第5話渡部エアライン

俊一は自動車のエンジンを掛けた。

ブレーキを踏みながら、シフトをPからDに切り替え、ゆっくりアクセルを踏んだ。動きが悪い。

「俊君、サイドブレーキ」

「あっ、悪い悪い」

俊一はサイドブレーキの存在自体を忘れていた。サイドブレーキを倒し、出発した。

駐車場から、道路に出る際、

「右よし!左よし!」

1号線を目指した。

「本日は、渡部エアラインご利用誠にありがとうございます。機長の俊一でございます。現在、当機は地上ゼロメートルを走行中であります。到着地、京都の天候は晴れ。途中休憩も入れて5時間のドライブ時間になります。どうど、空の旅をお楽しみ下さい」

俊一は、昔の勘を取り戻した。

「ねぇ、俊君、何チンタラ走ってるのよっ!」

と、こずえが言うと、

「パパ、初心者マーク付けてる人に追い抜かれたよ!」

洋介がバカにする。

「みんな、道路交通法を知っているのかな?標識のない道路の最高速度は60キロメートルなんだよ!」

俊一はニヤリとした。

そして、信号機が黄色になると停止した。

「パパ、何で止まるの?間に合ったじゃん」

俊一はチッチッチッと人差し指を振り、

「信号機の黄色は、止まれなんだよ」

「ウソだ」

「ウソじゃない!ねぇ、こずえ、洋介に説明してくれよ」

「……ばか正直に止まらなくてもいいのに!」

「お、オレはお前らの命を預かっている。危険な運転はしたくない」

信号機が青になった。次の交差点を左折だ。

「横断歩道、一時停止、左折します。巻き込みよし!」

「さっきから、うるさいわねぇ~。わたしは、自動車学校の先生じゃないよ」

「オレの仕事は作業員の命を預かっている。運転も同じだ。だから……」

「うっさいわねぇ。何でここで停まるの?」

「えっ、信号機赤じゃん」

こずえはため息をついた。

「下の緑の矢印信号が直進の点灯してるじゃない」

「あはは、これは路面電車の信号の矢印だよ」

「バーカ。路面電車の矢印信号は黄色よ。緑の矢印信号は車。偉そうに、道路交通法を説明して矢印信号の意味も分かってないわね」

俊一はバツが悪そうに、アクセルを踏んだ。

1時間後。

三重県四日市市の道路に差し掛かったとき、コンビニでトイレ兼タバコ休憩を取った。

俊一はタバコに火をつけて、深く煙を吸った。

【後、4時間近く運転か~。京都の道を走るの怖いなぁ。兎に角、オレのドライブテクニックで、うるせぇ家族を夢の中に落としてやろう】


再び車は動き出した。

順調に俊一は運転を続けた。

「みんな、寝ていいぞ。京都に着いたら起こしてやるから」

そう、俊一が言うと、

「誰が寝るもんですか!あなた、やっぱりペーパードライバーね」

「何だとっ?何を根拠にっ!」

「あなた、コンビニ出た所から、左のウィンカー点きっぱなしよ」

「……あっ」

「パパ、だっせぇ~。だから、後ろの車がどんどん追い越したんだぁ~」

俊一は運転しながらガムを噛んでいたが、余りの悔しさで舌を噛んだ。

「いって~」

「どうしたの?」

「舌噛んだ」

「バカじゃないの?あーんして」

俊一は、運転しながらあーんした。

「あなた、血だらけじゃない!」

「だ、大丈夫。男に血は勲章よ」

俊一は、今夜はとことん飲んでやろうと決心した。

「あなたっ!前、前!」

「どうしたの?ハッ!!」

俊一はブレーキを踏んだ。道路に子猫がいた。

ハザードランプを点けて、俊一は車を停車させ、後方からの車が来ないのを確認してから車を降り、子猫に近付いた。

子猫は、ミューミューいっていた。ケガはしてないようだ。危ないので、車内に運んだ。

「かわいい、子猫だね」

「ママ、この子猫どうする?」

と、洋介はこずえに尋ねた。

「俊君、これも何かの縁ね。この子猫飼いましょうよ」

「う、うん」

人間3人と猫1匹の旅が始まった。

途中、ホームセンターに寄り、かごとエサと猫砂を買って、京都に向かった。

寄り道をしたため、運転時間が5時間を越えた。

京都に到着したのは、朝8時に出て昼の3時だった。

俊一が車を降りたとき、車体の後方に初心者マークが貼り付けてあった。

それは、こずえが着けたと洋介が言った。

では、京都での旅の話しを次回書こう。

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