第27話 やらかしたようです

「ねえ? ベルってさ、実はどっかの国で貴族令嬢だったでしょ?」


 村の案内をしていたララナが、悪戯っぽい笑顔で訊ねた。ポルタにいた時点で、ほぼエストロニア王国と思われるのだが、あえて曖昧にしてくれている。


「な、なんですか? いきなり」


 僅かに動揺するベルフェルミナを見て確信したのか、ララナが目を輝かせた。


「それも、男爵なんかより爵位が上の伯爵令嬢とか?」

「はっ、初めてお会いした時にも言いましたが、わたくしは商人の娘です。伯爵令嬢なんてとんでもありません。小さな村で生まれ、平民として育ってまいりました」


 ズバリ当てられ焦ったベルフェルミナが、必死になって平民アピールをする。


「だって、私なんかよりずっと貴族令嬢っぽいんだもん。御上品な立ち居振舞いとか、おしとやかな歩き方とか?」


 それを聞いてベルフェルミナの歩幅がほんの少し大きくなる。自分なりに荒々しく歩いているつもりだ。


「フフッ。じゃあ、魔法はどこで覚えたの?」

「気が付いたら、使えるようになっていました」

「え? 独学で? すごーい、天才だよ」

「いえいえ。そんなことないですよ。大して役に立たない魔法ばかりですので。わたしが本当に習得したい魔法は、きちんと誰かに学ばなくてはなりません」


 照れ隠しでベルフェルミナが苦笑いする。


「ふ~ん。でも、ベルに来てもらえてよかった。冒険者ギルドの連中はおっかなくてさ。あまり関わり合いたくないんだよね」

「カフェテラスで、突然『弟たちの魔法の先生になって』と声をかけられた時はびっくりしました」

「最初はお洒落な人がいるな~って思っていたんだけど、ベルとマリーが魔法の話を始めたから、つい声をかけちゃった」


(お、お洒落? ……フフフ)


 思わずベルフェルミナがニヤける。マリーから散々派手だなんだと注意されたが、そんなことはすっかり忘れていた。


「それに、冒険者ギルドで『黒髪緋眼の魔女』の噂を聞いていたから、もしやと思ったんだよね。でも、ベルはぜんぜん悪そうな人に見えないし、すぐに別人だと思ったよ」

「え、っと? こくはつひがん……?」

「知らない? 私たちが出会う少し前に『黒髪緋眼の魔女』って人が、伝説の聖女が祀られた聖なる柱を、跡形もなく吹き飛ばしたらしいよ」

「聖なる柱……ですか?」

「うん。高さ三十メートルもある巨大な岩だって」

「――――っ!」


(わ、わたくしかも……どうかお許しください、伝説の聖女様。ワザとじゃないんです。門番がやれと言ったから仕方なくやったんです。すみません。嘘です。ついカッとなってやってしまいました。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)


 額に冷や汗を滲ませがら、ベルフェルミナは心の中で懺悔しまくった。


「しかも、聖女様を消し去った後に、腹を抱えて大笑いしたんだって。いったいどんなふうに育ったら、そんな極悪人になるんだろうね?」


(はうっ。大笑いしていたのは、マリーなんですけど。ていうか、聖女様を殺したみたいに言わないでっ)


「あーっ、あーっ、ララナ様? あの店は何を売っているのですか?」


 居た堪れなさ過ぎて、ベルフェルミナは涙目になっていた。


「いや。あれ、ふつうの民家だから。どうしたの? ベル? 様子が変だけど」

「す、すみません。知らない土地に来て、舞い上がっているのかしら、ハハハ……」


 しゅんとするベルフェルミナを見て、ララナが優しく肩を抱いた。


「そっか、ごめん。ポルタから三日も馬車に揺られて、今さっき着いたばっかだもんね。私は慣れているからいいんだけど、ベルは疲れが溜まっているよね。村の案内はまた今度にして屋敷に戻ろっか」

「はい。お気遣いありがとうございます……」


 本当は、肉体よりも精神的なダメージのほうが大きいベルフェルミナであった。

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