第6話 横川博子(岡平市職員)[1]
もっともここから見ると「きのこ」ではなく「
最初の感想は「火事かな? あんなに煙が黒いのは何が燃えているのだろう?」ということだった。石油コンビナートの火災とかならば大ごとだが、でも、この近くにそんなものあったっけ?
あの方角は海水浴場とかがあるだけで、小さい工場さえなかったはずだ。
心配はなさそうだ。下で火事か爆発事故が起こっていたとしても、そのまま燃え続けているとか
それでも、横川博子は、その真っ黒な「きのこ雲」を見て、とても不吉な予感を抑えきれなかった。
そして困ったことにその予感はすぐに現実になった。
市役所のビル三階の北東四分の一のスペースを占める事務室のあちこちで電話が鳴り出した。
「はい、岡平市教育委員会教養文化事業課でございます。……はい。はい? ……いえ、それはこちらでも見ておりますが。はい? いえ、それは市役所の防災課のほうで。ああ、いえ。ですからこちらは担当が違いますので、なんとも……」
「……はい? いえ、その……ああ。いえ。こちらの線量計では数値は正常ですが……はい。はい。もういちど確かめます。はい。……ええ、0・07マイクロシーベルトですよ。通常どおりです。変化ありません。は? いえ、
予想どおりだった。いや、予想以上だ。
だいたい、かりにほんとうに大災害だったとして、教育委員会が何をやれと?
しかも教養文化事業課が。
ここがこの状態なら、警察や消防はもっとひどいことになっているのだろう。
ざわついた事態のなかで、自分の席のPCに飛んできたメールを見逃さなかったのは、自分を
席に戻ってメールを開く。
「前にお世話になった
ああ、これか、と博子はすぐに納得した。
現場ではすぐ目の前が見えないほどのほこりが舞い上がったという。ならば、それは真っ黒なきのこ雲のようにも見えるだろう。永遠寺ならば、方角も合う。
すぐに顔を上げて役所の部屋の中へと声を張り上げる。
「あのー」
残念ながら博子の声は通りが悪い。それでも言うべきことは言ってしまおうと思う。それでもう少し声を強くして言った。
「あの煙は建築現場の事故だそうです!」
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