魔法の薬

@yuzuki_desuze

魔法の薬

 雨の日の午後。

 あるところに一人の魔法使いが居た。


「んー?レシピによると…トカゲのしっぽ!?無理無理無理!」


 そう、この魔法使い。

 名はペイン、虫が無理なのである。


「ちょっと、ペイン!うるさいんだけど!静かにしてよ……。こっちは試験の練習してるんだから!」


 この試験とは二週間後に行われる、魔法学園入学試験の実技試験の事である。

 この少女マリーはその試験の課題である、破壊、創造の魔法の練習をしていたのだ。


「えー?僕も魔法薬の練習をしてるんだけどなぁ。」


 魔法使いとは正確に言うと、魔力を言霊に込め魔法を使うものと、魔力を物体に込め魔法薬や魔法道具を作るものに分かれる。


 ペインは後者、マリーは前者である。


 二人とも試験の練習をしているのには変わりないが、性格の違いと部門の違いでよく言い争いになっている。


「ねぇー、トカゲのしっぽ取ってきてー。」

「はぁ?嫌よ気持ち悪い。そっちの専門はあんたでしょうが。」

「やだよ!キモいもん!」


 そうこういっていると。


 先程まで降っていた雨が突然止み、天を裂くように光が降り注いだ。


「なに!?〈我らを彼の光から護りたまえ〉"ライトシールド!"」


 マリーは魔法の天才であった。

 低難度の魔法でも魔法の糸を紡ぎ上げ、高難度の魔法と同様の効果をもたらすレベルのものを放てるのだ。


「マリー!ありがとう!」


 マリーは二人と義両親が住む家全体にこの魔法を掛けたのだ。


「とりあえずお義母さんたちのところに行きましょ。」


 そういいながら階段を降り、一階のリビングへと向かっていった。


「まってよぉ!」


 ペインも慌てて向かおうとするが、念のためにと粉末状の魔法薬と鞄を持ってから一階へと向かった。


 マリーは養子であった。

 ペインの両親に引き取られ、同い年であるペインといつも一緒に過ごしている。


「お義母さん!お義父さん!大丈夫!?」

「えぇ、大丈夫よ。ありがとう。」

「今、国から連絡が届いた。この光は七人の魔法使いの一人の、太陽の魔法使いソフィア様が亡くなられたことによるものだそうだ。」

「ソフィア様が!?」


 この国には世界中の魔力を統率する七人の魔法使いがおり、火、水、風、土、光、闇の六つの魔力をそれぞれ扱っている。


 太陽の魔法使いとは、その他すべての魔力を扱える魔法使いの事である。


 そのため、かなり人数が少ないのだ。


 基本一人につき一つの魔力しか宿らないのだが、稀に、六つの魔力すべてを扱えるものがいるのだ。

 しかし、先程言ったように数が少なく、現在は後継者がいない。


 ある一人を除いて。


「つまり、あたしが次の……。」

「いや、そうならないように全力で他の魔法使いを探してるんだ!…マリーは心配しないでも大丈夫だ。」


 マリーは六歳の時からすべての魔力を操れ、魔力量も膨大だった。

 太陽の魔法使いに成り得る素質を持っていたのだ。


「父さん、このままじゃ他の元素の均衡も危ないんじゃないかな。」


 元素とは、すべての物体の元の事である。

 この世界では、すべての物が魔力をもとに出来ており、元となる魔力の事を元素と呼ぶことや魔素と呼ぶことがある。


 他六つの魔法使いは魔力にムラがあるため、太陽の魔法使いはそのムラをなくして魔力の均衡を保つ役割がある。


「あぁ、洪水や地割れも起こるかもしれない。」

「少しでも、僕も頑張るね!」


 そういうと僕は魔法薬を取り出す。


 僕が使う魔法薬は基本的にカタチだけで、使う直前に僕の魔力を込めてやっと完成する。

 込めてから時間が経つと僕の魔力では効果が弱まってしまうし、使う魔法薬の量も規模によって変わるためこの方法で使っている。



「……」


 魔力を込めて、窓から空へ投げる。

 するとマリーが風の魔法で遠くへ飛ばしてくれた。


「ありがとう、マリー。」

「良いわよ、これぐらい。」


 僕の魔力は他の人と少し違っていた。


 属性云々ではなく、無効化なのだ。


 もはや魔法と言って良いのか分からないが、魔法を無効化したり魔力の流れを止めたり出来る。


 そうここには、すべての魔力を操るものと止める者がいるのだ。


 僕の魔力を込められた魔法薬たちは、空へ飛び光を徐々に押さえていく。


「……まだまだ足りないか。」

「あたしも手伝うわ。」


 マリーはそう言うと光の魔力を操り、空の光を操作していった。

 さらに威力が鎮まっていく。


 そこに僕の魔法薬を使い完全に成功した。


「ふう、二人とも頑張ったな」

「ありがと、お義父さん。」


 だが、太陽の魔法使いを即位させないと根本的な解決にはならない。


「…じゃ、あたし王都に行ってくるね。」

「え、待ってよ!もうお別れなの!?」

「だって、仕方ないでしょ?正式に決まるのはまだだけど、今のところあたししかいないんだし。」


 その言葉に、彼女は特別なんだと再確認させられた。

 僕の手には届かない存在なのだと。


「…それに、だれがお別れなんて言った?」


「え?」


 七人の魔法使いは王都に常に居るため、当然ここからは離れることになる。

 何を言っているのか意味が分からなかった。


「いや、だって…!」

「あんた、魔力無効化できるでしょ。この先また別の魔法使いが死んでも、暴走を食い止めれるじゃない。国は喉から手が出るほど欲しいはずよ。」

「そっ…か。」


 僕の口角が徐々に上がる。


 やった、マリーと離れなくて良い。






「ほら、泣くな!さっさと行くよ!」

「ふぇぇん、ぱぱぁ、ままぁ~。」

「うっさい!早く馬車に乗る!」


 服を引っ張られながら馬車に乗ろうとする。


 すると、パァンッと音がなった。


「……え、は?マリー?」

「あれ…?シールド、間に合わなかったな…。」


 マリーが、撃たれた。






 水の魔法使いによると、これはとある者たちの陰謀だったらしい。

 魔法に恵まれなかった者たちが七人の魔法使いを妬んで起こしたのだそうだ。


 太陽の魔法使いが居なくなれば世界は滅びると思って。


 現在は"太陽の魔法使い"は不在である。


 代わりに僕が王都へ入り、魔力の調整を行っている。


 太陽の魔法使いが足し算ならば、僕は引き算で均衡を保っている。


 …でも。


 …だけど


 ……しかたない。



 マリーがいなくなって壊れかけた僕の心は、もう耐えられなかったのだ。



 僕は世界中に魔法薬を飛ばした。


 その日、「世界から魔力が消え去った」。

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