第九話 迫り来る危機

 明日奈が病室を出た後、ショーンに元の場所で監視任務を続けるように命じた。

 杏珠は明日奈に付き添ったため、廊下を歩いていたところ。二人は遠くに二馬友と涼宮遥を見かけた。するとすぐに近づいていった、子どもの話し方に切り替えて挨拶した。


「こんにちは、遥姉ちゃん。」

「あら、明日奈ちゃん。元気そうでよかった。あかなちゃんの見舞いに来たの?」

「はい、遥姉ちゃん。茜の様子を見に来ました。」

「あの……あかなちゃんは大丈夫?先日、記憶がなくて私たちに近づいてくれなかったから、心配していたの。」


 遙の目の下には浅いクマが見え隠れしていた。メイクを施してと努力しているようだったが、あまり効果がなかったようだ。


「大丈夫だよ、遙姉ちゃん。茜、すぐ良くなるって。」

「本当なの?」

「本当。明日奈、茜とお話できたし、笑顔を見せてくれたから。」

「それは良かった……なんてあかなちゃんが言っていたの?元気そうだった?」

「はい!茜、『明日奈、また遊ぼうね』って言って。茜は元気がいっぱいだよ。」


 この話は作り話が荒唐無稽過ぎると友と杏珠は判断した。二人は心臓が飛び出しそうなほど驚かされた。しかし遙はまったく明日奈が嘘をつくとは思わなかった。


「聞いて安心した……ありがとう、明日奈ちゃん。」

「どういたしまして、遙姉ちゃん。」


 遙はこの言葉を聞いて、思わず苦笑した。


「まさか……どうして子どもに慰められることになったんだろう。」

「大丈夫、あの事故で助かったのは奇跡だと思う、そんなに悪くない。」


 友が遙を励まして言った。


「うん、それでは、私もあかなちゃんに会いに行ってきます。」

「はい、遙姉ちゃん。明日奈もまた茜に遊びに来ますからね。」

「明日奈ちゃん、また見舞いにいらっしゃるのを楽しみにしています。」

「バイバイ!遙ちゃん。」

「明日奈ちゃん、じゃまたね。」

「じゃあ、明日奈、車に乗りますか。」

「それでは、ありがとうございました、ユウ様。」


 遙も手を振って「さようなら」と叫んだ。明日奈たちが去った後、茜の病室を訪れた。

 一方、明日奈と友は醫院を出た後、白い小型トラックに乗った。杏も彼らに同行し、車内に乗った。すぐに出発せず、病院での出来事について話し合った。

 最初に口を開いたのは友だった。


「茜の様子はどうだった?」

「茜は自分が任天道の生まれ変わりだと認めていた。」

「そうですね。」


 杏珠も「今の茜は以前よりもっと陰鬱そうだけど」と言った。明日奈が冗談を言って「前世も今世も同一人だった」と笑った。


「前の交通事故は人為的な可能性があると警告してくれた。」

「それについて茜は反応があった?」

「詳しくは話せなかったの。遥姉ちゃんが突然訪れたから。」

「しょうがない。遥には茜の転生したことは内緒にしているから、会話が聞こえないように気を付けなければいけなかったし。」

「また病院に行って茜と話をするわ。今日は遥姉ちゃんがいたから詳しく話せなかったけど、次に会うときにはきちんと事故のことを聞きたいと思うの。」

「ハハハ!やっぱり君に頼んで正解だったね。他の人じゃ多分無理だったと思うよ。」


 明日奈は首を振った。


「でも今、最大の問題は、茜……いいえ、任ちんが自分が女の子に転生した事実を受け入れようとしないことだった。」

「なに?……うーん、だいたいわかった。それはやっかいだ。」


 杏珠は「わかった? おまえは何がわかったんだ?」と言ったが、友には幽霊の声は聞こえなかった。明日奈が友にその言葉を伝えると、友は「ああ」と言った。


「過去の生で男だったのに、今は女の身体に転生したということだろうな。記憶が戻ったら驚きもあるだろうし、受け入れにくいのも無理からぬ。」

「その通りだ。」

「こういう場合、本人が乗り越えなければならない。誰にも助けてもらえない。」

「ねえ、任ちんはまだ前世のことを受け入れられないみたい。前世は不当に命を落としたから、すごく恨んでいるって。」

「過去に執着してしまう人……か……実はあたしも中国の武術界の友人に連絡を取ったんだ。」

「中国の武術界に……なんで?」

「茜の前世は幼少時に黄固培に師事し、暗行御風八勢アンハンユーフォンバーシーを学んでいたらしい。過去あたしは黄さんと一面識ったことがある。」


 明日奈と杏珠は互いの表情を見て、同時に驚いていた。


「ちょっと待って……アン……アン……アンハ……」

暗行御風八勢アンハンユーフォンバーシー。」


 明日奈はリュックからノートと筆を取り出し、友に書いてもらうように頼んだ。友は上に「暗行御風八勢」という6文字の中国語を書き、ついに明日奈と杏珠は彼が何を言っていたのか分かった。


「わ!何これ?」

「暗行御風八勢は中国武術の一つです。」

「えっ、それってすごい武術なの?」

「そんなにすごい武術じゃないと思うよ。普通の中国武術に過ぎない。」

「……本当にそうなの?」


 明日奈の印象では、茜は小さいころから怪物的な身体能力を見せていたので、異能者ではないかとさえ疑った。それが普通の武術だと言うのは、全然信じられない。


「その……茜の力は……」


 友がさらに言いたいことがあると感じたその瞬間、病院から奇妙な気配が伝わってきて、すぐにそちらに注意を向けた。


「二馬さん?」

「すみません、病院のあそこらへんがちょっとおかしい。」

「もしかして殺し屋が現れた?」

「はっきりしない……念のために、あたしはここにいる方がいいかな。」

「茜をお願いしたんだから。」

「安心してください、必ずあの子を守ります。髪の毛ほどでも傷つけさせません。」


 友は車を降りる前に尋ねた。


「そういえば、明日奈……」


 明日奈は携帯電話「ムーバSH505i」を取り出した。


「心配するな、私のお抱えの運転手に家まで送ってもらうから。」


【現在公開可能な情報】

ムーバSH505iは、シャープが開発した、NDDトコモによる第二世代携帯電話端末製品。

――ソース:Wikipedia

はは、わかりました!

NTTドコモじゃないの!NDDトコモなの!

ここは並行世界だから、日本最大手の移動体通信事業者はNDDトコモなんだって!

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