第15話 ぼっち、魔王に戦慄する

 ヒヲリさんとのコラボが終わってから数日後、ふと見るとチャンネル登録者数が40万人を超えてる。

 コラボでそんなに?

 登校時、スマホの画面を見て驚いちゃった。

 今は収益化の申請中だけど通るのかな?

 実は事務所への所属を考えているんだけど、これで通らなかったら切音さんに呆れられるかもしれない。

 そう考えるとドキドキしてきた。

 あれからヒヲリさんとはそこそこ話せるようになっている。

 そして学校だとキャラの違いに戸惑う。


「藻野さん、一緒に食事でもどう?」

「あ、うん……」


 優雅な振る舞いに、あのアゲアゲテンションの子と同一人物とは思えない。

 ちなみに武器を作った報酬は遠慮した。

 私にとっても勉強になることばかりだったし、何より楽しかったから。

 ヒヲリさんのチャンネル登録者数が増えたみたいだし、それならそれでいいんじゃないかな。

 学食でヒヲリさんがサイクロプスカツカレーを頼んで、私はお弁当。

 向かい側に座っているヒヲリさんの顔が見えないほど、サイクロプスカツカレーが大きい。

 それより気になることがあった。


「な、なんか、見られてるような……」

「顔出し配信してるから当然でしょ」

「やっぱりぃ……」

「気にしていたら配信活動なんかできないわ」


 こ、この気が滅入るほどの素っ気なさ。

 やっぱりちょっと馴れ馴れしかったかな?

 でも一緒にコラボしたし、嫌なら一緒に食事なんかしないよね。

 できればまた今度、コラボしたいな。

 でも厚かましいかな? 誘う勇気が出ないよぅ。

 いや、今の私ならいける。いけるったらいける!


「あ、あの、矢城さ……」

「よう! お前ら、こんなところで仲良くメシを食ってるのか!」


 やってきたのは賀木タイショウ君と小尾ウランさんだ。

 二人仲良くやってきて、遠慮なく私の隣に座った。

 この二人、苦手なんだよなぁ。


「なによ。せっかく藻野さんと食事しているんだから邪魔しないで」

「そう冷たいこと言うなって! 今日こそ伸びるコツを教えてもらうんだからな! 藻野がダメならお前でもいいぞ!」

「まだ言ってるの? 大体あなた、何年配信活動をしてるのよ」

「入学と同時に始めたから約三ヵ月だな! これがまた伸びねぇのよ!」

「たった三ヵ月で伸びるわけないじゃない」

「マジで!?」


 うーん、そういう話題もってくるんだ。

 幸い矢城さんが相手をしてくれているから助かるかな。

 私なんか何年もやってて登録者5人から増えたり減ったりしていたし、コツなんかわからない。


「そ、そうか! いくら有名配信者だって最初は底辺だったもんな! ウラン、よかったな! 俺達、まだいけるぜ!」

「でもチャンネル全体の再生数が落ちてるね」

「はぁ!?」

「あと登録者が三人減った」

「やめてくれぇ!」


 わかる。わかるよ。

 私も一人減った時はなかなか眠れなかったもん。

 趣味だからなんて割り切っていたけど、数値という現実からは目を逸らせなかった。


「まだだ、まだ終わらねぇ……。思い出せば、あの30万人超えのソルジャーズだって二年くらいは底辺だったって言ってたからな」

「切音は一年で100万人超えだけどね。伸びる人は一瞬で伸びるんだよね」

「ウラン! その事実は俺に効く!」

「藻野さんだってものすごい速度で伸びていったよね」

「藻野ォ! 頼む! 後生だからコツを教えてくれぇ!」


 ウランさん、こっちに振らないでぇ!

 ついにすがりついてきたよ! 


「藻野! お前を男と見込んで頼む!」

「おおお、お、女だからぁ……」


 タイショウ君、力が強くて引きはがせない!

 こんなに力があるなら――


「んだコラァアァーーーー!」


 し、心臓が止まるかと思った!

