ドライバー

羽弦トリス

第1話計画

渡部家わたべけの実質的支配者のこずえが朝から、パンフレットのページを捲っていた。今日は土曜日。土日休みの彼女は一人息子の洋介に、トーストを焼いてマーガリンを塗りイチゴジャムを渡して、自分の好きな量を乗せなさいと小瓶を持たせた。

洋介は、自分でイチゴジャムを塗り、牛乳をプラスチックグラスに注いでいる。

その相方の俊一しゅんいちは忙しなく、部屋着から作業着に着替えて、こずえお手製の弁当を持ち、「じゃ、行ってきます」

と、言って玄関の扉を開くと、少し遅れて、

こずえと洋介が、

「行ってらっしゃ~い」

と、言った。

こずえはパチンコの台の部品を製造する会社の経理で、俊一は港湾荷役会社の現場監督である。

だから、俊一は土日は関係ない仕事に就いて20年になる。

彼は、電車通勤をしていて、さらに現場の岸壁までは荷役会社のコースターに乗るので自動車を運転することは無い。

こずえは電車では不便な場所に会社があるため、自家用車で通っている。

5年前、こずえが購入した車、トヨタのPorteを俊一が運転したところ、ガードレールに車の側面を擦って修理代が20万円したので、それ以来こずえは俊一に車の運転をさせていない。

彼はその頃から自動車を運転していないので、ペーパードライバーと化した。


こずえは中学生の洋介に、再来週の土日に京都に旅行する話しをした。

「洋介、京都に行ったらどこ行きたい?」

洋介は、トーストをかじりながら、

「ん~、やっぱ金閣寺とか?」

「金閣寺かぁ~。金閣寺のお茶屋さんの抹茶は美味しいんだよね」

そう、こずえは言いながら、パンフレットの金閣寺のページを読んでいた。

「ねぇ、ママ。パパ土日、会社休むの?」

と、まだ自分の親を「パパ」、「ママ」と呼ぶ洋介が尋ねた。

「そうよ。パパは再来週末は有休取ってもらったの」

洋介は、安心したのか、

「それなら、良かった。で、京都まで何で行くの?」

「車だよ。ここから1号線をず~っと走れば、京都に着くからね」

「泊まるの?」

「うん。だから、旅館かホテルか迷ってるの」

「僕は旅館がいい」

「どうして?渋いわね」

「旅館の方が京都って、気がするんだよね」

と、言うと牛乳をごくごく飲んだ。こずえはパンフレットの旅館欄をチェックしていた。

息子の朝食が終わり、しばらくするとこずえは助手席に洋介を乗せると、自動車販売代理店に向かった。

目的はPorteの定期点検であった。タイヤの溝がだいぶ磨り減っていたので、タイヤ交換した。

こずえは頭の中で、京都のどこを訪ねるか色々考えていた。

ま、金閣寺は決定している。

1人で運転するのは疲れるが、また、車を傷つけられたら堪らない。

俊一は、お金だけ出してくれるだけで良いのだ。

その頃、俊一はボーイングの機体の一部を貨物船のホールドに積み込む作業を指示していた。


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