無限魔力の異世界帰還者

黒頭白尾

第1章 帰還と喪失

第1話 勇者の使命は終わりを迎える

 おおよそ五年前のことだ。


 当時十九歳の大学生二年生だった俺、真咲まさき じょうが異世界に召喚されたのは。


 その日は夏休みを利用して海外旅行に行こうとしていた。


 だが乗っていた飛行機は異常が発生して緊急着陸を行うこととなり、不時着の際の凄まじい衝撃で意識を失った後は何故全く見知らぬ場所に立っていたのだ。


 そこで異世界の神だという存在から飛行機は墜落して本来なら乗客全員が死んでいたこと。


 そしてこのままでは死んで記憶を全て失った上での転生が行われるということが説明された。


 それを回避したいのなら異世界の神の望みを叶えて欲しいとそいつは述べた。


 具体的にはその神が存在する世界が、これまた異なる世界の何者かから侵略されているので、それを撃退するというものだ。


 要するに俺達はこのまま死ぬか異世界で邪神とその眷属と呼ばれている奴らを撃退して本来は失うはずだった命を拾うかの二択を迫られた訳だ。


 その条件でそのまま死ぬことを選んだ奴はいなかった。


 そうして異世界の神から邪神を撃退する特別な力を各々が与えられて俺達は異世界へと降り立った。


 そこからは大変だったものだ。


 異世界は所謂剣と魔法のファンタジー世界のような場所で常識が違うどころか魔法やスキルなどの元の世界では存在しえない超常の力が栄えている。


 幸いなことに俺達転移者は神から与えられ得たチート能力をそれぞれが有していたので、それを活用して邪神とその眷属共と戦うことは何とか可能だった。


 刃物も弾く強靭な肉体と半身が消し飛んでも元に戻る再生能力を有した大男。


 古今東西あらゆる魔法を習得できる才能が与えられた少女。


 半死半生の奴でもその癒しの力で命を救える才媛。


 千里先を見通す魔眼とその影を捉えることすら困難な隠形能力を与えられた少年。


 異世界でのありとあらゆる叡智を得る権利を得た老人。


 竜と友となってその背に乗って空を駆ける幼子。


 聖なる光を纏い、邪神とその眷属に対して絶大な力を発揮する青年。


 他にも色々な力を与えられた人がいた。


 その中には邪神との戦いで死んでしまった人も多くいる。


 だがそれも今日で終わりを迎えた。


 今述べたチート能力を持つ勇者パーティと呼ばれる奴らが遂にそれを成し遂げたからだ。


「おい譲」


 全身がズタボロになっているがどうにか生きてはいる。


 普通ならこんな重傷は助からないかもしれないが幸いなことに高位の治癒師が間に合いそうだ。


「あいつら、遂にやってくれたな」

「ああ、すげえよ。これで元の世界に戻れるんだな」


 流石は勇者と呼ばれる奴らだ。本当に尊敬する。


 あいつらのおかげで待ち望んだ帰還が叶うのだから本当に感謝しかない。


「その、お前はどうするんだ?」

「……俺は帰らない。いや帰れないさ」

「まあ、そりゃそうだよな。お前にはこっちで家族ができたんだもんな」


 同じく隣で血だらけになって倒れている男は一緒に旅行に行った仲でもある今ではただ独りになってしまった元の世界からの友人だ。


 こいつの他にも二人、共に異世界に飛ばされた奴が居たのだが邪神との戦いで死んでしまったから。


 気付けばお互い二十代半ばだし、こいつのようにこの世界で愛する人を見つけた奴も少なくない。


 そしてこいつは異世界人の妻と子供が出来た時からこの世界に骨を埋める覚悟を決めていたからこの答えは予想通りだ。


「譲は帰るんだろう?」

「ああ、俺は帰る。家族にも会いたいしその為にこれまで戦ってきたんだからな」

「そうか。それじゃあ寂しくなるな」


 それが永遠の別れになるだろうと分かっているからかこいつは悲しそうだった。


 今のところ異世界との行き来は神から授けられた特殊な召喚陣でなければ行えない。


 そしてそれを起動するためには莫大な魔力が必要となる。


 通常の方法ではそれを満たすのに数百年もの時間が必要になるくらいに。


 今回のように神が出した条件を達成した際はその魔力は神がどうにかしてくれるが、それで出来るのは帰ることだけ。


 もう一度、こちらに来ることはまず不可能だろう。


「まあ再会の希望は捨てないでおこう。あるいはまたこういう事態が起きれば会えるかもしれないぞ?」

「冗談でも止めてくれ。こんな邪神との戦いなんて一度だけで十分だ。もう俺は家族と平穏な暮らしをしたい」

「違いない」


 そんな風に地面に横たわりながら笑い合っているところに治癒師が駆け込んできた。


「お二人ともご無事ですか!?」

「結構ヤバイ。だから早く治療してくれ」

「俺はまだ余裕あるから譲の方から頼む。こいつ、無茶し過ぎで体の前に脳味噌がぶっ壊れる寸前だぞ」


 流石は死線を共に潜り抜けた終生の友。俺の状態を言わなくても理解してくれている。


「分かりました! 魔力が心許ないですが最低でも状態維持はしてみせます!」

「いや、魔力足りないのはどうにかなるぞ」


 そう言って俺は自分に与えられたチートスキルを使った。


 俺が神から与えられたのは莫大なる魔力とそれを他人に譲渡できる能力だ。


 残念なことに魔法の才能などは与えられなかったので普通の方法では魔法を使えなかったがこうやって他人や他の物に魔力を分け与えることができる。


 勿論魔力は休めば回復するが、それにはある程度の時間が必要であり、俺はその回復するための休む時間を短縮できる訳だ。


 直接的に戦える力ではないので前線で活躍する機会は少なかったが、この能力は色んな所で重宝されたものである。


 例えば今のように砦や街を守るための結界の魔力をたった一人で長期間維持するなんて俺以外には不可能だったろう。


 まあそれでも流石に無茶が過ぎた訳でこうして脳味噌が溶けるくらいに熱くなっているのだが。


「感謝しますけどこれ以上は能力を使わないでください!」

「別にいいだろ。もう隠す必要もなくなったみたいだし」

「そういう問題ではありません!」

「分かってるって。それにもう限界だ」


 魔力は尽きなくても能力を行使する気力が欠片も湧かない。


 酷使した脳も体も緊張が解けたことで遂に限界を迎えたようだ。


 いや、正確にはずっと誤魔化してきた限界を超えた状態にようやく気付いたのだろう。


(ああ、眠い……)


 治癒魔法が身体を癒してくれるのが分かる。


 それと同時に抗いがたい睡魔が襲い掛かってくる。


 この一月、結界の維持のためにまともに眠れなかったがようやくそれも終わりだ。


「安心しろ。意識がない間は俺が責任持って守ってやる。だから今はゆっくり寝てろ」

「ああ、悪いけど……頼むわ」


 その答えるだけで精一杯ですぐに意識が闇に沈んでいった。


 疲れた。本当に疲れた。


 だけど勝利した今ではその疲労が心地よい。


「おやすみ、知られざる英雄」


 そんな無二の親友の声が沈みゆく意識で聞こえた気がした。


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