第22話 オークナイト戦

 こちらが動き出した瞬間、二体のオークナイトが反応した。


 それを見てこちらもいきなりオークナイトを狙うことは諦める。


(集団の頭から打ち取れれば楽だったんだがな)


 今の状態なら鎧の上からの攻撃でもオークナイトを仕留められるかもしれない。


 だけどそこで手間取ればもう一体のオークナイトがすぐさま反撃してくるだろう。


 それでも負けることはないだろうが、そこで時間を消費して他のオークを逃がすことは避けなければならない。


 敵に余計な情報を持ち帰らせないためにも全滅させるのは必須事項。


 となればまずはこちらの動きに反応できていない個体から仕留めるまで。


 建物から全力で飛び出した勢いのままに、未だに振り向くこともできていない個体の首へと刃を走らせる。


(まずは一体目)


 刃が敵を切り裂いた感触を覚えながらも止まらない。


 そのままの勢いで隣のオークの足へと下段蹴りを放つ。


 人間の倍以上も太い足を持つオークの膝に、その一撃はしっかりと狙い通り命中して骨ごと蹴り砕いた。


 そして片足を潰されてまともに動けなくなった個体を突き飛ばして距離を取る。

 こちらに倒れ掛かられても困るので。


 そこで初めからオークナイトだった個体が動いた。


 持っていた大剣を片手でこちら目掛けて振り下ろしたのだ。


 人間なら両手でも持ち上げることも困難だろうそれを片手、しかも相当な速度で振るう圧倒的な筋力。


 やはりただのオークなどとは格が違う。


 下手に武器で受ければ折られるのが目に見えているので後ろに下がって回避を選択。


 だがそれを狙っていたのか、つい先ほど進化しばかりのオークナイトがこちらの回避先に向かって攻撃を仕掛けてきていた。


 進化したばかりでも連携に問題はないらしい。


(やっぱり進化すると手強さが段違いだな)


 残された通常のオークが未だに事態についてこられていないのに対して、つい先程までオークだったはずのオークナイトは対応が可能になる。


 これだけでも魔物が進化することの恐ろしさが伝わるというものだ。


 だからこそこちらからしてみれば、そう簡単に魔物を進化などさせる訳にはいかない。


(転移発動)


 二体目の膝を蹴り砕いた際にマーカーは設置済みだ。


 だから回避した先から足を砕かれて倒れようとしている個体のもとへと無事に転移する。


 僅かな距離かもしれないが、敵の攻撃を回避するのには十分だ。


 転移によって敵がこちらの姿を一瞬でも見失った隙を逃さず、そのまま三体目のオークを斬り殺す。


 これで通常のオーク二体が魔石となり、一体は足を砕かれて行動不能。


 残すは二体のオークナイトのみ。

 十秒も経過していないから制限時間はまだ一分以上も残っている。


(マーカー設置)


 敵に気づかれないように足裏で地面に転移マーカーを設置する。


 自分だけの転移なら消費MPはかなり軽減される仕様なこともあって、ここにくるまでにも色々な場所でマーカーは設置してある。


 最悪はそれらのどこかに転移して逃走することも可能なのだ。殲滅するつもりだが、いつでも逃げられる余裕があるのは心理的余裕が違うというもの。


「ブモモモ!」


 仲間を殺されて怒ったのか、進化したての個体が先走って攻撃を仕掛けてくる。


 それをカバーしようともう一体の方も動き出しているが、仲間に急に動かれたせいか僅かにその行動は遅れていた。


(同じオークナイトでも練度に差があるのは異世界と同じか)


 この場合だと、進化したばかりの個体よりも最初からオークナイトだった個体の方が冷静で敵としては厄介なように思える。


 少なくとも完全に連携を取られていれば、こちらは反撃するのも難しかっただろう。


 だが僅かでも隙があれば話は違う。


 時間を掛けて応援を呼ばれても困るので、少々強引にでも終わらせにかかる。


 先に仕掛けてきている個体の攻撃を紙一重で躱して、鎧の隙間を狙って刃先を滑り込ませる。


 脇腹から心臓などの重要な内臓を狙った形だ。それが成功するかは微妙なところ。


 だがそれが成功しなくても構わない。敵の肉体に攻撃が当たった時点でこちらの目的は達しているのだから。


(転移)


 今のMPでも短い距離なら他の生命体ごと転移が可能。


 即ち敵に刀を突き刺した状態で先ほどマークした地点へと移動することとなった。


 その結果、援護しようとしていた個体の攻撃は僅かに間に合わず空振りに終わる。


 そのまま俺は敵に突き刺した刀は手放して拳を握った。


 体に刀を突きたてられた痛みは人間だろうと魔物だろうと変わらない。その状態では動きが鈍くなるのも同じで、


「ふん!」


 だから全力でその顔面に拳を振り抜いた。


 強化されたステータスで隙だらけとなった頭部への一撃を受けたオークナイトは、脳震盪でも起こしたらしく、そのまま仰向けに倒れていく。


 ただ魔石になっていないのでまだ死んではいないようだ。


 そしてそのオークナイトの手から零れた大剣を掴むと笑う。


 武器が手に入ればこちらのものだと。


 それを見た残されたオークナイトは、ここまでの手合わせでこちらに敵わないと判断したのか、脱兎のごとく反転して逃げ出そうとする。


「その判断は間違ってないが、少しばかり遅かったな」


 その背後から迫った俺は容赦なく大剣を振り下ろし、その刃は呆気なくオークナイトの頭部をかち割って止めとなる。


 そうして身に着けた装備を残すことなくオークナイトは魔石だけを残して消えていった。


(大剣をそのまま強奪できればよかったんだけどな)


 魔物が使う武器の大半は進化の際に作り出される、一種の肉体の延長上のようなものらしい。


 だから殺さなければこうして奪って使えるのだが、仕留めたら魔石だけしか残さない性質上、殺せば消えてしまうのだ。


 一応、それも確認するために動けなくなっていた残りのやつにも止めを刺すが、やはりその仕様には変化がないことが分かるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る