第12話 ぼっち、相談される

 ヒヲリさんこと矢城さんに昼食に誘われちゃって足が震えている。

 まさか同じ学校だなんて思いもしなかった。

 まだ入学して三ヵ月しか経っていないとはいえ、さすがにぼっち極まりすぎている。

 午前中の授業が終わっていよいよ昼休みになった時、かすかにトイレに逃げようかなと思った。


「藻野さん、いきましょ」

「わっひゃい!?」


 ちゃんと迎えにきたよ! 行動に隙がない!

 ここまできたら逃げるわけにもいかず、食堂へ行くことにした。

 私はお弁当があるから学食は食べないけど、矢城さんはフォースきつねそば特盛を注文した。

 油揚げが四枚も乗っている上にどんぶりのサイズが大鍋みたい。

 この学食、どうなってるんだろ。なんであんなのあるの?


「急に誘ってごめんなさい。あなたの配信、実は観ていたの」

「ひぇっ!?」

「あの魔道具、どうやって作ったの? 誰から教わったの?」

「え、そ、それは、ど、独学で……」

「一人で? 師匠みたいな人は?」


 ちょ、こういうのが一番きついよ!

 質問攻めは勘弁してぇ!

 お弁当の味も何もわからないくらい緊張してるんだから!


「い、いない……」

「じゃあ、参考にした資料は? 本?」

「ほ、本とか読んで……」

「……またごめんなさい。質問ばかりでよくないわね」


 そう言い終えた矢城さんはそばを一気にすすった。

 掃除機みたいに勢いよく蕎麦がすすられて、その後は汁が吸引されていく。

 怖い。怖いよ、この人。人間じゃないかもしれない。


「ふぅ……。賀木との話でわかったと思うけど、私も配信活動をしているの」

「ヒ、ヒヲリさん、ですよね?」

「やっぱり知ってるのね」


 ヒヲリさんといえば、大剣を振るってモンスターを叩き斬る豪快な姿が印象的だったな。

 それなのに目の前に現れても気づかないんだよ、私。


「藻野さん、折り入ってお願いがあるの」

「お願い、て……」

「私に魔道具を作って!」

「えぇぇ!?」


 いきなり矢野さんが頭を下げてきたよ!

 あ、頭が、真っ白に――


「……藻野さん?」

「……ふぁい」


 いけない、いけない。

 あまりにいろんなことが起こりすぎて頭の中で処理しきれなくなってきた。


「今朝は賀木にあんなこと言ったけどね。私のチャンネル、最近伸び悩んでいるの」

「え、そ、そうなんですか……?」

「再生数が目に見えて落ちているし、登録者数も増えず、ライブの同時接続人数も落ちている。最初は気にしなかったんだけどね」

「ま、魔道具は、それで?」


 切音さんのチャンネルだけじゃなく、最近は他の動画をほとんど見てなかった。

 まさかそんなことになっていたなんて。

 でもそんなの私に相談されてもわからないよ。

 しかもなんで魔道具?


「原因は……たぶんマンネリ。私は剣で戦うスタイルだけど、そんな探索者は他にたくさんいる。そこで気づいたの。若い女性探索者の配信というだけで注目を集めたけど、それもいつまで続かないってことにね」

「そんな……」

「だからここら辺で新しい切り口が必要なの。だから藻野さん、私に魔道具を作ってほしい」

「で、でで、できませんよぉ! 私なんかがそんな!」


 とんでもない人からとんでもないお願いをされても困る!

 大体、私なんかついこの前バズっただけのペーペーの陰キャだから!


「無茶なお願いなのはわかってる。でも剣一つじゃやっぱり限界なのよ。今の私には藻野さんの魔道具みたいな派手さが必要なの。もちろん無料とは言わない。きちんと報酬を支払うわ」

「ほ、ほーしゅーって……」


 矢城さんはかなり真剣だ。

 人に話しかけたり頼みごとをするのがどれだけきついかなんて私が一番よくわかっていた。

 矢城さんくらいの人でも悩んで考えた末に私にお願いしたんだと思う。

 それは切音さんだって同じなんじゃないかな。

 あの事務所への勧誘だってきっとそうだ。

 

――あんたはもう少し自信を持ちなさい


「わ、わかり、ましたっ……」

「本当に!?」

「私なんかが、お、お力になれるか、わかりませんけど」

「ありがとう!」


 矢城さんの表情がパッと明るくなった。

 すごくきつそうな人だと思っていたのに、こんな顔ができるんだ。

 そうだよね。誰だって困ったり悩むことくらいあるよね。


                * * *


 家に帰ってから私は剣闘士ヒヲリのデュエルの動画をひたすら視聴した。

 ヒヲリさんは見た目に似合わず、大剣でモンスターを叩き斬るという戦闘スタイルだ。

 切音さんが静だとしたらヒヲリさんは動かな。

 見てるだけでこっちが怯んじゃいそうな迫力のある動画ばかりだ。

 それで動画を視聴した結果だけど――


「うーん……わかったようなわからないような……」


 動画を再生するうちに切音さんとの違いがわかったような気がした。

 それから私はアーカイブに残っていたライブ動画を含めて再生し始める。

 深夜になっても私はひたすら視聴し続けた。


「あ、あれ? 今のなんか変だったなぁ」


 矢城さんが大剣で戦っている相手はコボルトキング。

 ゴブリンよりも素早い相手だから、大剣だとなかなか厳しい相手なのかな。

 矢城さんの動きを見ているうちに、気がついたら私は魔道具開発に着手していた。


「これかな。これだったらいいな。矢城さんに必要な武器……」


 必要な素材は明日から買い足していこう。

 今は作れる部分だけ作っていく。

 これがうまくいけば、矢城さんは気持ちよく戦えるはず。

 あんなに苦しそうに戦わなくてもすむはず。


「そうだ、ついでに私の分も作っちゃお……あ、いけない!」


 私は慌てて配信を始めることにした。


『こんばんはー』

『きたぜ!』

『最終兵器ぼっちが起動したようです』


「さ、さいしゅーへいき……?」


 最終兵器ぼっちってなに!?

 なんかすごく情けない響きがする!

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