第52話 聖なる樹と託された願い
これまで一方的に語りかけてくるだけで会話の成り立たなかった謎の声の主。
そいつが呼び掛けてくるということは会話に応じる気になったらしい。
あるいは聖樹を設置することでどうにかこちらと意思疎通が取れるようになったのか。
「聞こえてるよ。それであんたはこの世界の神か何かか?」
『いえ、私はその神の使いのようなものです。功労者が聖なる木を植えたことにより敵の影響力が僅かながらも弱まりました。それによりどうにかこうして念話を繋げることが可能となった次第です』
ただ敵の妨害は未だに強く、こうして会話していられる時間はそう長くはない。
そう告げた神の使いはどうやらかなり焦っているようだった。
『時間もないので単刀直入に言います。現在の我々は敵の妨害によって劣勢に立たされており、このままでは我々だけでなくあなた方を含めた人類陣営は邪神陣営に滅ぼされるでしょう」
「まあ邪神共はその辺り徹底的なのは異世界で知ってるよ。交渉の余地がないこともな」
東京の惨状を見れば嫌でも分かる。
今は規模がそれほどでもなく発生件数も少ないからどうにかなっているが、これが世界中の至る所で頻発すれば人類はいずれ駆逐されることは。
『理解が早くて助かります。敵がこちらの話に聞く耳を持たない以上、戦って勝つ以外に生き残る手段はありません。そのため神は人類に邪神とその眷属に戦うための術を授けました』
「それがステータスやスキルだな」
『その通りです。またこの緊急事態に際し、神は異世界で特殊な力を得ていたあなた方の封印を解く決断をなされました。あなた方の力は異世界の神から授けられた力。それは場合によっては邪神とは別の意味でこの世界を破壊しかねない強力で危険なものなのです』
だからこちらの世界に戻る際に封印されていたと。
だけど今はそれに頼らなければならないほど追い込まれているということか。
『またそれ以外でも魔力スポットを作り出すなど、邪神勢力に対抗するための手段を我々は授ける予定でした。ですが敵もそれは予想していたようです。魔力スポットの例からも分かる通り、あなた方に授けられるはずだった力や装置などに敵の様々な妨害が入れられてしまっています』
異世界よりも魔力が回復し辛いことはこの世界の特性だからどうしようもない。
だからそれが問題にならないように魔力スポットやそこで使える魔力回復薬を人類に授けようとしたが、それを知った敵の妨害によって半端な形で実装される形になってしまったようだ。
またこれまで色々と説明不足だったのも敵の妨害によるせいで、神やその使いの本意ではないとのこと。
(魔族共はとことん俺達に抵抗するための力や情報を与えないようにしてるのか)
敵からすればその行動は非常に正しいし理に適っている。
なにせ偶然かもしれないが、その妨害のおかげで聖女である美夜を仕留めることに繋がったのだから。
『この聖樹の種も本来なら最初から世界各地に設置されるはずでした。それによって敵が入りこめない聖域を作り出し、侵攻してくる敵に対しての迎撃拠点として活用してもらうために。ですがその前に敵によって奪われてしまったのです』
それでもショップでの売却が不可能なことから分かる通り、決して失われない代物として作成されていたおかげで敵に壊されることはなかった。
「そして破壊できず、かと言って放置もできないから自らの拠点であるダンジョンに隠しておいたってことか」
『付け加えるなら奪った聖樹の種の在り処を隠す意味もあるのでしょう。敵の力が最も強いダンジョン内では、我々にもできることはほとんどないに等しいのです』
それでもどうにか抵抗するべく行動したものの、不活性状態の脱出ポイントを挟み込むくらいしかできなかったと神の使いは告げる。
(建物を建てる際にこっそりと建材の一部に異物を紛れ込ませたって感じか)
素材にあからさまに手を加えれば作る際にバレてしまう。だから変えることが出来るのは最低限だった。
だけど家を建てた際に柱などに一本だけ予定と異なる素材が混じっていたとしても、もう建設した後ではそう簡単に変えられないのと同じだ。
最悪の場合、建設した建物を全て解体しなければその異物の交換ができないように。
『功労者のおかげで幾つかの聖樹の種を取り戻すことはできました。ですが依然として我々が押されていることは否めません。ですからあなたにはこれからもどうにかして敵に奪われた聖樹の種を奪還し、それらを世界各地に設置してもらいたいのです」
奪われた種がダンジョン外にあるなら痕跡を辿って場所を突き止められたかもしれないが、それが分かっているからこそ敵も色々なダンジョンに散らして隠していると思われるとのこと。
だからこそオークダンジョン攻略の際には聖樹の種が手に入ったのにゴブリンダンジョンではそうではなかったということらしい。
「種を設置すれば劣勢な状況とやらも変わるんだな?」
『間違いなく。功労者がダンジョンを破壊したことで東京周辺における敵の影響力は減衰しました。ですがまだ完全に取り戻せた訳ではないのです』
このままだと一定の時間が経てば敵が力を取り戻して新たなダンジョンを発生させられてしまうらしい。
そうなればまた同じことの繰り返しだ。
「それを防げるのが聖樹だと?」
『はい。聖樹の周辺は聖域となり、聖域は邪神とそれに類する存在を全て拒絶します。そして聖域は聖樹が有る限り存在し続けるのです』
そこでなら魔物の脅威に怯えることなく生活も可能になる訳か。
今はダンジョンが発生していない地域も、それがいつまで続くかは分からない。だけど聖域ならそれの心配もいらないと。
『残念ですが、どうやら時間が迫っているようです』
他にも色々と話を聞きたいところだったのだが、残り時間は僅かだと神の使いは告げてくる。
『……最後に私の加護と授けられる知識が籠ったアイテムをこの場に残しておきます。敵に奪われることも想定して厳重に封印した状態で。これがあれば聖樹と聖域の利用方法も分かるでしょう。ですからそれを叡智の書を持つ者に渡してください』
「そんなに重要な情報ってことか?」
この場で伝える時間がないとはいえ、わざわざ封印するほどの情報とは何だろうか。
別にこの後すぐに転移して先生の元へ向かえば封印など必要ないと思うのだが。
『その通りです。ですのでくれぐれも敵に知られることのないようにしてください』
何故か特定の部分だけ強調するような言い方に疑問を覚えたが、それを尋ねる時間はなかった。
『功労者……いえ、知られざる英雄と呼ばれし者よ。私、ルビリアはあなたを信頼して全てを託そうと思います。ですからどうか、力不足の我らに代わりこの世界を救ってください』
その言葉を最後に念話は途切れてしまう。
そしてそれを契機にしたかのように光を放っていた聖樹の種が砕け散ると、その場から六角形の柱が突き出てくる。
それは雲に届くのではないかというところまで伸びると徐に停止していった。
「これが聖樹なのか?」
見た目だけなら透明な水晶でできた巨大な塔と言ったところだろうか。
そんな場違いな建築物が皇居のど真ん中に生えてしまっている形である。
(……これは目立つしどうあっても隠せないな)
そう思っていたところでその塔の真下に何かが落ちているのを発見する。
それは御霊石に酷似した見た目をしていた。
ショップを利用して名称を確認したところ、ルビリアの
(とりあえずこれを先生に渡せばいいんだよな)
分からないことだらけの現状で情報は幾らあっても困ることはない。俺はすぐに転移を使用して先生の元へ向かった。
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