 なになに! 私!? 私なのかな!


「ん? おい、ありゃ下須一派と魔王じゃねえか?」

「えぇ?」


 タイショウ君が指した先には、いかにもな不良三人とジャージ姿の女性の先生がいた。

 あ、あれが魔王なんだ。意外と美人かも。


「クソアマよ、俺様になにか命令したか? もう一度だけ言ってみろや」

「えぇー? じゃあ、もう一回だけ言いますねぇ? ゴミはゴミ箱に捨てましょう」

「はぁ? てめぇが捨てろや」


 あわわわ! いかにもな不良がふわっとしてそうな先生に絡んでる!

 あの人が魔王? イメージと全然違うし、恐れられている割には絡まれてる?


「自分が捨てたゴミは自分で捨てましょうねぇ」

「だからてめぇで捨てろや……なっ!」


 不良が紙パックを拾ってから先生に投げつけた。

 あの、大丈夫、かな? あの人、魔王なんだよね?


「調子くれてっけどよぉ。俺のバッグにはA級ギルドの九狼頭がいるんだよ。あそこの総長はマジギレすっと何するかわかんねぇぞ?」

「それだけじゃねぇ。下須の兄貴は他にも同じA級の我亜巣斗にも顔が利くんだよ」

「だから教師どもはびびって下須さんには触れねぇのさ。魔王だか知らねぇが俺達はそんなもん怖くねえんだよ。失せな」


 ど、どっちも聞いたことがあるよ!

 たった九狼頭は九人のギルドだけど、数十人規模のフェニックスナイツすら恐れる最強最悪の集団とか!

 我亜巣斗はドラゴンすらまたぐとか、一夜で地区のダンジョンすべてを制覇したとか!

 やばいよ! 魔王でもやばいよ!


「そぉなんですかぁ……。それはそれとしてゴミはゴミ箱に捨てましょうねぇ」

「このアマ、マジ舐めてんなぁ。俺達が教師に手を出さねぇと思ってんのか?」

「これが最後です。自分で捨てましょうねぇ?」

「ぶっ殺すッ!」


 不良がついに殴りかかっちゃった! やば――


「げほッ……!」

「グダグダうるせぇな。もうキレたから殺すわ」


 魔王の拳が不良のお腹にめり込んでいる。

 あ、不良が崩れるようにして倒れちゃった。

 ていうか雰囲気、変わりすぎぃ!


「あ、兄貴! おい! きょ、教師が生徒に手を出していいのかよ!」

「あ? ここはモンスターと命のやり取りをする人間を育てている学校だぞ? 世間一般の常識なんざ通用しねぇんだわ」

「ひいぃぃ! ぐぎゃぁッ!」

「あぶぅッ!」


 不良達がそれぞれ一発で魔王先生の足元に倒れちゃった。

 そして不良の手に紙パックを握らせているよ。


「捨てておけよ? 聞こえてないか」


 ちょ、ちょちょちょ!

 この時代にあんなのありぃ!?

 先生が生徒を痛めつけてる!

 皆、シーンってなってるよ!


「ところで九狼頭の総長は私の弟だから、後でお前のこと聞いておくわ。ウソだったら……はっ!?」


 どうかされたんですか?


「あらあら、私ったらぁ。皆さん、どうしたんですかぁ? まぁ! こんなところで寝ちゃって、悪い子ねぇ。ね、立てる? 保健室まで連れていってあげようか?」


 あまりに遅すぎる豹変!

 どうして私の周りにはこういう人が集まるんだろう?

 でもいいや。あの先生は一年生の科目を担当していなかったはず。

 だから少なくとも一年の間は関わらなくて済む。よかった。


「もう悪い子達ねぇ……ん?」


 あれ? 今、魔王先生がこっちを見た?

 気のせいだよね。気のせい気のせい。


「あなた、藻野さんねぇ。ちょうどよかった。放課後、生活指導室に来なさい」


――あいつ確か配信みたいな活動は大嫌いだったはずだよな!


 ここで私の意識は飛んだ。

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