第2話ペーパードライバーのウソ
彼は、妻が作った弁当を食べながら、ペットボトルのお茶を飲んだ。
今日の弁当は、唐揚げと卵焼き、ウィンナー、ほうれん草のお浸しで、ご飯にはゆかりのふりかけがかかっていた。
ご飯以外は、全て冷凍モノだが、こずえは休日なのに、俊一のために弁当を作ってくれるところがありがたいと感じていた。
美味しく食べて、俊一は喫煙所でタバコを吸っていた。
すると、若い作業員が、
「監督、いつも休日は何をして過ごしてるんすか?」
と、突然言われて、
「オレか?オレは、寝てるよ。昼まで。それから、パチンコかなぁ」
「いいっすね。僕は彼女にせがまれて、買い物に付き合わされます。僕が車を運転するんですが、彼女、運転を交代してくれないんっすよ!ペーパードライバーはこれだから、嫌なんすよ」
彼は、缶コーヒーを飲みながら喋っていた。
「運転は交代してくんないのは、きいついな」
「はい。監督はやはり遠出の時は、交代してくれますか?奥さんが」
俊一は自分がペーパードライバーである事を隠すように、
「いや、殆んどオレが運転するよ。お前、ペーパードライバーには気を付けろよ!そう言うヤツが運転すると、ガードレールなんかで擦るからなぁ」
「うわぁ、最悪っすね」
俊一は、ウソをついてしまった。そのペーパードライバーは自分なのだ。
ガードレールで傷つけたのも自分なのだ。
昼休みが終わると、フィリピン人乗組員にホールドの蓋をさせて、その上にコンテナをガントリークレーンで積んだ。
あの若い作業員は腕が良く、1時間に45本のコンテナを積み込んだ。
16時半に作業は終了した。帰りは、その作業員が自宅まで車で送ってくれた。
途中、コンビニでその子が好きな缶ビールを買ってあげた。
もちろん、自宅で飲む用の。
彼は、レクサスに乗っていた。車体にキズ一つ無い。
車内は、甘い匂いがした。芳香剤にココナッツの絵が書いてあった。
「じゃあな。ありがとう」
と、車を降りたのはつい数分前。自宅マンションの駐車場で、渡部家のPorteを調べた。
キズ一つない。やはり、こずえの運転も上手いのか?
「ただいま~」
と、リビングに入ると、こずえは電話していて、洋介はYouTubeを見ていた。
洋介は俊一に気付き、
「パパ、お帰りなさい」
と、言った。彼は将来、YouTuberになりたいらしい。
電話が終わったこずえも、
「お帰りなさい」と、言う。
「俊君、再来週の京都、旅館に決めた。安かったわよ」
俊一は作業着を脱ぎながら、
「で、いくら?」
「一泊二日で1人8800円。安いでしょ?」
「うん。安いね。で、京都まで近鉄?」
「車だよ!ここは、一番安い手段で。大丈夫、わたしが行きも帰りも運転するから。1号線走れば、高速代も浮くし」
俊一はトランクス一枚になると、
「ゴメンね。オレがペーパードライバーで」
「もう、5年も運転してないんだから、あなたが運転したら、恐怖しか感じないと思うし。てか、俊君、そんな格好でリビング歩かないでよ!早くシャワー浴びてきなよ。しっしっ」
俊一を始め、家族は今度の京都旅館が楽しみでならなかった。
3年ぶりの京都。
俊一は生八つ橋を食べたかった。やはり、ニッキ味が一番だと思いながら、シャワーで汗を流した。
今は紅葉の季節。渡月橋付近のカエデはもう赤いだろう。
夜のご飯は、お好み焼きだった。生地にヤマイモを使うのが渡部家の常だった。
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