気にしないことにして、早速草壁隊長に話があると近くに控えていた隊員に伝えた。
「は! ……すぐにお連れするようにとのことなので、自分がご案内させていただきます!」
すると無線で確認を取って即座に会ってくれることとなった。
そればかりか待機している隊員の態度も非常にこちらを敬っているのが伝わってくるようになっているではないか。
「それじゃあ案内をお願いします」
「畏まりました!」
まるでVIPでも相手にしているかのような態度には違和感を覚えながらも、ここでそれを指摘してもどうしようもないだろうとスルーして、俺は草壁隊長の元まで案内される。
「草壁隊長! 英雄殿をお連れしました」
「ご苦労……おや、彼一人だけかい? てっきり戦乙女殿も来ているのかと思っていたのだが」
このように叶恵が俺の事を英雄様と呼んでいる影響なのか、何故か一部では俺の事を英雄と呼ぶ奴が現れているらしい。
そして叶恵は何故か戦乙女と呼ばれているようだった。
槍を手に空中を縦横無尽に駆けるその雄姿から連想された呼び名のようで、どうも一部の隊員からは熱狂的支持を集めているというのだから驚かされる。
未知の魔物の罠を食い破って圧倒して見せたのと、普通なら死んでいて当然の重傷から何事もなかったかのように復活した姿がまるで神の寵愛を受けているかのようだったとかで。
「あいつは休んでるとさ」
「それもそうか。魔物相手に大立ち回りしたそうだし、その時の疲労も抜けきっていないだろうからね。こちらとしても別動隊を助けてくれた恩もあるし、必要な物があったら遠慮なく申し付けてくれ」
そう言いながら草壁隊長は案内してきた部下に下がるように指示を出す。
「それで改めて話がしたいとのことだが、何かあったのかい?」
「俺と叶恵は近い内にここを出ていくことになると思う。そのことで相談したくてな」
「それは……そうか。まあ、仕方ないな」
「止めないのか?」
流石に何か言いたそうだったが、それでも続きの言葉を呑み込んで草壁隊長は頷いた。
「本音を言えば君達がここに、あるいは自衛隊に残ってくれたら、それこそ百人力だとは思っているよ。だけどそれだと君達がここにやって来た目的が果たせない、そうだろう?」
「まあその通りだな」
「この短期間だけでも多くの人民を救いながら数多の魔物を討伐している君達が、何よりも優先していることだ。さぞ重要なことなのだろう。だとすれば我々はそれを応援するのが一番だと思ったのさ」
その口ぶりからして、俺達が敵の本拠地を攻略しようとしているのはある程度察しがついているようだ。
まあ謎の赤黒い光の件とかで色々聞いて回っていたので、それも当然かもしれない。
「それに我々は自衛官だ。いくら君達が桁違いの実力を持つ覚醒者だからと言って、いつまでも民間人に守ってもらう訳にはいかないだろう? というかそもそもの話、本気で出て行こうとする君達を我々で止められるとは到底思えないしね」
その冗談めかした発言が強がりであることは分かった。
影法師という謎の手段で肉体を操作してくる魔物の対応策もままならないこの状況で、対処ができそうな俺達がいなくなれば辛くなるのは誰の目にも明らかなのだから。
そしてそれをそのままにするつもりはない。
だからこそ俺は話し合いにきたのだから。
「安心してくれ。俺達が出ていくのは決定事項だが、何の対策もせずにこのまま出ていくつもりではないからな」
「と言うと、もしかして何か手を打ってくれる、いや打てる手があるのかい?」
こちらの言葉に期待を隠せない様子で草壁隊長は尋ねてくるので、俺は焦らさずに解答を提示する。
「まず叶恵がそっちの別動隊の隊員とやらに貸し出した魔導銃だ。あれが複数あれば、ある程度の数の魔物が襲撃してきてもどうにかできるだろう? 銃なら自衛隊も扱いはお手の物だろうし」
「報告にあった弾切れしない強力な銃のことか。あれを我々に与えてくれるのかい? それも複数だなんて」
「あくまで貸し出しだけどな。この事態が収束したら返してもらうぞ」
それでも有難いと草壁隊長は口にする。
実は銃弾の備蓄がかなり心許なくなってきていたそうで、このままだと銃火器が使えなくなるのも時間の問題だったとのこと。
この感じだと思っていた以上にきつい状況なようなので、俺は一定期間だけ無限に弾が出るという魔導銃を予備も含めて五十丁ほど草壁隊長に預けることにした。
また念話も登録しておいて、何かあれば連絡しておくように伝える。
「それと叶恵の方でも最低限の影法師対策をしてくれるそうだから無理はせずに、どうにか俺達が敵の本拠地を攻略するまで持ち堪えてくれ」
「やはりそうだったか。だとすると日本各地で魔物が消滅していたのは……」
「その辺りの話は沖縄を解放してからだな」
言外に今はそれよりも優先すべきことがあると伝えると、草壁隊長は頷いて理解を示してくれた。
「……分かった、我々はここで防衛に専念しよう。そして君達が成功することを心から祈っているよ」
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