第13話 ぼっち、キラーマシンになる

「今日もヒヲリのデュエル日和! 殺っていきまぁーす!」

「ぼ、ぼぼぼぼ、ぼっち、でぇす……ハハ……」


 なんでこうなったのかな?

 なんで私があのヒヲリさんとコラボ配信しているのかな?

 こんなつもりじゃなかったんだけど?

 と、とりあえず真似したほうがいいのかな?


『ちょwこれは予想外w』

『ひおりんとぼっちちゃんのコラボは熱い!』

『ぼっちちゃんガチガチやんけ』

『ぼっちちゃんの武器なにあれwww』


「きょきょきょーも、ぼっちのでゅえるびよりぃぃ……」

「アハハ! ぼっちちゃん、すーごく緊張しちゃってるねぇ! 真似しなくてもいいんだよっ!」


 ヒヲリさんこと矢城さん、キャラが全然違う!

 そういえば動画ではこんなキャラだった!

 学校ではクールな女の子だったのに!

 こ、こういうのも大切なのかな?

 そもそもなんでこんなことになったのかというと――


『切音の武士道チャンネル:正座して視聴しています』


 そうだよ、切音さんのアドバイス通りにしたから!

 この切音さん、私の家にきてからやたらとDMを送って来るんだよね。

 

【今日の調子はどうですか? 切音】

【ぼちぼちです。ぼっち】

【ぼちぼちとぼっちをかけたんですね。切音】

【そういうわけじゃなかったんです。すみません。ぼっち】


 みたいな日常的なやり取りを切音さんとしているなんて今でも夢みたいだ。

 それでつい嬉しくて、ポロッとヒヲルさんの件を言っちゃったのが始まりだった。


【ユー! コラボしちゃいなYO! 切音】


「軽快ィィ!」


【コラボ決定したか? 切音】


【コラボどうだ? 切音】


【ヒヲリさんとぼっちちゃんのコラボは面白くなるぞ。切音】


「わかったわかったわかったからぁ!」


 決壊したダムみたいな怒涛のDMがくるものだからコラボするって言っちゃった。

 これでやらなかったらどうなるかなんて想像したくない。

 というかこの人、実際に会った時と文章のノリが全然違う。

 クールで寄らば斬るみたいな雰囲気の人だったのに。

 いつの間にか敬語じゃなくなってるし。

 そんなわけで始まったばかりなのにすでに同時接続人数がすでに5万人を超えている。


「今日はぼっちんと一緒にオークダンジョンに潜りたいと思いまぁす!」

「ぼっちん!?」

「え? ダメ?」

「ダ、ダメじゃないけど……」


『ぼっちんw』

『了承してなかったのかよw』

『ひおりん楽しそう』


 き、気を取り直して今日はオークダンジョンだ。

 ゴブリンダンジョンよりも難易度が高くて全四層まである。 

 そしてオーク達はゴブリンよりも皮膚が厚くて、生半可な武器じゃダメージを与えられない。

 学校でも習ったけど、オークは初心者殺しと呼ばれているみたいだ。

 ゴブリンより少し強い程度と思って舐めてかかる探索者が返り討ちにあるとかないとか。


「じゃあ、ぼっちんは近接戦が不慣れということで私が先頭を歩きますねー!」

「お、お願いします……」

「ぼっちんも一応、近接戦できる装備してるんだけどね! 今日の私の装備はぼっちんに作ってもらったから期待していてねー!」

「い、いえーい……」


『ぼっちちゃん、片手に剣、片手にボウガン……』

『キラーマシンかよw』


 うん、私は剣とボウガンの二段構えの装備をしている。

 いい装備だと思ったんだけどキラーマシンってなに?

 よくわからないけど、これは普通の剣じゃないことはすぐにわかってもらえると思う。


「さっそくオークが来ましたねぇ! たぁぁぁぁッ!」


 ダンジョンに入るとオークが三体ほどやってきた。

 いつもならあわあわ言うところだけど、今日は頼もしいヒヲリさんがいる。

 ヒヲリンがさっそく新武器を起動させた。


「ビィィームサァァーーーーベルッ! ずばん!」

「グフォォォ!」

「だぁぁりゃあぁぁーー!」

「ぐふっ……」


 す、すごい。ヒヲリさんがあっという間に二体を倒しちゃった。

 そしてあの武器が役立っている!


「あ、あれが、私が作った、フレアサーベルです……。炎の刃で焼き斬るみたいな……はい」


『ちょwwなにそれww』

『ビームサーベルw』

『光ってるw』

『オークが生ハムみたいにスライスされたぞ!?』


 や、やった! 喜んでもらえた!

 って、こっちに残り一体がきたぁぁ!?

 しかも近い!


「ふごぉぉーーーー!」

「あああぁぁ! やややぁぁぁああぁぁ!」

「ふぐぁっ!」


 片手に持っているフレアサーベルを振り回したらオークが持っている武器ごと焼き斬っていた!

 その勢いで腕と体もすっぱり!


「はぁ、はぁ……な、なんとかなったぁ」


『普通はなんとかなる相手じゃないだろ!』

『武器ごと溶けてるやんw』

『うーん、やっぱり間合いの取り方がうまいんだよなぁ』

『くっころしてほしかった』

『↑消えてどうぞ』

『切音の武士道チャンネル:くっころ希望の方はぜひ私にお申し付けください』


 なんとかなったよ!

 このフレアサーベルがあれば、私みたいな運動オンチでも戦える!

 切音さんも言ってるけど、くっころってなんだろ。後で検索してみよ。


「ぼっちん、やっるじゃーん!」

「や、やっぱり学校とちがんふっ!?」

(一応、身元は伏せてね)

(はいいぃぃ!)


『おやおや?』

『密着いいすなぁ』

『近いぞもっとやれ!』


 ヒヲリさんに手で口を塞がれてビックリした。

 いきなり素に戻るから怖い。


「フ、フレアサーベルについてはですね……。メリットがたくさんあって……。ま、まず普通の剣より重量が少ないんです……。刃が炎なので……」


『やっぱりビームサーベルやん』

『ていうか当たり前のように炎も永久なんだよな?』

『もはやオーパーツ』

『なるほど(思考停止』


 ヒヲリさんの動画を見てこれしかないと思った。

 重そうな大剣を無理に振り回して、敵の攻撃を受けてしまう場面が多くて視聴者がイライラしていたんだよね。

 切音さんも強いモンスター相手なら苦戦することもあるけど、最大限の力を発揮しているように見えた。

 だったらまずは無理なく動けるような武器でのびのびと戦ったら、視聴者も気持ちいいんじゃないかなって思ったのだけど。

 ヒヲリさん、すごいノリノリでどんどん進んでいく。


「バッスバス切れちゃいますねぇ! 続いてあそこにいるフロアボスもぶっ殺しまぁす!」


 笑顔でフロアボスのオークナイトと戦いを始めた。

 笑いながら常に笑顔、それがヒヲリさんの配信コンセプトみたい。

 明るくてわかりやすい配信だなぁ。私も見習わないと。

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