(40) 知恵の実-17

"祝宴の大広場"、その豪華な装飾が施された舞台で、魔女は満足げな笑みを浮かべている。並べられた調剤品を眺めながら、納得の結果に魔女、カイルベッタ ウインターフロストは、


「どれも扱いが丁寧で、安心する仕上がりですね。────私達の幸運は、貴女が"学園"に来てくれた事なのでしょう」


透明感のある澄んだ声が、広場の中を響いてゆく。


カイルベッタ ウインターフロストとシュリードゥワリカの2人の魔女に向かい合いながら、引き受けた依頼品を無事納める。遅延することも無く、見込んだ通りの日数で無事に納品できた事に、私は安堵の胸を撫でおろす。



「身に余るお言葉を頂き、感謝します。また何かございましたら、ご遠慮なくお申し付けください」



私は気がかりなことが取り除かれて、安心した表情で返答する。



「ささやかですが、気持ちばかりの品をお贈りしましょう。気に入って頂けたら幸いです」



カイルベッタ ウインターフロストはそう言いながら目配せすると、シュリードゥワリカは美しい宝飾が施された、鞘付きの短剣を取り出してこちらへ向ける。それは四大元素における"風"の象徴とされ、魔術の儀式にも用いられる、アサメイと呼ばれる小さな短剣だった。


魔女、シュリードゥワリカは小さな白い柄を持ち、短剣を私に向けて差し出しながら静かな微笑を含んだ声で語り掛ける。


「剣の象徴である知性は使う者の心次第で、白にも黒にも成り得ます。そして留まる水は腐敗しますが、流れる水は清らかさを保ち続ける事でしょう。どうか、全ては笑顔へ通じる道を突き進んでゆけるよう願っています」


選別の言葉を添えながら、丁寧に一礼した。


続いてカイルベッタ ウインターフロストは、私を優しい眼差しでじっと見つめながら、


「私達の物語の中には、喜び、驚き、悲しみ、別れ、そして出会いが詰まっています。世界には貴女のまだ知らない仲間や居場所が待っている、そしてそれは、全てが驚きと幸せに満ち溢れている事でしょう。────今も未来も、世界は広く狭いですが、どうか貴女にとって良き思い出が出来る様に願っていますよ」



踏み出そうとしている私を、魔女達はそっと優しく背中を押す。


他者との繋がりを脈付けていく中で、私の手元に集まってきた思い達は、心を温かい気持ちにさせてくれる。



私は感謝の言葉と共に、深々と頭を下げて、丁寧に、丁寧に、一礼して2人の魔女に敬意を示したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る